聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【26話】

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 もう10日もサイヒに会っていない。
 サイヒに手渡されたハンカチにはもうサイヒの匂いの欠片もない。
 毒で体が苦しいわけでは無いのに眠ることが出来ない。
 ”安眠”のポーションも効果が出ない。
 自分がもう1人で寝ることも出来ない様に、ルークは自嘲した。

「結局私はサイヒが居なければ何も出来ない役立たずと言う事か…」

 泣きたくもないのに涙が流れる。
 もう自分の涙腺は決壊してしまったらしい。
 何と愚かな人間なのだろう。

 傷つけた相手に縋らなくては生きていけない、愚かな人間。

 国を治めるなどおこがましい。
 自分程に他者を護れぬ存在など、もうこの国には必要ないのではないか?
 最近その思考にルークは陥り、寝る事さえ出来なくなっていた。

 カーテン越しの月の光さえ自分を責めているように感じて、ルークは頭からシーツを被って眠りにつこうとした。

 :::

「ルーク、起きろ。朝だ」

 愛おしい声が聞こえる。
 甘く優しい声がルークの鼓膜を震わせる。
 何と甘美な声色か。

 ルークはとうとう自分の頭が可笑しくなったのだと思った。
 でなければ誰よりも愛おしいサイヒの声が聞こえる訳がない。

「ルーク、良い子だから出ておいで。私にお前の顔を見せてはくれないのか?」

 狂ってしまったのなら、もうどうでも良い。
 自分はこの甘美な妄想に耽ろうとルークは考えた。
 自分の頭の中での出来事なのだ。
 自分の思うようにして何が悪い?

「サイヒ…」

 シーツから顔を出すと、誰よりも見たかったサイヒの姿がそこにあった。
 ベッドに腰かけたサイヒがルークの額の髪を細い指先ではらってくれる。

「あぁ、そんなに瞼を腫らして…痛いだろう?すぐに直してやるからな」

 サイヒの顔が近づく。
 そしてサイヒはルークの目尻に唇を押し当てた。
 暖かく柔らかいその感触にルークは心が震える。
 10日間、欲してたまらなかったモノがココにある。

「ルーク、目を閉じて」

「ん」

 サイヒの言葉に従い瞳を伏せる。
 そうするとサイヒの柔らかな唇が何度も何度もルークの瞼に押し当てられるのだ。

「気持ち良い……」

「そうか」

 瞼に優しくキスを落としながら、サイヒは空いている手でルークの髪を梳く。
 それが気持ちよくて、10日間寝ていないルークの睡魔が一気に襲ってきた。

「眠いのなら寝て良いのだぞ?」

 誘惑するその声は甘い。
 だがようやくサイヒに会えたのだ。
 一瞬たりともその存在を失いたくない。

「私はお前の傍を離れないよ。ゆっくりお休み、私のルーク…」

 甘美な声と甘い匂いに包まれて、ルークの思考は深い深淵に落ちていった。

 :::

 目が覚めると瞼の熱さが引いていた。
 ピリピリする痛みも感じない。

「あぁ、夢は終わってしまったのか……」

 それにしても心地の良い夢であった。
 どうせなら目覚めぬままで良かったのに。
 そう思うルークは右手に温もりがある事に気が付いた。

「まさか…本当に……?」

 ばさり、とシーツを剥ぐ。
 ソコには求めてやまない存在。
 サイヒがルークの手を握り締めてベッドの上で眠っていた。

「サイヒ…サイヒサイヒ!!」

 ルークが両手でサイヒの手を握る。
 夢じゃなかった。
 本物だった。
 何よりも愛しい存在が、ルークの隣で無防備に寝ている。
 
 警戒心も抱かずに。
 スヤスヤと眠っているのだ。

「私は其方に嫌われたのでは無かったのか…?」

「ん…」

 ふるり、と睫毛が震え瞼の下から美しい青銀の瞳が現れた。
 初めて見た時と同じだ。

「やはり其方の目は美しい……」

 その青銀の目に魅了される。

「あぁ、すまない。心地よくて私の方が眠ってしまった」

「いや、良いんだ!それよりサイヒは何故ここに?」

「クオンに手引きして貰った。待つのは私の症で無い」

「私の事が呆れたのでは無かったのか?」

「そんな心配をしていたのか?私がお前を嫌う訳がないだろう?」

 ふわり、と花が綻ぶ様な微笑みをサイヒが浮かべる。
 ルークがこの世で1番美しいと思う笑みだ。

「私は決断できなかった。目の前の同情を取ろうとしてその先まで考える事が出来なかった。こんな私は王の器では無い。私が身を引いた方が国は上手く動くのではないだろうか……」

 パンッ!

 サイヒが両手でルークの頬を挟んだ。
 ちょっぴり痛い、と思ったがルークは静かにサイヒの言葉を待つ。

「確かにお前は甘すぎるよルーク。優しさだけでは人は救えない。
確かに自分で言うように王の器では無いのかもしれない。でも王になるには1人で何もかもこなさないといけないのか?
お前が冷酷になれぬなら私が冷酷になってやろう。お前が決断できぬ事は私が決断してやろう。お前の重荷を共に私が背負おう。私がお前の半身になる。お前が優しい王であれるよう、私が隣に立ち、その手を放さず、共に道を歩もう。
だからお前はその優しさを失うな!お前が優しくあり続ける限り、私はお前の傍を離れないっ!!」

「サイヒ、それで良いのか…私は情けない男だぞ……?」

「知っている」

「私は英断出来る王にはなれない」

「知っている」

「私は、其方が居なければ満足に立って歩けない!また其方を傷つけるかもしれない!」

「知っている。だから何だというのだ?お前が出来ないことは私がしよう。
だからお前はその胸に灯る優しさの火を消さないでくれ。私はお前のその優しさの火が好きだよ。何時までも見守っていたいと思っている。
お前のその優しさを護るためならば、私はお前の半身となりお前と共に、お前の隣に立って、共に生涯を歩むことを誓おう」

 ブワッ

 サイヒとルークの体から青銀とエメラルドの緑の光が放たれ絡み合いながら、天に昇った。

「な、何だ今のは!?」

「どうやら誓いが天に通じたようだ…」

「誓い?」

「簡単に言うと神に我々が半身であると言う誓いが認められたと言う訳だ。強い誓いや祈りは光の柱となって天へ昇る。見れる者はあまり居ないがな。クオン辺りには見えたかもしれんな。
ルークは私の法力を毎日浴びていたから見れたのだろう。我々の誓いも神に認められる位には強いモノだったようだな。
こんな事は結婚でも滅多に起こらん。それ程に私に心を預けてくれて嬉しく思うぞルーク」

「神様が認めてくれた…では、サイヒも私と同じく強く私を想ってくれているのか!?」

「感情の種類が何かは分からないが、そう言うことだな」

「サイヒが私の半身…夫婦よりも強い絆……」

 うっとりとルークが目を細める。
 すっかりルークの心の淀は洗い流されていた。

(こんな綺麗な存在が、私の半身…あぁサイヒが共に歩んでくれるなら、私はどんなイバラの道でも歩くことが出来る……絶対に離しはしない、私の半身!)

「サイヒ、明日からまた後宮に行っても構わないだろうか?」

「ふふ、後宮はルークのものだろう?私に了承を取るのはおかしくないか?」

「後宮は私の物だが、あの裏の広場は私とサイヒのものなんだ。だからサイヒから了承の言葉が欲しい」

「甘えただな。まぁソコが可愛い所だが。あぁ、後宮に来れば良い。私ももう待ちぼうけは嫌だからな」

「待っててくれていたのか?」

「10日間待っていたよ。明日からは待たせないでくれ」

「有難うサイヒ、そしてすまなかった。もう待たせない!だから今日はもうこのまま一緒に寝よう!」

「だからの意味が分からんが…まぁたまには一緒に寝るのも良いだろう」

 ルークがサイヒの首に腕を廻し、その胸に顔を埋める。

「やはりサイヒの匂いは、落ち…つ、く……サイ、ヒ…あ、し……る………」

 そのままスヤスヤとルークは眠りに落ちてしまった。
 先程の10分ほどの睡眠ではルークの睡眠負債を補えなかったらしい。
 10日間の睡眠不足が一気に来た。

「やはり寝るお前を抱きしめるのは心地が良いな」

 クスリ、と笑い。
 サイヒも意識を深く沈め眠りに入っていった。

 1時間後。
 抱きしめ合って眠る2人を見つけ、クオンの胃が痛むのは別の話である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヒロイン?
 何それ美味しい?(´~`)モグモグ
 男らしいルークを期待した方すみませんでしたm(__)m
 やっぱりサイヒの方が男前でした…。
 何時かルークの男ら良いところも必ず書きますので!!💦
 需要があれば、コソッ
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