51 / 103
第二部(アレク編)
24
しおりを挟む
※sideアレク
茶会当日は、本来ならばオスカー殿と訓練をする日だった。1日分、アニーと出会う機会を損したことはかなり惜しい。アズール殿下の専属騎士になればこういうことが増えるのだ。気が進まない……。
アズール殿下とオーキッド殿下の後ろに立ち、その身をお守りしながら、茶会の様子を窺う。
先日言っていた通り、フォーサイス公爵令嬢とモンティアナ嬢にしか興味はないようで、他の令嬢とは軽く話すだけで席を移動している。オーキッド殿下に至っては微笑んでいるだけに近い。
ようやく件の二人のいる席に着くと、ここで初めてお茶をメイドに頼んでいた。しっかり話をするつもりのようだ。
アズール殿下がフォーサイス公爵令嬢と、オーキッド殿下がモンティアナ嬢と話していると、オーキッド殿下から私に対して話が振られ、私がスタングロム侯爵家の方々と面識がある旨などをお話しした。
「アレキサンダーとモンティアナ嬢はよく話すような仲なのかな?」
「よく話す……というほどでは。アレキサンダー卿がお越しになった日には夕食をご一緒するので、皆で話す際に私も参加するというくらいでしょうか」
「夕食!?」
モンティアナ嬢の言葉に驚いたオーキッド殿下が勢いよくこちらを振り返る。なかなかリラックスしてお話をされているようだ。
「妹君のご厚意で、訓練後に夕食をいただいております」
「アレキサンダー卿のために妹が毎週手料理を作っているので皆楽しみにしているのです」
「私のため!?」
あれは俺のためにしてくれていたのか!? てっきり、普段から手料理を作っていて、俺はついでに誘ってくれているものだと。
「えっ、違うのですか?」
「アドリアーナ嬢が料理を好んでしておられるのかと」
「ですが、アレキサンダー卿がいらっしゃる日のために練習をして、当日振る舞ってくれているので、アレキサンダー卿のためだと思いますよ?」
わざわざ練習までして、俺が行く日に合わせて振る舞ってくれていたなんて。
「私の、ため……」
嬉しい。もしやアニーも再び俺と、と思ってくれているのだろうか? いやいや、前の人生では出来なかった料理を覚えて、俺に食べさせるという叶わなかった行為をしてみているだけかもしれない。
どうしても期待してしまう自分をなんとか落ち着ける。だけど、アニーと過ごした日々は、本当に幸せだったから。アニーもそう思っていてくれたらと、願う自分は止められない。
茶会の席に王妃陛下がお越しになられ、両殿下は退席した。王妃陛下とオーキッド殿下があまり接することの無いようにとのアズール殿下の配慮なのだが、オーキッド殿下は王妃陛下に対しても終始微笑んでいられる胆力のあるお方なので、それはあまり必要はないかと思われる。
「兄さん、私はスタングロム侯爵令嬢と婚約してもいいかな?」
「あぁ、僕はフォーサイス公爵令嬢と、と思っていた」
「じゃあ、ちょうどよかったね。アレキサンダーも、護衛ありがとう。楽しかったよ」
「光栄です」
「それじゃあね」
去って行くオーキッド殿下の背を眺めながら、アズール殿下が呟いた言葉がその場に切実に響いた。
「僕も、恋にうつつを抜かしてみたい」
誰も、何も言えなかった。
茶会当日は、本来ならばオスカー殿と訓練をする日だった。1日分、アニーと出会う機会を損したことはかなり惜しい。アズール殿下の専属騎士になればこういうことが増えるのだ。気が進まない……。
アズール殿下とオーキッド殿下の後ろに立ち、その身をお守りしながら、茶会の様子を窺う。
先日言っていた通り、フォーサイス公爵令嬢とモンティアナ嬢にしか興味はないようで、他の令嬢とは軽く話すだけで席を移動している。オーキッド殿下に至っては微笑んでいるだけに近い。
ようやく件の二人のいる席に着くと、ここで初めてお茶をメイドに頼んでいた。しっかり話をするつもりのようだ。
アズール殿下がフォーサイス公爵令嬢と、オーキッド殿下がモンティアナ嬢と話していると、オーキッド殿下から私に対して話が振られ、私がスタングロム侯爵家の方々と面識がある旨などをお話しした。
「アレキサンダーとモンティアナ嬢はよく話すような仲なのかな?」
「よく話す……というほどでは。アレキサンダー卿がお越しになった日には夕食をご一緒するので、皆で話す際に私も参加するというくらいでしょうか」
「夕食!?」
モンティアナ嬢の言葉に驚いたオーキッド殿下が勢いよくこちらを振り返る。なかなかリラックスしてお話をされているようだ。
「妹君のご厚意で、訓練後に夕食をいただいております」
「アレキサンダー卿のために妹が毎週手料理を作っているので皆楽しみにしているのです」
「私のため!?」
あれは俺のためにしてくれていたのか!? てっきり、普段から手料理を作っていて、俺はついでに誘ってくれているものだと。
「えっ、違うのですか?」
「アドリアーナ嬢が料理を好んでしておられるのかと」
「ですが、アレキサンダー卿がいらっしゃる日のために練習をして、当日振る舞ってくれているので、アレキサンダー卿のためだと思いますよ?」
わざわざ練習までして、俺が行く日に合わせて振る舞ってくれていたなんて。
「私の、ため……」
嬉しい。もしやアニーも再び俺と、と思ってくれているのだろうか? いやいや、前の人生では出来なかった料理を覚えて、俺に食べさせるという叶わなかった行為をしてみているだけかもしれない。
どうしても期待してしまう自分をなんとか落ち着ける。だけど、アニーと過ごした日々は、本当に幸せだったから。アニーもそう思っていてくれたらと、願う自分は止められない。
茶会の席に王妃陛下がお越しになられ、両殿下は退席した。王妃陛下とオーキッド殿下があまり接することの無いようにとのアズール殿下の配慮なのだが、オーキッド殿下は王妃陛下に対しても終始微笑んでいられる胆力のあるお方なので、それはあまり必要はないかと思われる。
「兄さん、私はスタングロム侯爵令嬢と婚約してもいいかな?」
「あぁ、僕はフォーサイス公爵令嬢と、と思っていた」
「じゃあ、ちょうどよかったね。アレキサンダーも、護衛ありがとう。楽しかったよ」
「光栄です」
「それじゃあね」
去って行くオーキッド殿下の背を眺めながら、アズール殿下が呟いた言葉がその場に切実に響いた。
「僕も、恋にうつつを抜かしてみたい」
誰も、何も言えなかった。
715
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる