勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第三部(貴族学校入学編)

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※sideユウカ

「いや、俺のパートナーはリリー嬢に決まってるんだ。大事な友人が婚約者を俺にと任せてくれたんだから」

「友人の婚約者……?」

 その侍女が? 友人って、まさか。まさか嘘でしょ!?

「正式な発表はまだだが、リリーは俺の婚約者だ。俺は兄上の婚約者であるアドリアーナ嬢のパートナーを務めなければならないから、親友であるルーカスに頼んだんだ。悪いが、ルーカスのパートナーになるのは諦めてくれ」

 立ち上がったウィリアムが私だけじゃなく教室中に聞こえるようにそう言った。
 教室が静まって『やっぱりまだ知らなかったのよ』『先週から噂になってたのに』というヒソヒソ声が聞こえる。

「ど……どうしてウィリアム様が、そんな侍女をしているような令嬢と?」

「君はリリーの何を知っていて、そんな戯言を抜かしているんだ?」

「え……?」

「俺とアドリアーナ嬢は幼い頃からの友人だ。リリーがアドリアーナ嬢の侍女になった3年前から俺は彼女を知っている。週に一度は出会って言葉を交わしてきた。彼女がどんな女性か、俺がアドリアーナ嬢の次に知っている。その俺が、婚約者にと自ら望んで申し込んだんだ。そもそもリリーを愛おしく思う理由なんて、俺だけが知っていればいい」

 ……なんで私がウィリアムにこんなことを言われてるの? 意味が分からない。ウィリアムは私を好きになるはずなのに、私以外の女のことが愛おしいなんて。

「ウィリアム、もうやめなさい。リリーのことであなたが苛立っているのは分かるけれど、ユウカ嬢は何も悪くないでしょう?」

「あぁ……まぁ、そうだが」

「ごめんなさいね、少し気が立ってたみたいなの」

「…………っ!!」

「ユウカ嬢!?」

 アドリアーナが話しかけてきたのを無視して、私は教室を飛び出した。

 何よ。なんで私がアドリアーナにフォローされなきゃなんないのよ! まるで私が聞き分けのない女みたいになってしまったじゃない!
 バグってる! こんなのゲームと違いすぎる。アドリアーナがちゃんと悪役をしないから、アドリアーナがウィリアムやルーカスをおかしくしてる!

 しばらく校内を歩いたけれど、イライラが収まらない。どうしたらウィリアムとルーカスを元に戻せるだろうか。やっぱりアドリアーナが悪役令嬢として認識されなきゃ話にならないわよね。なら、パーティーでのイベントの時に……

「ユウカ嬢? 今日はいつもより少し早いね? 昼食は済んだの?」

「ジェイデン様!」

 腹立ち紛れに歩いていたら、いつの間にかジェイデンに会えるガゼボの前まで来ていたようだ。
 ジェイデンは昼休みをよくこのガゼボで過ごしている。自分に群がる女生徒から逃げたい時はここにいるのだ。だけど私は他の女子とは違う。私はジェイデンから算術を教わるだけの真面目な生徒で、こんな女の子もいるんだと興味を持たれている。

「何だか今日は様子が違うね。何かあったの?」

「ダンスパーティーのパートナーのことで、ちょっと……」

「あぁ、懐かしいな。おいで、座って話そう」

 やっぱりジェイデンは優しい。ゲーム通りに私を好きになってるんだ。私はイライラがかなり落ち着いたことを自覚した。

「それで、パートナーが決まらなくて悩んでる?」

「さっきクラスメイトにパートナーになって欲しいとお願いしたんですけど、断られちゃって……」

「それは、そういうこともあるよね」

「でも、パートナーにと誘ってくれた人達は何だか気が進まなくて……」

「うん、そういうこともあるね」

「だから、どうしたらいいんだろうって悩んでるんです」

 ジェイデンが笑う。馬鹿にしているような顔じゃなくて、可愛いねと言われているような優しい笑顔。あーもうジェイデンだけが癒しだよ。

「気が進まなくても、誘ってくれた中から選ぶしかないんじゃないかな。ダンスパーティーまでもう一週間もないし、誘ってくれた男達も君のことは諦めて他の令嬢と組む頃だから」

「えぇ!? 私がまだ返事をしてないのに?」

「時期が時期なだけに返事が無いことが返事だと思われるだろうね。悩んでる暇はあまりないと思うよ?」

「そんな!」

「すぐにでも行った方がいいんじゃないかな」

「えぇ、っと……じゃあ失礼します!」

 私は慌ててガゼボを出て、ブラウン男爵令息を探した。とりあえず身分より顔。私は王妃になる身だから、男爵令息か伯爵令息かなんかで悩む意味はない。そんなことより一緒にいてもいいと思える顔じゃないと。
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