銀の鳥籠

善奈美

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銀の鳥籠Ⅱ マシロ&アサギ編

013 移動する部屋の秘密

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 色々調べたけど、ピンとくる名前はなかった。カーバンクルの額の石に視線を向ける。紅い石の奥の奥。絶対に浮かんでくる名前がある筈だ。
 
 俺は指を鳴らして杖を手にする。ゆっくりと深呼吸して、古代語で詠唱を始めた。今の言葉ではおそらくカーバンクルと契約するのは無理だ。黒い瞳が俺を一身に見詰めている。
 
 俺の周りに広がった魔法陣がカーバンクルを絡め取る。カーバンクルはそれに抵抗する素振りは見せなかった。
 
『汝、我が名付ける名に縛られる。心せよ。我の命尽きるまでこの契約は続行される。我は汝に蘇芳スオウの名を授ける』
 
 言葉の最後に杖をカーバンクルの上で振った。魔法陣が一際光を放ち、カーバンクルを包み込む。その光がカーバンクルに吸収されると額の石に契約の文字が浮かび上がり、消えて行った。
 
 禁呪ではないけれど、かなり強い契約の魔法だ。抵抗されれば確実に俺に魔法が跳ね返ってくる。でも、スオウは受け入れ、契約が終わると直ぐに俺の肩に戻って来た。
 
「クルル」
 
 しかも、今まで声一つ出した事がないのに、頰を舐めて一鳴きした。
 
「全く。流石、ルイの息子だな」
 
 腕を組んだリッカさんが少し呆れてた。うん、かなり強力な魔法だから。
 
「契約は成功だね。それで何か分かる?」
 
 父さんが問い掛けてくる。使い魔として契約すると互いの感覚が多少、共有される。使い魔に至っては、俺の能力を継ぐ形になるから、攻撃も可能だ。
 
「分かるのは何でだ?」
「クルクルル」
 
 スオウから流れてくる情報は簡単な理屈だった。移動する部屋の扉は一定の法則がある。つまり、望む者がいれば望む場所に扉が現れる仕組みだ。だけど、これにはカラクリがあって、正確に知らなければ現れない。つまりは、俺達が今まで目にしていた扉は本当に偶然目にしていたものに過ぎない。
 
 カーバンクルは俺達が結界の綻びを探していると知っていた。でも俺達は、綻びが本当にあるのかが半信半疑の状態だ。つまりは、中途半端に望んだもんだから見付け出せず、それを知っていたカーバンクルは俺とアサギの望みを叶えただけだったんだ。
 
「この部屋って、正確に知らないと現れないみたいだ」
「どういう事?」
「部屋が移動してるって勘違いしてるって事。言い換えるはなら、この扉が現れる場所は元々部屋なんだ。それを誰も知らないから、移動する部屋、って言われてたんだと思う」
 
 だから、現れる場所で部屋の中が違ってたんだ。そして、確実にこのカラクリを知ってる者がこの部屋を利用してる。ユグドラシルが言っていた、鍵の魔法使いの能力に問題があった時代に。でも、この鏡。元々、ここにあった物なんだろうか?
 
「あの鏡って」
 
 俺が鏡を指差すと、父さんが小さく頷く。
 
「おそらくだけど、部屋の壁画に関係があると思うよ。名付けるなら、過去を映し出す鏡、だろうね。この部屋を利用してる者にとって必要なのは道となる媒介だよ」
 
 鏡は道となり得る媒介だ。元々、存在している物なら、魔法学校の建物そのもので、弾き出されたりしない。ライカさんが部屋の謂れを知っていたから、最初からあった部屋なんだ。ただ、誰も正確に知らなかっただけで。
 
「どういう事だ?」
「鏡はこの部屋に元々あった物で、利用する者にとって都合が良かったんだよ。マシロの話を信じるなら、魔法学校の建物に掛けられた不思議な魔法で表に現れない部屋が多数存在してる。望まなければ現れないなら、それを知り利用する者にとって好都合って事になるからね」
 
 父さんは珍しく眉間に皺を寄せた。この部屋にあの矢の気配は残っていない。唯一、分かったのはこの鏡が結界の綻びである事だけだ。
 
「つまりは……」
 
 リッカさんが父さんに確認する。
 
「この場所を知ったリッカなら、次も確実に入室が可能だよ。認識する事で本当に現れるならね」
「問題は、誰がちょっかいを掛けてきてるか、じゃねえの?」
 
 母さんが納得出来ないように口を挟んだ。
 
「手掛かりの矢を見事に浄化したサクヤがそれを言うのか?」
 
 リッカさんが母さんを睨み付け、流石に不満を口にした。いくら、母さんが最強でも、文句は言いたいよな。
 
「そんなの知らなかったからじゃねぇか。まさか、俺に浄化されるような攻撃してくる奴が相手なんてさ」
 
 母さんが言うのはごもっともです。知らない情報じゃあ仕方ないけど。でも、母さんの場合、少しは気にした方がいいとは思うけど。
 
「とりあえず、リッカは長老と連絡を取る。魔法省に要連絡事項だよ。長い年月、魔法学校に綻びがあるなんて知らなかったからね」
 
 ライカさんが鏡を見詰めて、リッカさんにそう言った。うん。ここで何かを言っても始まらない。扉が移動していた部屋のカラクリは分かった。でも、この事実は秘密にしておいた方が良さそう。また、変なこと考える魔法使いが出てきたら大変だ。
 
「一旦、二人の部屋に戻ろう。この部屋は閉ざしておいた方がいい」
 
 父さんの言葉にリッカさんは頷いた。みんなで部屋を出て、リッカさんが鍵付きの結界で部屋を覆った。流石、鍵の魔法使い。呪文を聞いても、全く分からない。何でも、父さんでも理解出来ないらしい。それだけ特殊な魔法みたいだ。
 
 
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