妹に手を出したというカルマを背負って転生する羽目になったけど、スキルを持ってるの俺だけなんで割と余裕な世界でした

みかん畑

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12.手に入れた物

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 酒場でのひと悶着から2週間後、俺はユーリ・エルランジェの姉であるドロテ・エルランジェと屋敷の一角で面会をしていた。エルランジェ伯爵家はユーリの身代金として金貨300枚をドロテに持たせ、ローライの街に送ってきたのだ。

 俺が今いる屋敷は、領主ユリアン・アベールが住まう本邸である。ユリアンとエルランジェ家の当主、フェリクスは竹馬の友であり、今回の一件を収める調停の場として提供されたのがユリアンの屋敷だった。

「この度は私の弟が大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。あなたの奴隷に手を出そうとした挙句、決闘に敗れ身代金を支払う羽目になったと聞いています」

 実際は決闘すらせずに負けを認めてるんだが、それを指摘するのは野暮というものだ。

 ドロテは貴族令嬢らしく、品のある顔立ちをしている。エレナも男爵令嬢として教育は受けているし、品がある方だとは思うが、ドロテは更に箱入り令嬢のような雰囲気がある。正直、身代金を支払いに現れたのが意外だと思う程度には、場慣れしていない。もしかして、彼女しかユーリを心配している身内はいなかったのか? だとしても、同情しようなどとは思わないが。身から出た錆だろう。

「こちらに金貨300枚があります。お納めいただけますでしょうか?」
「もちろんです。私としても、今回の件は早々に手打ちにしたいと思っていたところですので」

 ユーリのことは軽蔑してるが、家族に非がある訳ではない。
 あっさり認めてやると、ドロテは安堵したように溜息をついた。

「ありがとうございます。不肖の弟ですが、私にとっては大事な弟でもあるのです」

 金銭のやり取りを終えてドロテが退室したあと、入れ替わりに部屋に入ってきたのは領主ユリアン・アベールだった。理知的な眼差しの若々しい男で、四十代のはずだが、三十代でも通じるように見える。

「少し時間をもらいたい。君だな? リード達を討伐したというのは」
「ええ、はい。そうですが」
「そうか。君にその気はなかったのだろうが、家族の仇を取ってくれて本当にありがとう。望みがあれば聞かせてほしい」

 そういえば、領主の家族はリード達に奪われたと聞いた。
 図らずも、俺は敵討ちをした形になるのか。

「さあ、『人』か『地位』か『金』か、何でも欲しいものを言ってくれないか」

 突然すぎる話に戸惑う。
 しかし、当人はこれが目的でわざわざ面会の場所を提供したのだろう。
 話をさせるだけなら別邸でも良かったはずだ。
 それを、わざわざ本邸の一室を貸したのは、俺と直接話をする為だと思う。

 しかし、欲しいものを言え……か。
 嘘をつくこともできず、俺は素直に答えを返した。

「仰っていただいた物の中に欲しいものはありませんでした」
「何? では人でも地位でも金でもなく、何を望むというのだ」
「強いて挙げるなら、私が欲しいものは武器です」

 人なら既にエレナがいるし、今の俺がもらっても持て余すだけだ。
 かと言って、地位などあっても動きづらくなるだけだと思う。
 何より、組織に所属して社畜に戻るのはご免だ。

 金はもらって困るものではないが、そもそもリード達を討伐した時の褒賞金は侯爵の懐からも出ていた訳で、その上更に褒賞として求めることは憚られる。結果、欲しいものは『ない』というのが素直な答えになってしまった。

「教えてくれないか。なぜ君は武器を求めるんだ?」
「失いたくない者がいます。彼女を守る為にはまだまだ力が必要です」
「なるほど。守りたい者か」

 初めて侯爵が微笑んだ。

「君も知っているだろうが、リードとは浅からぬ縁があってな。二年前、私はリードに妻と子の命を奪われた。以来、定期的に討伐隊を編成していたが、連中は騎士さえ圧倒する手練れだった。まさか、君がリード達を討ち取ってくれるとは思わなかった。改めて、感謝を伝えたい」
「そんな、頭を上げてください」

 侯爵は一人の父として、夫として、俺に頭を下げた。
 俺からすれば敵討ちのつもりなどなかったし、降りかかる火の粉を払ったら偶然こうなっただけだ。

 エレナに感謝され、侯爵に感謝され、礼を言われる度に「偶然だ」と弁解したくなる。

「君はまさしく英雄だ。武器が欲しいというなら、聖剣を君に託そう」

 使用人が木箱に入った聖剣を2人で担いで持ってきた。
 箱を開けると、中に納まっていたのは柄の部分まで白い聖剣だった。

「聖剣アーク。真の所持者が現れた時、本当の力を発現すると言われている女神の剣だ」
「なるほど。では、真の所持者に持っていただくのが一番ですね」
「君なら剣の力を引き出せるかもしれない。柄を握ってみてくれないだろうか?」

 嫌な予感がしつつ柄を握ると、刀身が眩い光を発した。
 まあ、そうなるだろうな。

 俺は女神によって転生させられた。
 彼女に縁のある俺が聖剣を使えるのは自然な流れだろう。
 ステータスを見ると、またしてもジョブとスキルが追加されていた。

 アシル・カバネル(ミト):レベル25
 【冒険者】……自動地図
 【商人】……鑑定
 【不死者】……痛覚遮断
 【剣士】……剣術(中級)
 【殺人鬼】……急所攻撃
 【賞金稼ぎ】……危険感知
 【奴隷使い】……強化
 【性豪】……体力向上
 【勇者】……聖剣解放

 聖剣解放という、聖剣の持つ固有スキルを扱えるようになるスキルだ。
 ちなみに、聖剣アークは瞬間移動という破格の能力を備えていた。

「素晴らしい! 聖剣は君を気に入ったようだ! アシル君も気に入ってくれただろうか?」
「はい。素晴らしい剣だと思います」

 当然のように本名がバレている。まあ、領主にまで隠せるとは思っていなかった。騎士から報告も上がっているだろうし。

 『いいえ』と嘘をつくこともできず、俺は聖剣をいただいてしまった。
 領主に借りを作ってしまったな……。今後何か頼まれごとがあった時に断りづらくなってしまった。

「どうだろう。今日という素晴らしい日に、祝いの席を設けたいと思うのだが……」

(さっそく断りづらくなったわ……)

「ぜひお願いいたします」

 ユリアンに気に入られた俺は、エレナを伴って晩餐を共にすることを許された。
 意外だったのは、ユリアンがエレナのことを知っていたことだ。

「夜会で一度だけ会ったことがある。覚えているか?」
「はい。その、アベール卿は私の身分のことは……」
「奴隷に落ちたという話は社交界でも噂になっていたな」
「申し訳ありません。今の私は奴隷です。本来このような場に同席する身分ではありません」

 跪こうとしたエレナの肩に手を乗せる。
 謝罪の言葉を口にしようとしたところで、ユリアンは「気にするな」と身分の差を笑い飛ばした。

「非公式の場だ。気にする程のことでもない」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」

 慎ましい態度で礼をするエレナを、ユリアンは優しい目で見ている。
 娘さんがいたという話だから、在りし日の家族との思い出を重ねているのかもしれない。

「やはり聖剣に認められる者というのは、これくらいの器がなければな」
「何の話でしょうか?」
「君に決まっているだろう。世の中には奴隷との身分の差をことさら強調する為に擦り切れたボロ布を与える連中もいるが、君はしっかりと奴隷の面倒を見ている。素晴らしい男だな」

(いや、そんな人格者って訳でもないが。奴隷に手出してるし)

「ご主人様は奴隷である私のことをとても大事にしてくれます。朝食を買うのにもついてきてくれて、いつも困りごとはないかと聞いてくださいます」
「おお、そうか。2人とも、何か困ったことがあれば私を頼りなさい。その代わり、たまにでいいからこういう風に食事をしてくれるとありがたい。暖かい食事を誰かと囲む。これからはそういう時間を増やしていたきたいと思っていてね」
「私達で良ければ、是非」
「ありがとう。では、改めて乾杯しようか。得難い縁を得られた今日という日に、乾杯!」
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