聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

文字の大きさ
228 / 297
2章

【200話】

しおりを挟む
 暗い暗い大地の下。
 天界の下の地上の下のまだその下。
 深淵の渕にその宮殿はあった。

 玉座の間に座るのは銀髪にエメラルドの瞳が美しい、闇を支配する魔王。

 そう、魔界に魔王が戻ってきたのだ。

 悪魔たちは歓喜した。
 全能神に攫われていた魔王が我々の元へと帰って来てくれたのだと。
 王の帰還に魔界は沸いた。

 魔王が魔界に帰還して1週間、祭りは続けられた。

 その間に魔王が玉座の間から外に出た事は無い。
 玉座の間より奥にある、自分の私室と、専用のダイニングに食事時に姿を現す程度。
 執事が呼びに行かなければ食事すら疎かにする魔王。
 頼み込んで、1日の半分を玉座の間で過ごして貰っている。
 魔王は自分から何かをすると言うことが無いのだ。

 浴室も私室についているために入浴のために部屋から出てくることも無い。

 本来なら魔王の為のハーレムで女悪魔に体を洗わせるのが基本であろう。
 だが魔王は己の身体に他人が触れる事を厭うた。

 それでもその美麗な姿が玉座にあるだけで悪魔たちは活気づく。

 魔王不在の長い時を経て来た悪魔たちは、魔王がそこに居てくれると言うだけで感涙ものなのだ。
 魔王が魔界を統治したなら、次にすることは地上の制覇だろう。
 歴代の魔王たちはそうした。
 全能神が悉く邪魔をしてくれるために、地上制覇の悲願を果たせたことは無いが。
 それでも今回の魔王ならそれすら叶うかもしれない。
 美しい魔王は歴代の魔王より遥かに魔力が多く強かったから。
 悪魔たちは魔王が地上制覇に乗り出すことを信じていた。

 :::

「魔王様!何時になったら地上に進軍するのですか!?」

 宰相が叫ぶ。
 魔王の片腕だ。
 主に参謀面で魔王を支援する。

「我々は血が疼いてたまりませぬ!早く進軍の合図を!!」

 騎士団長が願う。
 長年の地上制覇を己の代で出来る事に喜びを感じながら。

 だが魔王は口を開かない。

「好きにしろ」

 そう1言だけ言った。
 好きに地上を攻めればよいと。
 己はソレに係る気はないと。

 冷ややかなエメラルドの瞳に見つめられると、その美しさに陶酔すら感じるのに同時に己の首が刎ねられるイメージが頭を浮かぶ。

 冷たく、その冷たさは絶対零度を思わせるほどの冷たさで、誰も何も言えなくなる。

「私は何にも興味はない」

 そう言って魔王は玉座から引こうとした。

「お待ちください!せめて、この天界からの使者の首を獲ることの命を出して下さい!この雄ガキのせいで地上に派遣した悪魔たちが次々に行方不明になっているのです!!」

 参謀は壁に悪魔を体術だけで地に沈めていく少年の映像を浮かべた。

 空色の長い髪に翡翠色の瞳。
 この世のものとは思えない整った容貌。
 しなやかに身を翻し、悪魔をその拳で、健脚で地に沈める。
 敵でありながらその少年の動く姿は芸術的としか言いようが無かった。
 誰もがその美しさに魅入られる。

 だから誰も気付かなかった。

 冷酷な魔王が食い入るようにその少年の姿を瞼の裏に焼き付けていたことを。

 魔王ルークは、天界から派遣された1人の少年にその心の1部をこの時奪われたのだった。
しおりを挟む
感想 1,137

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

皇太子から婚約破棄を言い渡されたので国の果ての塔で隠居生活を楽しもうと思っていたのですが…どうして私は魔王に口説かれているのでしょうか?

高井繭来
恋愛
リコリス・ロコニオ・クレーンカは8歳のころ皇太子に見初められたクレーンカ伯爵の1人娘だ。 しかしリコリスは体が弱く皇太子が尋ねてきても何時も寝所で臥せっていた。 そんな手も握らせないリコリスに愛想をつかした皇太子はリコリスとの婚約を破棄し国の聖女であるディルバ・アーレンと婚約を結ぶと自らの18歳の誕生の宴の場で告げた。 そして聖女ディルバに陰湿な嫌がらせをしたとしてリコリスを果ての塔へ幽閉すると告げた。 しかし皇太子は知らなかった。 クレーンカ一族こそ陰で国を支える《武神》の一族であると言う事を。 そしてリコリスが物心がついた頃には《武神》とし聖女の結界で補えない高位の魔族を屠ってきたことを。 果ての塔へ幽閉され《武神》の仕事から解放されたリコリスは喜びに満ちていた。 「これでやっと好きなだけ寝れますわ!!」 リコリスの病弱の原因は弱すぎる聖女の結界を補うために毎夜戦い続けていた為の睡眠不足であった。 1章と2章で本編は完結となります。 その後からはキャラ達がワチャワチャ騒いでいます。 話しはまだ投下するので、本編は終わってますがこれからも御贔屓ください(*- -)(*_ _)ペコリ

処理中です...