聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【27話】

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「コーン様、ふるった小麦をいただいても良いですか?」

「どうぞマロン妃」

「チョコレートはこんな塩梅で良いでしょうか?」

 マロンが湯煎で溶かしていたチョコをスプーンで掬い、クオンの口元に持っていく。
 それをクオンは躊躇せず口に含んだ。

「良い加減ですね」

「ナッツもたっぷり入れましょうか?」

「ルーク様もサイヒもナッツ類は好きだから喜びますよ」

「まぁ、それは嬉しいですわ」

 マロンが無邪気に笑う。
 愛しのお兄様とその親友のため今日もマロンは自室の隣にあつらえて貰った厨房でお菓子を作る。
 最近ではクオンが手伝いをしている。
 
 この2人相性が良いのか一緒にお菓子を作る時の、息の合い方が半端でない。

 ”あれ”
 ”これ”
 ”それ”

 そんな単語になっていない言葉を互いに理解しているのだ。
 長年連れ添った夫婦のようである。
 しかし長年連れ添った夫婦と言うには初々しい。
 時折手と手が触れあって頬を赤める姿を見ては侍女たちの心をほっこりさせる。

 いっその事、皇太子とは白い結婚なのだからクオンにマロンを妻に迎えてくれないだろうかと考える者も存在している。
 クオンが高貴な出生なのは発言や動作を見ていれば分かる。
 今は騎士に近い役割をしているようだが、皇族相手でなくてもクオンなら身分の保証も出来るだろう。
 マロンの父も娘の自由意志を大切にしているので、皇太子妃の座を降りても文句は言わないはずだ。

 だが本人たちには、そんな従者たちの思考をよそに己の主の話を、または己のお兄様の話で盛り上がっている。
 もう少し色気のある会話は出来ないものなのであろうか…。

「しかし今回はマロン妃のお陰で助かりました。まさかツテを使わずポーションを入手できるとは思いもしませんでしたよ。足がつかなくて大変助かりました。主に変わり礼を言わせていただきます」

「ポーションの調合は得意ですので。”解毒””回復””安眠”などでしたらお手の物ですわ。まぁ”安眠”はあまりルーク様にお効きにならなかったみたいですが…これを機に調合の配分を考え直そうと思っているところですの」

「素晴らしい向上心ですね。俺からも応援をさせていただきます。それにしてもスクワラル商会の目玉商品であるポーションのレシピの発案者がマロン妃であると知ったときは驚かされました」

「私は兄たちと違って商才はありませんでしたから、少しでも自分が出来る事で商会の力になりたかったのですの。幸い薬剤の調合はお菓子作りの延長線で考えたものですし、まさかこんなに流行るとは思いもしませんでしたわ」

「スクワラル商会のポーションは1番安価なモノでも通常売っているポーションより効きが良いと評判ですから。冒険者にとっても帝国の騎士にとっても手放せないものですからね」

 実際、大陸中にスクワラル商会が支店を何店も置けるのはこのポーションのお陰である。
 低級ポーションで中級に匹敵する回復力を秘めているのだ。
 それでいて安価。
 他の薬屋は商売あがったりである。
 そしてスクワラル商会の最高級目玉商品は”上級”ポーション。

 これは今地上で手に入れれる回復アイテムの中で最も”エリクサー”に近いとされている。
 【治癒】【回復】に長けた教会でもそうそう手元に置いていない。
 それが幼い少女が”お菓子作りの延長線”で作り出してしまったのだ。
 あまりの出来事にこの事は商会内でも上層部の者しか知らない。

 マロンが皇太子妃になったのもコレが原因であった。
 もしもマロンの【調合】のスキルが知れ渡るとマロンの存在を狙うものが後を絶たないであろう。
 そこで商会会長、つまりはマロンの父親は安全な場所としマロンの後宮入りを勧めた。

 娘を溺愛する父親は、皇族と縁を結びたかった訳ではなく、ただただ娘の無事を願っていたのだ。
 それを分かっているからマロンは父親に利用されたなどとは思っていない。
 ”白い結婚”もこうなっては都合が良いモノだ。
 何故ならマロンは”恋愛結婚”がしたかったのだから。

「オーブンも温まりましたし材料を入れましょうか」

「ふふ、美味しく作れたら良いのですが」

「マロン妃の作るお菓子は何時も美味しいですよ」

「コーン様にそう言って頂けて光栄です」

 ニコニコと微笑み合う2人。
 そんな2人をニコニコと見守る侍女たち。
 楽園はここにあったのだ。

(マロン妃と結婚する方は幸せだな)

 すでにクオンはマロンが己の主の妻であることをほぼ忘れている。

(コーン様のような素敵な男性と結婚する方は幸せ者ですわね)

 まだ意識していないがマロンにも恋心の花の蕾が存在し始めていた。

((((((コーン様!妃に会いに来ない皇太子様に代わってマロンお嬢様を幸せにして下さいませーーーーーーーっ!!!!)))))))

 侍女たちの心は1つになっていた。

 いや、実際には皇太子は毎日のようにマロンの部屋でお茶を嗜んでいるのだが。
 主に親友のオマケとして。

 :::

 クシュン!

 ルークがクシャミをした。

「大丈夫かルーク?風邪か?肌寒いか?」

「いや誰かが噂話でもしたのであろう。肌寒くはないぞ?こうしてサイヒに抱きしめられていると、とても暖かくて心地よい」

 蕩けた笑顔でルークが言う。
 美形のあまりの魅力的な笑顔に、もしこの場に人が居たら卒倒する者は少なく無かったであろう。
 男女年齢問わず。
 しかし幸いにこの”裏の広場”にはサイヒとルークしかいない。
 もし誰かが居たとしても、ルークはサイヒの足の上に乗せられ抱きしめられているので、その笑顔はサイヒにしか見えない。

「あまり笑顔を振りまくなよ?勘違いするものが現れるぞ」

「サイヒが笑顔にさせるのが悪い。それに私が微笑むのはサイヒにだけだ。勘違いも何も、そもそも私の半身はサイヒだけであろう?」

「まぁそうだな。だが半身が粉をかけられるのを見るのは正直良い気分はせぬな」

「嫉妬してくれるのか?」

「それはするだろう。ルークは私の半身なのだから」

「私も、同じだ…」

「ん?」

「私もサイヒが他の者から言い寄られるのを見たくないから、あまり他の者には優しくしないで欲しい」

 クスッ

 サイヒが笑う。

「こんなに可愛がるのは半身のお前だけだよルーク。生憎私の腕はそういっぱいのモノを抱えられない。腕も2本しかないし、お前を抱きしめたらいっぱいいっぱいだ」

「では生涯その腕は私の専用にしてくれ」

「本当に、お前は可愛い奴だなルーク」

 ギュゥ、とサイヒの腕の力が強くなった。
 強く抱きしめられて、この腕の中は自分専用なのだとルークは嬉しくなりサイヒの胸に顔を押し付けて、こっそりと微笑んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今回はクオンとマロンがメインになってしまいました。
 ルークの瞼の腫れをケアしていたポーションはマロンからクオンが入手しておりました。
 お陰で誰にもバレずに入手できましたよ。
 ちなみに2人が作っていたのはチョコブラウニーです。
 サイヒとルークはすれ違いも終わり蜜月モードです。
 半身ですからね!
 でもまだサイヒのルークへの感情は恋愛に迄進化を遂げていないと言う…(;´Д`)
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