聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【22話】

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 本日のサイヒは宦官衣装ではない。
 パッと見、魔術師に見えるように紺色のローブを羽織っている。
 髪も普段と違いを持たせるために、高い位置で1つ括りにされている。
 宦官のサイヒと同一人物とバレない様に【認識阻害】は微弱にかけてある。
 これで普段よりは存在感が少しは増すだろう。

 何せ今回は”ルークには魔術師の手駒が存在が居る”とアピールするのが目的だからだ。
 存在感がなければ折角のこの格好の意味も無い。

「サイヒはローブも似合うのだな」

 頬を赤らめてルークが呟いた。

「正装のルークも美しくて私は良いと思うぞ?」

「そ、そうであろうか!?」

「うむ、とても良く似合っている」

(この2人は一々イチャつかないと気が済まないのだろうか……)

 今日もすでに胃が痛くなりつつあるクオンだ。
 色んなつてでかなりのストックがある胃薬は数日で無くなりそうである。

 だが確かにローブ姿のサイヒはいつもと違う魅力があった。
 髪が高い位置で纏められているため、白く細い首が露になっている。
 ダボっとしたローブは腰でいったん絞まれているため、腰の細さが際立っていた。
 普段は言動が男らしいので気になった事は無かったが、こうも印象が変わるとサイヒの容貌は中性的であったことに気づく。
 少年とも少女とも見れる姿は見る者の視線を奪うだろう。

 これなら宦官のサイヒ=ルークの味方の魔術師とは誰も思わないはずだ。

「では王宮にお邪魔させていただこうか」

「それは良いのだがサイヒは宦官の仕事はどうするつもりだ?ほっとく訳にもいかないだろう?」

 クオンが頭に”?”を浮かべている。

「ソレについては心配ない。【式神】に仕事をまかせてある」

「式神?」

「うむ、自分そっくりの簡易使い魔みたいなものだ。東の方の魔術だぞ。この術のお陰で午後からはのんびりマロンとお茶できる訳だ」

「何と言うか、器用だな…」

 魔術師としての力が高いのは分かっていたが、まさか大陸の東の方の術まで取得しているとは。
 顔にこそ出さないがクオンは感嘆していた。
 そして心から思う。
 宦官志望の意味は分からないが、この国に忍び込んでくれていて良かったと。

「さてでは王宮へ向かおうか。ルーク、クオン、私の手を取ってくれ」

「馬車に乗らないのか?」

「【空間転移】の方が速い。ルークの気配が残っている自室に一気に飛ぶぞ」

 すでにサイヒと手を繋いでいるルークが尋ねる。

「サイヒ、クオンと私が手を繋ぐのではいけないのか?」

「いや、特に問題は無いが?」

「ではクオンは私の手を持て」

「職権乱用が酷すぎますよ殿下…」

 ルークのサイヒへの独占欲にクオンも呆れかえるしかない。
 仕方なしに主であるルークの手を取る。

「では手を離すんじゃないぞ。一気に飛ぶ」

 【空間転移】

 ぐにゃり、とルークとクオンの視界が揺れた。
 同時に襲ってくる浮遊感。
 世界が回ったかのような感覚に若干の気持ち悪さを覚えながらも、それは一瞬の出来事であった。

「着いたぞ?」

「本当に私の部屋だ」

「私がルークの気配を間違う訳が無いだろう?」

「そうなのだな……」

(頼むから顔を赤くして目を潤ませないでくれ……)

 クオンは心の中で突っ込んだ。
 口に出したら不敬罪になりかねない。
 まぁこの3つ下の主兼幼馴染はクオンの言葉を咎めたりはしないだろうが。
 それでも胃には優しくない光景にクオンは心の中だけとは言え、ツッコミをせずにはいられなかった。
 何と言うか、非常に疲れる。
 2人に悪気は無いのは分かってはいるのだが。

(皇太子としては完璧なのだが…何が間違ってこうなったんだ……?)

 何が間違いと言うなら、サイヒがルークを助けたことが全ての元凶であろう。
 だがソレによりルークの命は救われたのだから文句の言いようがない。
 全てはルークが倒れる羽目になった黒幕が悪いのだと、クオンは己を納得させた。

(俺の胃に穴が開くまでに必ず貴様を潰してみせるぞ黒幕めが!!)

 怒りの矛先が黒幕にむいて実に良い傾向である。
 現実逃避したい思考を、前向きに違う方向性に向けれるくらいにはクオンは優秀な側近であった。

「で、何から始めるんだ?目的は決まっているんだろう?」

 クオンがサイヒに尋ねる。
 流石に無計画で王宮に殴り込みに来たわけはないだろう。

「毒見役の少年をこちらの味方につける」

「「!?」」

 ニヤリとサイヒが唇を弧にに吊り上げる。

「サイヒ、そんな事が出来るのか?」

「何だルーク。私が出来ないことを言うと思うのか?」

「いや、そんな事はないのだが。あまりにも簡単に言うので、そんなに容易く出来るものなのかと思ったんだ」

「ふふ、私がルークの不利になる様な事をする訳が無いだろう?これについてはプランはもうある。私を信じろルーク」

「うん、サイヒの事を信じるぞ」

 サイヒがルークの頬に触れる。
 その手に己を重ねルークはうっとりと返事をした。

(恰好が違うせいか何時もよりサイヒの誑し度が上がっている気がする……)

 美貌の少年と青年が戯れる姿は見る者が見れば眼福なのだろうが。

(既に胃が痛い……)

 クオンの胃には優しくない光景であった。
 早く悟りを開く日がくれば良いのだが……。

「さて、毒見役の少年の元に参ろうではないか」

「ちょ、まっ、場所分かるのか!?」

 何も聞かず部屋の扉を開けてスタスタと歩くサイヒにクオンが疑問の声をあげる。

「ルークの毒見役だからな。匂いで分かる」

「凄いなサイヒは」

 頬を染めてルークは興奮気味にサイヒを褒める。

(いや、普通わからんだろう!何だこの滅茶苦茶な生き物は!?)

 逆にツッコミどころがありすぎてクオンの目は既に半分死んでいた。


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 次回、救済の声がありました毒見役の少年を何とかしたいと思います。
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