聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【60話】

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 道は舗装され脇には花が植えられている。
 子供たちがキャッキャッと声をあげ楽しそうに戯れている。
 それを見守る大人たち。
 カカン王国はどこまでも平和だ。

 悪感情と言うものが誰にも見えない。
 それはある意味異常でもある。

 賑やかではあるが喧噪ではない。
 皆が笑顔だ。
 心から生活を楽しんでいる。
 国が安定してるからだろうが、それにしても不貞を犯すような輩がこの規模の街で居ないのは不自然だ。

 サイヒが育った国だと言うのに、ルークはそこにサイヒの気配を感じる事が出来なかった。

 街にあるカフェの2階のVIPルームの、個室の窓から街を見てルークはそう感じた。

「そんなに我が国が珍しいですかルーク様?」

 テーブルをはさんでルークの前に座っている赤髪に金色の目の男がクスクス笑う。
 その余裕のある笑顔が気に入らない。
 サイヒの元婚約者だと言う事で自分は目の前の相手を必要以上に警戒してしまっているのだろうか?
 ルークはティーカップの中の冷めた紅茶を1口喉に流し込んだ。

「あまりにも平和過ぎてな。あまりにもサイヒに似合わない」

「そうでしょうね。サイヒは殆どこの街で育っていませんから」

「どういう意味だ?」

「サイヒは7歳から10年神殿で育ちました。僕や姉のリリィを除いて神殿外との接触は殆どありません」

「それでは監禁みたいなものでは無いか!」

「みたいな、ではなく監禁ですよルーク様」

「なっ…」

「わざわざカカン迄お越しになってくれたのです。少しサイヒの昔話をしましょうか」

 ニコリと笑うローズの目の奥にある光が鈍く感じるのは何故だろうか…。
 ローズは決して悪人ではない。
 今回のルークのお忍びの訪問にも快く付き合ってくれている。
 この店を指定したのもローズだ。

 ガフティラベル帝国出る前にアンドュアイスが魔道具を使用して、ローズと簡単な話を付けてくれていたためルークはこうして大した労力も無く、ローズとの話の場を設けられた。
 全くもって優秀な兄である。

「さて、サイヒだが、あの子は7歳までは公爵家の令嬢として姉のマーガレットと育ちました。仲睦まじい姉妹でしたよ。ですがマーガレットと違いサイヒは両親から疎まれました」

「何故だ?」

「サイヒが両親の持ちえない色を持って生まれて来たからですよ。サイヒの父は黒髪黒目、母は空色の髪に翡翠色の瞳です。母の色を受け継いだマーガレットは愛され、両親が持ちえない色の青銀の瞳をもつサイヒは疎まれました。
いや、あれは恐れられたと言う方が正しいですかね?」

「サイヒは不義の子と言う事か?」

「いえ、鑑定の結果夫婦の子でしたよ。サイヒの瞳の色は先祖返りのモノです。
1000年もの昔の大聖女の夫の瞳の色です。サイヒは未だに語られる「国家復興の聖女」と「聖女の伴侶の色」を隔世遺伝で受け継ぎました。
ただ色と魔力を受け継いでいるだけなら良かった。
サイヒはその知識までも受け継いでしまいました。1000年もの前の聖女と伴侶の知識を生まれた時から受け継いだんです。
物心ついた時にはサイヒはカカンの最高魔術師を軽く口論で黙らせるほどの知識と魔力を持っていました。
更に母に流れる先祖である他国の癒しの聖女の血迄受け継いだ。
5歳になった頃には達観した化け物の出来上がりですよ。
それでもマーガレットはサイヒに歩み寄ろうとした。
サイヒもマーガレットを慕った。
でも人は強すぎる力を恐れます。
サイヒが6歳の頃、僕とサイヒとマーガレットは王室の避暑地へ行きました。海がとても綺麗な所でした。水遊びしている僕たちは水陸型の魔獣の存在に気付くのが遅れました。
魔獣がマーガレットを狙った時、サイヒは姉を助けようと魔術を使いました。幼い手から光線を迸らせ、魔獣は消え、海が割れ、数キロ先の無人島を消滅させました。
あの時何故僕がサイヒの婚約者に選ばれてたのか理解しましたよ。
”こんな化け物を世に放つ訳にはいかない”そして”この力さえあればカカンは安泰だ”と大人は思っていたんでしょうね。
まだ10歳に満たない僕でも理解出来ましたよ。
そしてマーガレットはサイヒを恐れる様になりました。サイヒの機嫌を損ねぬよう完璧な姉を演じました。
僕も完璧な婚約者を演じましたよ。
サイヒの力を目の当たりにしたのは僕とマーガレットの2人。僕たちはサイヒをカカンに繋ぐ運命共同体として時を共に過ごしました。
サイヒは己の力を見ても傍に居る僕たちを殊更大事にしてくれましたよ。
そしてサイヒは魔力を封印しました。法力も普通の聖女並みに抑えました。
でもあの完成された美貌だけはどうしようもなかったので、サイヒは唯一の魔術【認識阻害】の魔術を使って自分の存在を限りなく消しました。
この国にサイヒの気配がしないのは当然です。
国民にとってサイヒは「印象に残らない聖女」だったんですから。勿論敬れることはありません。
神官もシスターも教皇ですらサイヒの本来の存在感を知りません。だからこそサイヒはマーガレットに法力を与え、国を出ることが出来たのです。マーガレットも聖女の末裔ですからね。反対する者はいませんでした。お陰で僕はマーガレットと目出度く婚姻を結べた訳ですが。
でもあの能力は手放すには惜し過ぎる。サイヒさえ良ければ何時でも迎え入れる準備も出来ているのですけどね」

 語るローズはニコニコと笑顔を浮かべている。
 その語られる内容にルークは吐き気すら覚えた。

 恐怖した?
 あの化け物?

 サイヒは確かに常識を逸した力を持っているだろう。
 だがソレが何だ。
 ルークはサイヒが海を割ろうが島を消そうが、それで訪れる恐怖以上に愛しさが勝る。
 あんなにも優しい存在の何を恐れることがあろうか?

 ルークは目の前の男が生理的に受け付けない理由が理解できた。
 サイヒを”化け物”呼ばりする男をどうして受け入れる事が出来ると言うのか…。

「無駄話はイイ。サイヒの今居る場所の見当があるならソレを話して消えろ」

「僕も随分嫌われたものですね…まぁその辺りの関係は時間が解決してくれるのを待ちましょうか。何せサイヒをルーク様が娶れば義兄弟になるんですしね。
国同士の繋がりもありますし前向きに検討して下さい。
で、サイヒの居場所ですが、行く所があるとすれば1つしかないです。サイヒは他国の聖女とも面識がありますが、そちらを頼るとも思えません。
ならサイヒが親友と言うフレイムアーチャの聖騎士の所に転がり込んだとみて間違いないでしょう」

「親友?聖騎士!?」

「3年以上の付き合いですし、随分と仲が良さそうでしたよ?」

 煽るようにローズが追い打ちをかける。
 ルークの反応を見て楽しんでいるようですらある。
 グッ、とルークは奥歯を噛み締めた。
 この男の前で情けない姿を見せたくない。
 ルークの本能が、ローズはサイヒを女として愛する事も出来ると分かっているのだ。
 ”化け物”と思いながらもローズは必要とあればサイヒを女として愛する……。

 負ける訳にはいかない。
 ルークは瞳に力を宿し、何時もより鋭い双眸でルークを睨みつけた。

「この件の報酬は貿易の規模拡大だったか?私の権限で出来るところまではしよう。それで貸し借りは無しだ」

「えぇ、よろしくい願いしますね」

 ニコリと笑うローズを無視して、ティーカップの中身を一気に喉に流しみルークは部屋を出た。
 ルークの帰還を厩に繋がれたオグリが喜んで「クゥッ!」と声をあげる。

「少ししんどいと思うがもう少し付き合って貰っても良いか?後でたっぷり馳走を用意する。フレイムアーチャまで乗せて行ってくれ」

 ”勿論!”と言うようにオグリはルークの顔に頬を寄せた。
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