79 / 177
第六章 悪性胎動
第七十四話 異常発生 前編
しおりを挟む
俺の肩から、ファーリちゃんの手が離れる。
その瞬間、眼前には雷の如く、木々の間を飛び回るファーリちゃんの姿があった。
「速い……!」
元々、速さと手数を活かした戦い方をするファーリちゃんだったが、今までのそれが比にさえならない程の圧倒的なスピード。
「キャオオ……!」
ファーリちゃんはキックで木と木の間を飛び回り、背後からナイフで急襲。
「はあっ……ぉっ」
左手のナイフは綺麗にケウキの背を切り裂いたものの、続けて右手のナイフを振り下ろす前に、ファーリちゃんは振り払われてしまい、ケウキに距離を取られてしまった。
「大丈夫!?」
「大丈夫。吹っ飛んだだけ」
「ファーリちゃん。木の周りを……」
「ん、分かってる。木を蹴ったのも、そう」
驚いた。
木と木の間を飛び回っていたのは、単に錯乱を狙ったものではない。
よく見てみると、木々に線が刻まれていた。
「あの線には何か意図があるのか?」
それぞれ幹に対して平行、縦方向に一本線か二本線が刻まれている木が数本ずつ。
「一本線はおいら達が斬り倒して使うやつ。二本線は、おいら達が避けた攻撃の勢いでケウキに斬らせるやつ」
この短い時間の中で、俺が割と適当につけた木の切れ込みを見て、自分達で切り倒して当てたり道を塞いだりする木として利用するべきなのか、ケウキが攻撃を外したことによる自爆を狙って利用した方が良い木なのかを選別したということだろうか。
「流石にプロだな、ファーリちゃん……」
何かコツでも掴んだのだろうか。
今のファーリちゃんは、良い意味で「異常」である。
ロディアが飛ばしてくる闇の塊をものともしないケウキに、俺が風の刃を飛ばしたところで、魔力の無駄遣いになってしまうことは分かっている。
遠距離戦を得意とするロディアの攻撃が効いていないのに、近距離戦を得意とする俺のそれが効くとは思えない。
しかし、あまり魔法が効いていないように見えるケウキだが、物理攻撃なら話は別だろう。
現にケウキからの攻撃は、勢いが強いものでも「雀蜂」で防ぐことができている。
久しぶりに突きが攻撃手段となる刀を持ったのだ、長らく使っていない「不可知槍」の出番かと思っていたが、防御面でそこまでの出力が必要というわけでもなく、また攻撃面では他の技や基礎的な魔法で事足りてしまう辺りに、少し寂しさを感じた。
「やっ、はっ!【電光石火】!」
ファーリちゃんは周囲を飛び回り、素早いケウキの爪を防ぎながら、浅くはあるが確実にケウキへ傷をつけていく。
傷跡からは禍々しいオーラのようなものが漏れ出しており、やはりケウキはケウキでも、このケウキは前に戦ったそれとは少し違うのだろうと分かった。
そしてファーリちゃんの動きに合わせて、俺は風を纏わせた新しい刀で木の幹を両断し、それを思い切り蹴飛ばして彼女を援護。
ケウキの背中に木がのしかかるかたちになれば、それが一番良いのだが……あの素早いケウキが、倒れる木などに当たる筈も無く、あくまでも行動の選択肢を絞るという意味でのサポートに甘んじている。
「クルルルルルルル……」
「これが、おいら本来の力……。もしかしてと、思ったけど……やっと、やっと分かった」
何なら妙なことを口走りながら、ファーリちゃんは全身に雷を纏う。
ファーリちゃんと戦っていた時、これは正直な感想だが、スピードはともかくパワーは少し弱いように感じていた。
しかし今までとは打って変わる、恐ろしい程の力。
つい数日前までのファーリちゃんとは見違えるような、荒々しい雰囲気に、俺は久しぶりに身震いというものをした。
「二人とも、サポートをお願い!」
「了解!ファーリちゃん、こっちへ!」
俺はガラテヤ様からの合図を受け取り、ファーリちゃんをガラテヤ様の指示する方向へ向かわせる。
彼女の向かう先には、二本線の傷がつけられた木。
「……分かった」
ケウキの右手がファーリちゃんへ襲いかかる。
しかし彼女は、その木をよじ登るまでも無く飛び越えて攻撃を回避。
狙いを外れたケウキの爪は木を切り裂き、その木は空中を舞うファーリちゃんに蹴り飛ばされ、そのまま倒れたそれはケウキの頭頂へ直撃。
そして脳が震えたのか、うつ伏せになって倒れてしまったケウキ、その頭部を狙う指先が一つ。
「ありがとう、ジィン、ファーリちゃん。さあ受けてみなさい……。【嶺流貫】!」
刹那。
周囲の空気を呑み込み、「ズォォォォォン!」という轟音と共にガラテヤ様の指先から放たれた風の弾丸が、ケウキの頭部を吹き飛ばした。
その瞬間、眼前には雷の如く、木々の間を飛び回るファーリちゃんの姿があった。
「速い……!」
元々、速さと手数を活かした戦い方をするファーリちゃんだったが、今までのそれが比にさえならない程の圧倒的なスピード。
「キャオオ……!」
ファーリちゃんはキックで木と木の間を飛び回り、背後からナイフで急襲。
「はあっ……ぉっ」
左手のナイフは綺麗にケウキの背を切り裂いたものの、続けて右手のナイフを振り下ろす前に、ファーリちゃんは振り払われてしまい、ケウキに距離を取られてしまった。
「大丈夫!?」
「大丈夫。吹っ飛んだだけ」
「ファーリちゃん。木の周りを……」
「ん、分かってる。木を蹴ったのも、そう」
驚いた。
木と木の間を飛び回っていたのは、単に錯乱を狙ったものではない。
よく見てみると、木々に線が刻まれていた。
「あの線には何か意図があるのか?」
それぞれ幹に対して平行、縦方向に一本線か二本線が刻まれている木が数本ずつ。
「一本線はおいら達が斬り倒して使うやつ。二本線は、おいら達が避けた攻撃の勢いでケウキに斬らせるやつ」
この短い時間の中で、俺が割と適当につけた木の切れ込みを見て、自分達で切り倒して当てたり道を塞いだりする木として利用するべきなのか、ケウキが攻撃を外したことによる自爆を狙って利用した方が良い木なのかを選別したということだろうか。
「流石にプロだな、ファーリちゃん……」
何かコツでも掴んだのだろうか。
今のファーリちゃんは、良い意味で「異常」である。
ロディアが飛ばしてくる闇の塊をものともしないケウキに、俺が風の刃を飛ばしたところで、魔力の無駄遣いになってしまうことは分かっている。
遠距離戦を得意とするロディアの攻撃が効いていないのに、近距離戦を得意とする俺のそれが効くとは思えない。
しかし、あまり魔法が効いていないように見えるケウキだが、物理攻撃なら話は別だろう。
現にケウキからの攻撃は、勢いが強いものでも「雀蜂」で防ぐことができている。
久しぶりに突きが攻撃手段となる刀を持ったのだ、長らく使っていない「不可知槍」の出番かと思っていたが、防御面でそこまでの出力が必要というわけでもなく、また攻撃面では他の技や基礎的な魔法で事足りてしまう辺りに、少し寂しさを感じた。
「やっ、はっ!【電光石火】!」
ファーリちゃんは周囲を飛び回り、素早いケウキの爪を防ぎながら、浅くはあるが確実にケウキへ傷をつけていく。
傷跡からは禍々しいオーラのようなものが漏れ出しており、やはりケウキはケウキでも、このケウキは前に戦ったそれとは少し違うのだろうと分かった。
そしてファーリちゃんの動きに合わせて、俺は風を纏わせた新しい刀で木の幹を両断し、それを思い切り蹴飛ばして彼女を援護。
ケウキの背中に木がのしかかるかたちになれば、それが一番良いのだが……あの素早いケウキが、倒れる木などに当たる筈も無く、あくまでも行動の選択肢を絞るという意味でのサポートに甘んじている。
「クルルルルルルル……」
「これが、おいら本来の力……。もしかしてと、思ったけど……やっと、やっと分かった」
何なら妙なことを口走りながら、ファーリちゃんは全身に雷を纏う。
ファーリちゃんと戦っていた時、これは正直な感想だが、スピードはともかくパワーは少し弱いように感じていた。
しかし今までとは打って変わる、恐ろしい程の力。
つい数日前までのファーリちゃんとは見違えるような、荒々しい雰囲気に、俺は久しぶりに身震いというものをした。
「二人とも、サポートをお願い!」
「了解!ファーリちゃん、こっちへ!」
俺はガラテヤ様からの合図を受け取り、ファーリちゃんをガラテヤ様の指示する方向へ向かわせる。
彼女の向かう先には、二本線の傷がつけられた木。
「……分かった」
ケウキの右手がファーリちゃんへ襲いかかる。
しかし彼女は、その木をよじ登るまでも無く飛び越えて攻撃を回避。
狙いを外れたケウキの爪は木を切り裂き、その木は空中を舞うファーリちゃんに蹴り飛ばされ、そのまま倒れたそれはケウキの頭頂へ直撃。
そして脳が震えたのか、うつ伏せになって倒れてしまったケウキ、その頭部を狙う指先が一つ。
「ありがとう、ジィン、ファーリちゃん。さあ受けてみなさい……。【嶺流貫】!」
刹那。
周囲の空気を呑み込み、「ズォォォォォン!」という轟音と共にガラテヤ様の指先から放たれた風の弾丸が、ケウキの頭部を吹き飛ばした。
10
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる