四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第八章 終末のようなものについて

第九十九話 消えゆく爪痕 後編

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「ムーア先生!少しぶりです!」

「おお、これはこれは。皆さん、よくぞご無事で戻られましたな」

 手を振ると、ムーア先生は剣を納め、こちらへ一礼する。

「腰は戻ったのでして?」

「ええ。三日後にはもう、だいぶ良くなりました。……ところで一人、『誘拐犯』が紛れ込んでいる様子ですが……一体、どういった事情がお有りですかな?」

 しかし、頭を上げたムーア先生の目は、バグラディへ鋭い視線を向けていた。

「ああ、それなんですけど……」

 俺達は、ロディアの正体とバグラディの加入について事情を説明し、警戒を解く。

「ふむ、そんな事情が……これは大変な失礼をしてしまいましたな。謝罪をさせて頂きたいのですが、よろしいですかな?」

「いいって。元はと言えば、俺が学校のイベントで暴れたのが良く無ェんだ。こっちこそ、反省してるよ。迷惑かけた」

「……変わられたのですな、バグラディ殿」

「ああ。俺が描いた理想は、ただ殺し合いの螺旋でしか無かったんだよォ。上に立つ者を殺し、そうしたら次に上の者を殺し、上に立つ者がいなくなったら、今度は上らしい者を見出して殺すッてなァ。それが最後の一人になるまで続くだけの、簡単な呪いだ。……滑稽だよなァ」

「全くですな」

 ムーア先生という人は、物腰こそ柔らかく茶目っ気もあるが……思っていたよりも、言うべきことはきっちり言う人なのだろう。
 かなり辛辣な返しである。

「ところで、ムーア先生。お願いがあるんですけど」

 俺は、悪魔としての姿を見せたロディアに対して、国や貴族家などに先行して動く部隊を作るべく、ムーア先生を勧誘する。

 そもそも臨時パーティを組む目的は、ロディアが何をターゲットとして、どう動くか分からない以上、その時になって、必ずしも国家や地方領主の決定を待つことができるとは限らないからである。
 つまり、即応性に特化したパーティを結成すべく、立場的に動きやすい人間を選ぶ必要があるということだ。

 そして、ムーア先生は騎士として名のある人とはいえ、今は冒険者養成学校の教師の一人として落ち着いている。
 故に、ムーア先生は強さの割にフットワークが軽く、またそもそもが顔見知りであるため、パーティメンバーにうってつけなのである。

「なるほど……承知いたしました。退役した身とはいえ、騎士団の方で動きがあった場合は、そちらに合わせる可能性はありますが……初動での対応を望まれるということであれば、騎士団も間に合わないでしょう。是非とも、協力させて頂きます」

「マジですか!ありがとうございます!」

 こうして、俺達はムーア先生を対ロディア特化のパーティに引き入れることに成功した。

 続けて、俺達は中距離射撃要員としてケーリッジ先生と、装備のメンテナンス要員として武器工房のアドラさんにも声をかけ、無事に予備軍ならぬ予備パーティの結成に成功した。

 ひとまず、現時点でできることはやったといえるだろう。

 後は向こうが動かない限り、こちらもどうしようもない。
 わざわざ洞窟や山奥を探したとして、ロディアが見つかる保証も無ければ、見つかったとて打ち破る術も見つからない。

 それどころか、俺達が今も何とか生きることができている状況さえ、向こうの気まぐれで壊れてしまいかねない。

 そんな恐怖がチラつきながらも、俺達は寮へ戻り、どうか明日が訪れることを待つのであった。

 なお、バグラディは急な加入であったため、安宿に泊まることになったようである。

「あァ!なんだこの宿!ベッドにシミはあるし虫もウゼェ!クソッ!」

 翌日、彼と宿との間で一悶着あったのは、言うまでも無いだろう。
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