聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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2章

【201話】

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 空色の髪に翡翠色の瞳。
 神が何年もかけて造り出したのかと思う美しい姿。
 魔王の脳裏にその姿が浮かぶ。

 あの少年を見た時から心に、甘い疼きが走る。

 確かに美しい。
 だが美しいだけでこれ程心が搔き乱されるだろうか?
 魔王はあの日から、少年の姿を見てきた。
 もう1週間になる。

 悪魔たちは深淵から地上に上がり人の血を求める。
 だがそこには何時も少年が居合わせる。
 まるでそこから出てくることが分かっていたかのように。
 本当に分かっているのだろうか?
 もし自分が地上に出ても少年は気付くだろうか?
 あの美しい姿を生身で見る。
 それは甘美な時間だと魔王は思った。

 その日、ほんの数刻の間、玉座の間から魔王が消えたのだった。

 :::

「見てないで出てくればどうだ?」

 その声は想像していたより甘かった。
 中性的な甘いアルトの声。
 
 少年の声は魔王の耳朶を愛撫し、鼓膜を震わせる。

 お忍びできたのだが、どうやら少年には勘づかれていたらしい。

「其方は我々が何時出てくるのか分かるのか?」

「ソレを教える謂れはない」

 魔王の言葉に返って来る少年の言葉は冷たい。
 少年は振り返った。
 その足元にはしない程度に地に沈められた悪魔が数体。
 少年は返り血を浴びていないどころか息1つ乱していない。

(あぁ、本物の瞳はさらに美しい………)

 空色の髪。
 翡翠の瞳。
 美しい容貌。

 コレが欲しいと魔王は思った。
 だが同時に欲しいものはコレでありながら、何かが違う気がした。
 違和感。
 少年の姿に魔王は違和感を感じた。

「さて魔王、何をしにココに現れた?私を殺しに来たか?」

 少年の双眸が鋭くなる。
 だがその奥が悲しそうに揺れた気がした。
 
 泣くのならその涙を拭いたい。
 魔王はそう思う。
 そしてそう思った自分に驚いた。

 何時から自分の感情は揺れ動くようになったのだろうか?
 自分はほぼ無感情の存在であるはずなのに。
 そう言う風に造られた存在であるはずなのに。

「お前は、誰だ?」

 魔王の口から洩れる言葉は、部下たちに発する声より遥かに優しかった。
 まるで愛しいものへ問いかけるように。

「私が誰か知りたければ、己の胸に聞け。思い出すまで名乗ってやらん」

 少年が微かに口元に笑みを浮かべた。

 そうだ。
 この少年には笑顔の方が似合っている。
 何時もそう思っていたではないか。

 何時もとは何時だ?

 自分はこの少年を知っているのか?

 魔王の思考がぐるぐる回る。
 頭の中に霧がかかったかのように思考が上手く回らない。

「私を思い出したら私の名を呼べ。何処にいても私はお前を攫いにくよ」

 そう言って少年が笑った。
 少し悪戯気な笑顔。
 この笑顔が好きだった。
 確かに自分はこの笑顔が好きだった、気がする。

 この少年が己を攫うと言うのなら、己は少年の存在を思い出さなければいけないだろう。
 
 感情の無いはずの魔王は、この少年になら攫われたいと思ったから。

「また会おう、麗しい魔王殿。是非次は私の事を思い出していてくれている事を願うよ」

 そう言って少年は消えた。
 空間異動の上位互換である次元移動だ。
 この能力を使えるのなら、少年は天界でもかなりの術師なのであろう。
 魔王にとっては出来るだけ早く摘まなければいけない芽の筈だ。

 だが魔王はソレをしなかった。
 魔王の感情の全てが少年に支配されたから。

 地上も天界もどうでも良い。

 悪魔たちが騒ぐなら玉座にくらいは座っておいてやろう。
 だが、少年が己を攫いに来た時は、己はその腕の中に飛び込むだろう。

 甘い想像が魔王の胸を擽る。

 もう魔王の興味は少年にしか向かず、魔界を統治する気など起きもしなかった。

 その魔王の姿を見て、『ソレ』は歯噛みをするのであった。
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