四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第九章 在るべき姿の世界

第百四十五話 全身全霊

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 マーズさんはロディアの一撃で大きく吹き飛び、右腕をダランと垂らしたまま。
 しかし粉々に砕けた剣の持ち手を離さず、叩きつけられた山肌で、そのまま気を失ってしまった。

「マーズさん!」

「マーズ!……よ、よくも……」

「う……う、ウォォォォォォォォァ!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 俺とガラテヤ様がマーズさんに駆け寄ろうもする瞬間、ファーリちゃんとバグラディが飛び出す。

「よくも、よくもマーズを……ウォォォァ!」

「ロディア……お前を殺すっ!」

 怒りに燃える二人の攻撃は、その感情が共鳴してか、妙に息が合っていた。

「おっとっと。マーズがやられたこと、そんなに悔しかったかい?」

「悔しいに決まってる!マーズお姉ちゃんも、マーズお姉ちゃんも、剣も!ボロボロにされて、それも裏切り者に!ロディア、お前に!」

「ジィンがどうなろうが、オレには知ったことじゃあねェ。だが、オレの元部下どころか、ジィンやガラテヤとも同じ日に知り合ったマーズを、あそこまで冷淡に叩き潰せるなんざ、確かに人の所業じゃァねェな!流石悪魔だァ!クソ程にムカつくぜェ!」

「いやあ分かりやすいねぇ、二人とも」

 ロディアはほくそ笑み、二人の攻撃をデモンセスタスで防ぎ、そのまま弾き飛ばす。

「ぐぅっ!」

「ケッ!気に入らねェな!こんな外道でも、力を持って生きていられるなんざ……!」

「それは昔の君も変わらなかったと思うけどねぇ」

「うるせぇ!今のオレは変わったんだ!後から本性を現しやがったテメェとは違ってなァ!」

「おお、それは関心だね。それじゃ、これくらいは軽く打ち返して欲しいな……【死屍舞ししまい】!そらっ、そらぁ!」

 続けて、『死屍舞ししまい』が一発ずつ、それぞれファーリちゃんとバグラディを狙って撃たれた。

「全て避ける……!【電光石火でんこうせっか】!」

「ナメんなァ!【炎灰阿エンパイア】!」

 ファーリちゃんは周囲の地形を利用して高速移動による回避を行い、追尾する『死屍舞ししまい』を岩場にぶつけ、爆発させる。

 一方のバグラディは、炎を纏った斧で『死屍舞ししまい』を切り払い、闇の燃え滓も炎で包み込み、焼却した。

「ま、これくらいはね。じゃあ……これはどうかな!【死屍累々退ししるいるいたい……」

「来るぞ、チビ。備えろ……!」

「ん……!大丈夫、かな」

「分からねェ。だが、テメェ一人くらいなら守れるかもな。その代わり、オレに何かあったら……テメェがマーズを王都まで連れて行ってやれ。いいな?」

「任せて。そんなことは考えたくないけど」

「チッ、そこは『一緒に生き残ろう』とか何とか言いやがれ。チビ」

「ふ。冷静って、褒め言葉だと思っとく」

「勝手にしな」

 闇の魔力を溜め続けるロディアを前に、バグラディは一歩も引かない。

「無理しないでください!」

「ダメよ!これ以上は、本当に……!」

 しかし、こちらへ走ってくるファーリちゃんを横目に、反対方向へ走る影が一つ。

 悪魔の元へ、俺とガラテヤ様の元から離れた、武器を失い、大怪我を負っている乙女が一人。

「皆、よく時間を稼いでくれた。私が起き上がるまで、戦ってくれてありがとう」

「ま、マーズお姉ちゃん!?」

「オイ!無理してんじゃアねェッ!」

「秘技……【怒羅愚吽ドラグーン】………………!!!」

「な……!マー、ズ……!?ぐ、べ、ぁぇ……!?」

 一瞬にしてロディアの懐へ潜り込んだ彼女の、骨も神経も粉々になっていたハズの右腕は、彼女が持つハズも無い、霊の力で満ち溢れていた。

「さらば」

「べ、べべべ、ぶぃ……ぐェェェェェェェァ!」

 そして、マーズさんの拳は腹部に風穴を開け、そのまま脊髄を抉り、顎を破壊。

 ジノア・セラムの血肉が、悪魔マルコシアスによって変質させられたのであろうそれは。
 脳天を粉々にされるまでの一瞬で、この「果て」に積もる雪を赤黒く染めん程に飛び散ったのであった。
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