聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【40話】

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 日も暮れて貴族たちが王宮に集まりだしたころ。
 晩餐会の皇太子妃のエスコートで揉めていた。

 皇太子であるルークは後宮が出来てからも誰1人エスコートをした事がない。
 晩餐会に参加すらした事がないのだ。 
 なので毎年、何時ルークの気が変わって自分をエスコートしてくれる日が来るのかと、第1皇太子妃のカスタットはイライラしていた。

「カスタット様はぁ、今年も聖騎士団長様にエスコートして貰えば良いじゃないですかぁ?」

 体のラインが強調されたマーメイドラインのドレスを着たマカロが楽し気に言った。
 デコルテも晒されており、豊満な胸の谷間が強調されている。

「嫌よ!あんなむさいオヤジ!大体何で貴女がアンドュアイス様にエスコートされることになっているのかしらマカロ妃?」

 カスタットが眉を吊り上げる。

「アンドュアイス様はぁ、私が後宮に入る前から我が国に来て頂いていた長い縁ですからぁ。うふふぅ、本来ならカスタット様こそルクティエス様にエスコートして貰える権利がありますのにぃ。お可哀想ぅ」

 マカロが口元に指をあてクスクスと笑う。
 垂れ気味の大きな目が明らかにカスタットを見下していた。

「私は聖騎士団長様は背も高いですし、スタイルの良いカスタット様の隣に並ぶと映えると思います。それに精悍な大人の男性の聖騎士団長様はカスタット様の大人の魅力を引き出してくれていますわ」

 ニコニコとマロンが言う。
 その言葉はマカロと違い一切悪意が無い。
 本気でカスタットの魅力が引き出せるパートナーだと思っているのだろう。

「それに社交場では女性が花ですし、カスタット様の魅力を引き出して下さるなら聖騎士団長様は最適と思われますわ。私のような小娘ではカスタット様のような大人の女性の魅力が出せないので羨ましいです」

「そ、そうかしら?まぁ入場のエスコートさせるだけだし、私の引き立て役には丁度良いかもね!」

 マロンの言葉にカスタットは相当気を良くしたらしい。
 きつめの印象を与える整った顔が緩んでいる。
 少し鼻息も荒い。
 皇太子妃としてその姿は公の場では封印して欲しいものだ。

「マロン妃は武道会の優勝者にエスコートされるのでしたわね?」

「は、はい。まさか陛下への望みが私のエスコートだとは思いもしませんでした……」

「何で私じゃないのかしら?」

「第1皇太子妃のカスタット様のエスコートなんて恐れ多くて願えなかったんじゃないでしょうか?第3皇太子妃の私程度でしたら気安いでしょうし。私は庶民の出ですから」

「そうよね!仮にも気持ちがあったとしても第1皇太子妃の私のエスコートなんて望める訳がないものね!」

 小鼻を膨らしてフンフンと鼻息を荒くしているカスタットに皇太子妃のエレガントさはない。
 こんなに単純で良いのだろうか?
 いや、良くないだろう。
 カスタットはあまりにも単純だ。
 良く言えば素直であるのだが…。
 だからこそアンドュアイスもパートナーとしてマカロを選んだ。
 人を篭絡する手だれも、何時か皇帝の正妃になろうと思う野心家な面も、アンドュアイスにはパートナーにするには都合が良かったからだ。

 カラーン
 カラーン

 鐘の音が鳴る。
 晩餐会の始まりの合図だ。

 それぞれ皇太子妃たちは別室で待っていた本日のパートナーが迎えに来るのを待つ。

 最初に現れたのは聖騎士団長だった。

「今日はエスコートさせて貰いますよお嬢さん」

「会場に着くまでは貴方のその態度許してさしあげますわ」

「おぉ、珍しい!今年は怒っていないんですかい?お嬢さんもそろそろ怒ると小皺が出る年になったからかねぇ?」

「だから、私は貴方のそのデリカシーのないところが嫌いなのです!今日は黙って私を最大に引き立てなさい!」

「へいへい。本当可愛げが無くて可愛いなお嬢さんは」

 ニッ、と歯を見せて笑う聖騎士団長は40代て前にしても十分に男の魅力ある中々のイケメンだ。
 背も高く鍛えられて体をしており、長身のカスタットと並んでも見劣りしない。
 それどころかマロンの言う通りカスタットの魅力を引き出すには適役だと言えた。

「マカロ妃、待たせたな」

「アンドュアイス様!今日はよろしくお願いしますわぁ」

 マカロが頬を染める。
 アンドュアイスにとっては皇帝になるべく利用するのにちょうどよいパートナーだが、マカロの方は本気でアンドュアイスに心を寄せている。
 ソレが分かっていてアンドュアイスも恋人にするように理想の男を演じあげているのだが。

 皇太子妃2人が先に待合室から出ていく。
 その後ろ姿を見送りながらマロンは胸をときめかせていた。

「お待たせしました、マロン妃」

 現れたのは仮面を着けていないコーン。
 いや、皇太子の近衛兵であるクオンであった。

「今日は【認識阻害】の魔道具はつけておられないのですねコーン様」

「はい、マロン妃をエスコートするのにあの術は向いていませんから。心よりエスコートさせて頂きます」

「はい、お願いしますわコーン様」

 頬をバラ色に染めるマロンの可憐さにクオンは気持ちがグラリと揺れる。
 本人は気づいていないが”このまま2人きりで居たい”と本能が言っているのだ。

「コーン様の素顔、ちゃんと見るのは初めてです。こんなに素敵な方だと思っておりませんでした…」

「何時も胃痛で倒れそうな姿しか見せてませんでしたからね」

 クオンが口の端を上げて笑う。
 どちらかと言うと冷たく見えるクオンだが、そうすると一気に人懐っこく見えた。
 その笑顔にマロンも見惚れる。

「私、コーン様がエスコートして下さるなんて夢のようですわ」

「私も夢のようです。お手を取っても構わないでしょうかマロン妃?」

「はい」

 クオンの大きな手にマロンの小さな手が乗せられる。
 お互いに手の大きさの違いに心の中で驚いた。

(男の方の手ってこんなに大きいのですのね…)

(力を入れたら壊れてしまいそうな小さな手だ。この手を今日だけでなく何時でも取れるようになったらさぞや幸福だろうな…)

 目と目があい視線が絡み合う。
 今日だけはクオンはマロンの手を引いて良い資格があるのだ。
 皇帝に認められた資格が。

(殿下が大会にエントリーして下さって良かったのかもしれない…殿下とサイヒが姿を見せないのには気になるが……)

「行きましょうか」

「はい」

 手を取り合って、2人は会場へと向かった。
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