5 / 26
協力してやろう
しおりを挟む
ノアに詳しく話を聞くと、彼は一角狼の角のような廃棄される材料を使って、新しい製品を生み出す研究をしているのだという。
「殿下が使用されている化粧水をお借りすることはできませんか? 何かヒントだけでも掴みたくて……」
必死な様子のノアを見るに、どうやら研究はあまりうまくいっていないらしい。
「だったら化粧水の調合を教えてやろう」
「え?」
「どうした? そのほうが手っ取り早いだろ?」
「でも、それは開発者の許可を取ってからでないと……」
「だから、開発者の僕がいいと言っているんだ」
「へ?」
ノアがぽかんと口を開ける。
自身の肌に一番馴染むものを、自分の手で作った。ただそれだけのことなのに何を驚いているのだろう。
「実際に作って見せたほうがわかりやすいのではありませんか?」
「それもそうだな」
クライドの提案に僕も頷く。
「で、でしたら、僕の研究室へご案内いたします!」
◇
医務室を出てノアの研究室へと移動し、さっそく化粧水を作ってみせた。
「あとはここに薄めた精油を加えると、好みの香りに調合できる」
「な、なるほど……」
ノアは必死にメモを取っている。
「使用感をお聞きしても?」
「それはノアが自分で試してみるといい。まあ、僕のこの美しい肌が全てを物語っているがな」
「たしかに、殿下の肌は真っ白でシミ一つなくて……とても美しいです!」
「そうだろう?」
ノアの素直な称賛の言葉に、僕の自尊心は満たされていく。
「どうだ? 他にわからないところはないか?」
「はい! 殿下の説明はとてもわかりやすいので」
人に何かを教えた経験がなかった僕は、ホッと息を吐いた。
「それにしても、オリジナルの化粧水を開発をするなんて殿下はすごいですね!」
「そうか?」
「まだコスト面に課題はありますが、これは商品として十分通用すると思います」
「コスト?」
きょとんとする僕に、ノアが簡単に説明をしてくれる。
どうやら、一角狼の角以外に使われる材料が高価すぎるということらしい。
(材料の値段なんて考えたこともなかったな……)
必要だと思う材料は、金額など気にせずに全て王城へ取り寄せていた。
だが、商品として販売するならば避けては通れない問題なのだろう。
その辺りはノアがこれから考えていくという。
「殿下のおかげでやっと可能性が見えてきました! ありがとうございます!」
再び興奮した様子のノアを見ながら、不思議な気持ちが湧き上がる。
僕の取り柄はこの美しさだけで、ただそれを磨くように母上から言われ続けてきた。
日焼けをしないよう外へ出るのは最小限に、手の平にマメができ、腕の筋肉の付き方にバラつきが出てしまうからという理由で剣術の稽古を禁じられてしまう。
元から魔法の才能はなかったが、火魔法を使用した際に軽い火傷を負ったせいで魔法の訓練すらも禁止されてしまった。
これをきっかけに勉学に励み、そちらの才能が伸びればよかったのだが……残念ながらそう上手くはいかない。
すっかり手持ち無沙汰になった僕は、何か趣味になりそうなものを探すようになったのだ。
そのうちの一つがスキンケアアイテムの自作で、単調な作業が意外と性に合っていたらしく、僕にとって息抜きの時間にもなっていた。
(それに、美しさを磨く研究ならば母上の機嫌を損ねることはないからな)
そんな、ただ自分のためだけの行いが、他の誰かに認められるとは思わなかったのだ。
「乳液と美容液の調合法も教えてやろうか?」
「ええっ!? よろしいのですか?」
「ああ。僕のこの美しい肌は化粧水だけでは到底再現できない」
「ありがとうございます!」
こうして、訓練が休みの日はノアの研究に協力することになったのだった。
◇
「おい、なんで今日も来たんだ?」
夕食の時間になり、クライドが食堂へ向かってしばらく経つと、自室の扉をノックする音が響く。
まさかと思いながらも扉を開けると、アイザックが目の前に立っていたのだ。
「なんでって……いつものお菓子を届けに来たんですよ」
「だから、今日の訓練は休みだったろ? それなのにお菓子を食べる理由がない」
嗜好品ではなく疲労回復にいいから食べるという話だったではないか。
そう言うと、アイザックは目を見開く。
「え? でも、今日は外に出掛けていませんよね?」
「それはそうだが……。なぜ、そんなことを知っている?」
「外出届にも馬車の貸出記録にも殿下の名前がありませんでしたから」
「…………」
なぜ、そんなことをチェックしているんだ……。
「だから、殿下は俺のことを待ってるんだと思って会いに来たんですけど……」
「どうして僕が出掛けていないことと、お前を待つことが繋がるんだ!?」
どうやら、休日にお菓子を買いに出掛けなかった理由を、僕がアイザックとの給餌の時間を望んでいるからだと解釈したらしい。
「ふざけるな! そんなはずがないだろう! 急用で街へ出掛ける予定がなくなっただけだ」
すると、わかりやすくアイザックの顔が不機嫌になる。
「あー、そうですか。だったらこれはいりませんよねぇ」
そう言いながら、アイザックは手に持つ袋から小さな白い箱を取り出した。
「何だそれは?」
「シュークリームです」
「シュークリーム!?」
「殿下のために街で買ってきたんですけど……。いらないんだったら自分で食べますから」
「えっ………」
この五日間で口にしてきたものはクッキーやチョコレートのような保存の効くお菓子ばかりで、それでも十年振りに食べるそれらの味に夢中になってしまった。
(シュークリーム……)
もう味はあまり思い出せないが、自分の好物であったことは覚えている。
「ちなみに今日中に食べないとダメなやつです」
「今日中……」
「ええ。俺は甘いものが得意じゃないので、残してしまうかもしれません」
「なんてもったいない!」
「ですよねぇ?」
「…………」
また、いつもの胡散臭い笑みを浮かべるアイザック。
「その……残すくらいなら僕が食べてやってもいい」
「あれ? 訓練がない日は食べないって、さっき言ってませんでしたか?」
「むぅ………」
なんて意地悪な奴だと睨みつけるも、今度は嬉しそうな表情かおになるアイザック。
睨まれて喜ぶだなんて、何を考えているのかさっぱりわからない……。
「ははっ、冗談ですよ。じゃあ、部屋に入ってもいいですか?」
「ああ……」
結局、いつものようにアイザックからお菓子を貰うはめになってしまった。
「殿下が使用されている化粧水をお借りすることはできませんか? 何かヒントだけでも掴みたくて……」
必死な様子のノアを見るに、どうやら研究はあまりうまくいっていないらしい。
「だったら化粧水の調合を教えてやろう」
「え?」
「どうした? そのほうが手っ取り早いだろ?」
「でも、それは開発者の許可を取ってからでないと……」
「だから、開発者の僕がいいと言っているんだ」
「へ?」
ノアがぽかんと口を開ける。
自身の肌に一番馴染むものを、自分の手で作った。ただそれだけのことなのに何を驚いているのだろう。
「実際に作って見せたほうがわかりやすいのではありませんか?」
「それもそうだな」
クライドの提案に僕も頷く。
「で、でしたら、僕の研究室へご案内いたします!」
◇
医務室を出てノアの研究室へと移動し、さっそく化粧水を作ってみせた。
「あとはここに薄めた精油を加えると、好みの香りに調合できる」
「な、なるほど……」
ノアは必死にメモを取っている。
「使用感をお聞きしても?」
「それはノアが自分で試してみるといい。まあ、僕のこの美しい肌が全てを物語っているがな」
「たしかに、殿下の肌は真っ白でシミ一つなくて……とても美しいです!」
「そうだろう?」
ノアの素直な称賛の言葉に、僕の自尊心は満たされていく。
「どうだ? 他にわからないところはないか?」
「はい! 殿下の説明はとてもわかりやすいので」
人に何かを教えた経験がなかった僕は、ホッと息を吐いた。
「それにしても、オリジナルの化粧水を開発をするなんて殿下はすごいですね!」
「そうか?」
「まだコスト面に課題はありますが、これは商品として十分通用すると思います」
「コスト?」
きょとんとする僕に、ノアが簡単に説明をしてくれる。
どうやら、一角狼の角以外に使われる材料が高価すぎるということらしい。
(材料の値段なんて考えたこともなかったな……)
必要だと思う材料は、金額など気にせずに全て王城へ取り寄せていた。
だが、商品として販売するならば避けては通れない問題なのだろう。
その辺りはノアがこれから考えていくという。
「殿下のおかげでやっと可能性が見えてきました! ありがとうございます!」
再び興奮した様子のノアを見ながら、不思議な気持ちが湧き上がる。
僕の取り柄はこの美しさだけで、ただそれを磨くように母上から言われ続けてきた。
日焼けをしないよう外へ出るのは最小限に、手の平にマメができ、腕の筋肉の付き方にバラつきが出てしまうからという理由で剣術の稽古を禁じられてしまう。
元から魔法の才能はなかったが、火魔法を使用した際に軽い火傷を負ったせいで魔法の訓練すらも禁止されてしまった。
これをきっかけに勉学に励み、そちらの才能が伸びればよかったのだが……残念ながらそう上手くはいかない。
すっかり手持ち無沙汰になった僕は、何か趣味になりそうなものを探すようになったのだ。
そのうちの一つがスキンケアアイテムの自作で、単調な作業が意外と性に合っていたらしく、僕にとって息抜きの時間にもなっていた。
(それに、美しさを磨く研究ならば母上の機嫌を損ねることはないからな)
そんな、ただ自分のためだけの行いが、他の誰かに認められるとは思わなかったのだ。
「乳液と美容液の調合法も教えてやろうか?」
「ええっ!? よろしいのですか?」
「ああ。僕のこの美しい肌は化粧水だけでは到底再現できない」
「ありがとうございます!」
こうして、訓練が休みの日はノアの研究に協力することになったのだった。
◇
「おい、なんで今日も来たんだ?」
夕食の時間になり、クライドが食堂へ向かってしばらく経つと、自室の扉をノックする音が響く。
まさかと思いながらも扉を開けると、アイザックが目の前に立っていたのだ。
「なんでって……いつものお菓子を届けに来たんですよ」
「だから、今日の訓練は休みだったろ? それなのにお菓子を食べる理由がない」
嗜好品ではなく疲労回復にいいから食べるという話だったではないか。
そう言うと、アイザックは目を見開く。
「え? でも、今日は外に出掛けていませんよね?」
「それはそうだが……。なぜ、そんなことを知っている?」
「外出届にも馬車の貸出記録にも殿下の名前がありませんでしたから」
「…………」
なぜ、そんなことをチェックしているんだ……。
「だから、殿下は俺のことを待ってるんだと思って会いに来たんですけど……」
「どうして僕が出掛けていないことと、お前を待つことが繋がるんだ!?」
どうやら、休日にお菓子を買いに出掛けなかった理由を、僕がアイザックとの給餌の時間を望んでいるからだと解釈したらしい。
「ふざけるな! そんなはずがないだろう! 急用で街へ出掛ける予定がなくなっただけだ」
すると、わかりやすくアイザックの顔が不機嫌になる。
「あー、そうですか。だったらこれはいりませんよねぇ」
そう言いながら、アイザックは手に持つ袋から小さな白い箱を取り出した。
「何だそれは?」
「シュークリームです」
「シュークリーム!?」
「殿下のために街で買ってきたんですけど……。いらないんだったら自分で食べますから」
「えっ………」
この五日間で口にしてきたものはクッキーやチョコレートのような保存の効くお菓子ばかりで、それでも十年振りに食べるそれらの味に夢中になってしまった。
(シュークリーム……)
もう味はあまり思い出せないが、自分の好物であったことは覚えている。
「ちなみに今日中に食べないとダメなやつです」
「今日中……」
「ええ。俺は甘いものが得意じゃないので、残してしまうかもしれません」
「なんてもったいない!」
「ですよねぇ?」
「…………」
また、いつもの胡散臭い笑みを浮かべるアイザック。
「その……残すくらいなら僕が食べてやってもいい」
「あれ? 訓練がない日は食べないって、さっき言ってませんでしたか?」
「むぅ………」
なんて意地悪な奴だと睨みつけるも、今度は嬉しそうな表情かおになるアイザック。
睨まれて喜ぶだなんて、何を考えているのかさっぱりわからない……。
「ははっ、冗談ですよ。じゃあ、部屋に入ってもいいですか?」
「ああ……」
結局、いつものようにアイザックからお菓子を貰うはめになってしまった。
189
あなたにおすすめの小説
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。
Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」
***
地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。
とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。
料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで——
同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。
「え、これって同居ラブコメ?」
……そう思ったのは、最初の数日だけだった。
◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる