108 / 177
第八章 終末のようなものについて
第九十九話 消えゆく爪痕 後編
しおりを挟む
「ムーア先生!少しぶりです!」
「おお、これはこれは。皆さん、よくぞご無事で戻られましたな」
手を振ると、ムーア先生は剣を納め、こちらへ一礼する。
「腰は戻ったのでして?」
「ええ。三日後にはもう、だいぶ良くなりました。……ところで一人、『誘拐犯』が紛れ込んでいる様子ですが……一体、どういった事情がお有りですかな?」
しかし、頭を上げたムーア先生の目は、バグラディへ鋭い視線を向けていた。
「ああ、それなんですけど……」
俺達は、ロディアの正体とバグラディの加入について事情を説明し、警戒を解く。
「ふむ、そんな事情が……これは大変な失礼をしてしまいましたな。謝罪をさせて頂きたいのですが、よろしいですかな?」
「いいって。元はと言えば、俺が学校のイベントで暴れたのが良く無ェんだ。こっちこそ、反省してるよ。迷惑かけた」
「……変わられたのですな、バグラディ殿」
「ああ。俺が描いた理想は、ただ殺し合いの螺旋でしか無かったんだよォ。上に立つ者を殺し、そうしたら次に上の者を殺し、上に立つ者がいなくなったら、今度は上らしい者を見出して殺すッてなァ。それが最後の一人になるまで続くだけの、簡単な呪いだ。……滑稽だよなァ」
「全くですな」
ムーア先生という人は、物腰こそ柔らかく茶目っ気もあるが……思っていたよりも、言うべきことはきっちり言う人なのだろう。
かなり辛辣な返しである。
「ところで、ムーア先生。お願いがあるんですけど」
俺は、悪魔としての姿を見せたロディアに対して、国や貴族家などに先行して動く部隊を作るべく、ムーア先生を勧誘する。
そもそも臨時パーティを組む目的は、ロディアが何をターゲットとして、どう動くか分からない以上、その時になって、必ずしも国家や地方領主の決定を待つことができるとは限らないからである。
つまり、即応性に特化したパーティを結成すべく、立場的に動きやすい人間を選ぶ必要があるということだ。
そして、ムーア先生は騎士として名のある人とはいえ、今は冒険者養成学校の教師の一人として落ち着いている。
故に、ムーア先生は強さの割にフットワークが軽く、またそもそもが顔見知りであるため、パーティメンバーにうってつけなのである。
「なるほど……承知いたしました。退役した身とはいえ、騎士団の方で動きがあった場合は、そちらに合わせる可能性はありますが……初動での対応を望まれるということであれば、騎士団も間に合わないでしょう。是非とも、協力させて頂きます」
「マジですか!ありがとうございます!」
こうして、俺達はムーア先生を対ロディア特化のパーティに引き入れることに成功した。
続けて、俺達は中距離射撃要員としてケーリッジ先生と、装備のメンテナンス要員として武器工房のアドラさんにも声をかけ、無事に予備軍ならぬ予備パーティの結成に成功した。
ひとまず、現時点でできることはやったといえるだろう。
後は向こうが動かない限り、こちらもどうしようもない。
わざわざ洞窟や山奥を探したとして、ロディアが見つかる保証も無ければ、見つかったとて打ち破る術も見つからない。
それどころか、俺達が今も何とか生きることができている状況さえ、向こうの気まぐれで壊れてしまいかねない。
そんな恐怖がチラつきながらも、俺達は寮へ戻り、どうか明日が訪れることを待つのであった。
なお、バグラディは急な加入であったため、安宿に泊まることになったようである。
「あァ!なんだこの宿!ベッドにシミはあるし虫もウゼェ!クソッ!」
翌日、彼と宿との間で一悶着あったのは、言うまでも無いだろう。
「おお、これはこれは。皆さん、よくぞご無事で戻られましたな」
手を振ると、ムーア先生は剣を納め、こちらへ一礼する。
「腰は戻ったのでして?」
「ええ。三日後にはもう、だいぶ良くなりました。……ところで一人、『誘拐犯』が紛れ込んでいる様子ですが……一体、どういった事情がお有りですかな?」
しかし、頭を上げたムーア先生の目は、バグラディへ鋭い視線を向けていた。
「ああ、それなんですけど……」
俺達は、ロディアの正体とバグラディの加入について事情を説明し、警戒を解く。
「ふむ、そんな事情が……これは大変な失礼をしてしまいましたな。謝罪をさせて頂きたいのですが、よろしいですかな?」
「いいって。元はと言えば、俺が学校のイベントで暴れたのが良く無ェんだ。こっちこそ、反省してるよ。迷惑かけた」
「……変わられたのですな、バグラディ殿」
「ああ。俺が描いた理想は、ただ殺し合いの螺旋でしか無かったんだよォ。上に立つ者を殺し、そうしたら次に上の者を殺し、上に立つ者がいなくなったら、今度は上らしい者を見出して殺すッてなァ。それが最後の一人になるまで続くだけの、簡単な呪いだ。……滑稽だよなァ」
「全くですな」
ムーア先生という人は、物腰こそ柔らかく茶目っ気もあるが……思っていたよりも、言うべきことはきっちり言う人なのだろう。
かなり辛辣な返しである。
「ところで、ムーア先生。お願いがあるんですけど」
俺は、悪魔としての姿を見せたロディアに対して、国や貴族家などに先行して動く部隊を作るべく、ムーア先生を勧誘する。
そもそも臨時パーティを組む目的は、ロディアが何をターゲットとして、どう動くか分からない以上、その時になって、必ずしも国家や地方領主の決定を待つことができるとは限らないからである。
つまり、即応性に特化したパーティを結成すべく、立場的に動きやすい人間を選ぶ必要があるということだ。
そして、ムーア先生は騎士として名のある人とはいえ、今は冒険者養成学校の教師の一人として落ち着いている。
故に、ムーア先生は強さの割にフットワークが軽く、またそもそもが顔見知りであるため、パーティメンバーにうってつけなのである。
「なるほど……承知いたしました。退役した身とはいえ、騎士団の方で動きがあった場合は、そちらに合わせる可能性はありますが……初動での対応を望まれるということであれば、騎士団も間に合わないでしょう。是非とも、協力させて頂きます」
「マジですか!ありがとうございます!」
こうして、俺達はムーア先生を対ロディア特化のパーティに引き入れることに成功した。
続けて、俺達は中距離射撃要員としてケーリッジ先生と、装備のメンテナンス要員として武器工房のアドラさんにも声をかけ、無事に予備軍ならぬ予備パーティの結成に成功した。
ひとまず、現時点でできることはやったといえるだろう。
後は向こうが動かない限り、こちらもどうしようもない。
わざわざ洞窟や山奥を探したとして、ロディアが見つかる保証も無ければ、見つかったとて打ち破る術も見つからない。
それどころか、俺達が今も何とか生きることができている状況さえ、向こうの気まぐれで壊れてしまいかねない。
そんな恐怖がチラつきながらも、俺達は寮へ戻り、どうか明日が訪れることを待つのであった。
なお、バグラディは急な加入であったため、安宿に泊まることになったようである。
「あァ!なんだこの宿!ベッドにシミはあるし虫もウゼェ!クソッ!」
翌日、彼と宿との間で一悶着あったのは、言うまでも無いだろう。
10
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる