捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

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皇女たちは、幸せを勝ち取りました。今日も幸せです。

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「皇族が贅沢三昧で、国民の流出が止まらないそうではありませんか?」

 エリシアが、興味ありげに身を乗り出して言った。

「国民は国の宝、彼らがいてこそ国が成り立ちますのよ?」

 ルシアは呆れたかのように、その身を椅子の背もたれへと傾けた。

「そして彼らを守るのが、我ら皇族の務めだと言いますのに……。」

「そんなこともおわかりにならないなんて……ね?」

「どのような教育を受けられたらそうなるのかしら?」

 エリシアがあえて分からぬように扇の中で、クスリと小さな笑いを漏らす。
 
「国の内情も、かなり荒れていると聞き及んでおりましてよ?近隣諸国でも有名になるくらいに……」

 姉に倣い、ルシアも静かに扇を傾けた。

「そのような国に……」

 エリシアは続けて、目の前にいる他国の皇子たちへ、冷たい視線を送った。

「何故私たちが、嫁がなければならないのでしょうか?」

 続けてルシアが冷たい視線を、皇子たちへと落とす。

「ヴァーミリオン皇国の援助さえあれば、我が国の威厳などすぐに――」

「私たちは、本当に皇女様たちを愛して……」

 皇子たちが、慌てて弁明するも。

「援助など、国民を大事に出来ないあなたたちに、何故しなくてはならないのです?」

 エリシアがそう言い捨てた。

 続けて、ルシアが扇を打ち鳴らす。

「先ほどの会話で、あなた方の愛とやらは、よく理解したつもりです。」

 そして、ルシアが言い捨てた後。

 パシン!
 扇が叩き鳴らされる音が、謁見の間に鋭く響いた。

「その上でまだ、そのようなことをおっしゃるとは。わたくしたちを馬鹿にしておいでかしら?」

 エリシアはさらに冷え切った視線で、皇子たちを見据えた。

「馬鹿にしているのは、そっちだろう!」

 とうとう第二皇子が切れた。

「女というものは、男の決断を支える立場にあるはずだろう!」

 つづけて、第三皇子も切れだした。

「あらあら怖いこと。」

「怒鳴れば言うことを聞くとでも、お思いなのかしら?」

「哀れだわ。」

「哀れね。」

 皇子たちの怒鳴り声を異に返すこともなく、皇女たちは扇で口元を隠しながら答えた。

「こ、このような屈辱を受けるのは初めてだ!決闘を申し込む!」

「そうだ!お前たちがいかに非力か、その身にたたき込んでやる!」

 皇子たちは好戦的に、そう言い放った。

 “選ぶ側”であると疑わなかった皇子たちは、値踏みされ、見下された現実に耐えきれず、決闘という形で尊厳を取り戻そうとしたのだ。

「分かりましたわ。」

「では、わたくしたちの未来の夫たちと決闘をしてもらいましょう。」

 皇女たちはニヤリと、その大きな目を意味ありげに細めた。

「もしそちらが勝てたのなら、結婚の件は承諾しましょう。」

「ええ。もし、勝てたのなら……ね?」

 怒りに我を忘れた皇子たちの前で、双子の皇女は美しく、そして怪しく微笑んでいた。

◇  ◇  ◇

「ふん!お前たち家臣程度に、この我々が……。」

「負けるはずはなかろう?」

 皇子たちは鼻息荒く、目の前の二人をさげずんで見せた。  
 彼らの相手をするのは、皇女の代理であるアレクシスとフェリクスだった。

「私たちの未来の夫たちと、対戦していただきますわ。」

「まさか、負けるとはおっしゃいませんわよね?」

 突然「未来の夫たち」と名指しされ、アレクシスとフェリクスは一瞬だけ言葉を失った。
 それとは対照的に、皇子たちは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。

「家臣などと……」

「皇国は、なんと哀れな選択を……」

 明らかに上から目線である。
 そんな皇子たちを前にしても、アレクシスとフェリクスは平然とし、通常運転だった。

「お前らはバカなのか?」

「恥を知れ!」

 彼らはまだ、自分たちが選ぶ側だと疑っていなかった。
 そんな二人の態度が気に障るのか、皇子はなおも悪態をついて見せたのだが……。

 アレクシスとフェリクスは顔を見合わせることすらせず、ただ静かに相手を見返した。

 結果……。

 学力も剣術の試合も惨敗であった。

 国家予算の再編案を問われ、皇子たちが答えたのは、自分たちに都合の良い、税収を無視した理想論だけだった。

 一方、アレクシスとフェリクスは、現行制度の欠陥と隣国との交易への影響まで即座に指摘した。

 皇子の剣は、自分のプライドのための剣だった。

 だが、アレクシスとフェリクスの剣は、国を背負う覚悟をもった、皇女たちを守る剣として振るわれていた。

 当然どちらが勝利したかは、言うまでもない。

 かたや、権力を行使するだけで名ばかりのお坊ちゃま兄弟。
 かたや、国の今後を見据えた皇女たちを守る忠実な臣下である。

「……では、今回はご縁がなかったということで。」

「ええ。」

 皇女たちは同時に頷いた。

「二度と、同じ理由で扉を叩かれませんように。」

 その言葉は、丁寧で、礼儀正しく、そして二度と立ち直れないほど、辛辣だった。

 皇子たちの心は、見事なまでにへし折られ、イシャロット一行は、逃げるように帰国していった。

 その背を見送りながら、皇女たちは静かに肩を並べた。

「……やれやれですわね。」

「ええ。でも、すっきりしました。」

 皇女たちは知っている。
 自分たちは、守られるだけの宝石ではない。

 ――運命すら、選び取る覚悟を持った皇女であることを。

 そして今日も皇女たちは、愛しの彼らの元へと歩み寄る。

 一人は、薄い水色の柔らかな髪に、サファイア色の澄んだ瞳が、眼鏡の奥に静かに隠れている。
 すらっとした、細身で長身の体。
 でも、剣術は意外にも強くて、そして博識。

 もう一人は、赤に近い茶色のくせっ毛に、エメラルド色の意志の強さを秘めた瞳が、まっすぐに輝いている。
 こちらも背は高く、すらりとして均衡のとれた体をしている。
 剣術の腕は大人顔負けで、意外にも博識。

 皇女たちは学術でも剣術でも、彼らに勝てたためしがない。
 
「アレクシス、どこに行くの?」

「フェリクス、どこに行くの?」

「ごきげんよう、エリシア様、ルシア様。今から図書館で調べ物をしようと思っております。」

「ごきげんよう、エリシア様、ルシア様。私も、今から図書館に参ります。」

 アレクシスとフェリクスはいつものように、優しい笑みを皇女たちに向けた。
 彼らの微笑みはいつも、皇女たちの心をふんわりと優しく包み込んでくれる。

「私たちもご一緒してもよろしくて?」

 エリシアが、アレクシスの右腕に、自分の両手を絡めた。

「もちろん、いいわよね?」

 ルシアが、フェリクスの左腕に、自分の両手を絡める。

「もちろんです。手伝っていただけますか?」

「とても助かります。ありがとうございます。」

 アレクシスとフェリクスの依頼を皇女たちは快く引き受けた。

「「ええ、喜んで!」」

 皇女たちは声をそろえ、笑った。
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