ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ

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脱・給餌スタイル

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見習い騎士として訓練を始めてから五日が経ち、ようやく筋肉痛で身体中が痛むこともなくなっていた。

(やはり甘いものは疲労回復にいいんだな)

昨日食べたミルクチョコレートの味を思い出し、自然に笑顔になってしまう。 

あれ以来、訓練が終わって夕食の時間になると、クライドが食堂へ向かうのと入れ替わりにアイザックが僕の部屋を訪れるようになった。
そして、チョコレートだけでなく、クッキーやマシュマロなどを日替わりで僕に与えてくれる。
十年振りに食べるお菓子の味は格別で、この時間のために訓練を頑張っていると言ってもいいくらいだ。

ただ、一つだけ困っていることがあった。
それは、アイザックがお菓子を手ずから僕に食べさせること。

『おい! 渡してくれれば自分で食べられると言っているだろう!』
『殿下の手を汚したくないんですよ。ほら、いいから口を開けてください』

どれだけ自分で食べられると訴えても、あの胡散臭い笑顔を浮かべながらスルーされてしまうのだ。
結局、僕が折れなければお菓子を貰えないので、仕方なく口を開けているのだが……。

(あんなの、まるで給餌じゃないか!)

しかも、始めは口の中へお菓子を放り込むだけだったのに、いつの間にか僕の隣に並んで座るようになり、髪に触れたり頬に手を添えたりするようになって……。
ついに昨日は、ミルクチョコレートを僕の口の中に押し込むと、その指を抜かずに舌を撫でたり挟んだりとやりたい放題だった。

苦しさの中にゾワゾワとした感覚が背筋を走り、指を口に入れたままアイザックを睨みつけると、あのギラギラとした目が僕を見つめて……。

(指を噛みちぎってやればよかったな)

おかげで、ゆっくり味わうこともできず、僕の口周りはチョコレートでベタベタになって最悪の気分だった。
まあ、お詫びだと言って追加のチョコレートを二粒もらえたので、渋々許してやったのだが……。

(ふんっ。これからは自分で買えば万事解決だ)

そう、今日は訓練が始まって以来初めての休日。
街へ出てお菓子を買って帰れば、給餌スタイルを受け入れてまでアイザックから貰う必要はなくなるのだ。

(あとは保湿クリームと化粧水の材料も買っておくか……)

愛用しているスキンケアアイテムは、僕の肌質に合わせて全てオリジナルで調合したものだ。
手元にあるだけを王城から持ってきたが、さすがに残りが少なくなってきた。

買うものをあれこれと頭に浮かべながら馬車の待機所へ向かうと、僕と同じようにこれから街へ向かおうとする者たちで混み合っている。
そこへ一台の馬車が到着し、中から若草色の髪の男が一人降りてきた。騎士ではなさそうなその姿に、なんとなく興味を惹かれて目で追ってしまう。

たくさんの荷物を抱えたその男がすぐ側まで来て、僕とすれ違う瞬間につまずいた。

「うわぁぁあ!」 

叫び声を上げながら豪快に転んで地面に荷物をぶちまけた男に、クライドが慌てて駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
「うぅ……すみません……」

突然の出来事に僕は動けずにいたが、足元に転がるいくつもの瓶に気づき、その一つを拾い上げた。

「これは……?」
「殿下、この方を医務室へ運びますから荷物をお願いします」
「え? 荷物って、これを僕が拾うのか!?」
「ほら、行きますよ」
「お、おい、待ってくれ!」

僕は地面に散らばる瓶や袋を拾い、慌ててクライドたちのあとを追った。





「お手数をおかけして申し訳ありません」

医務室で深々と頭を下げる若草色の髪の男。
転んだ時に負った怪我は、すでに治癒魔法によって治療されている。

「僕はノア・アーミテイジと申します。研究員をしておりまして……」

まだ新人ですが……と、ノアは小さな声で付け足した。

年齢は二十代半ばに見えるが、髪はもじゃもじゃと伸びっぱなしで、分厚いレンズの入った眼鏡も相まって、ひどく野暮ったい印象だ。  

ノアの自己紹介のあとにクライドが名乗り、続いて僕のことを紹介をする。

「や、やっぱりサミュエル第三王子殿下だったんですね! 殿下と呼ばれていたので、もしやとは思ったのですが……」

僕が王子だと知って興奮した様子のノアに、ちょっと……いや、かなり気分がよくなった。

「僕のことを知っているんだな」
「はい! 殿下のことは噂で聞いておりましたから」

どうやら、この辺境の地にも僕の美しさが正しく広まっているようだ。

「浮気をして婚約破棄をされたあげく、辺境ここへ送られたのですよね!」
「…………」
「殿下のことは正しく広まってますねぇ」

しみじみと呟くクライドを睨みつける。

「あ! そんなつもりで言ったわけじゃなくって……その、すみません!」

慌てて謝るノアを、クライドが「気にしなくていいですよ」と宥めているが、それは僕が言うセリフだろう。

「そういえば先程の荷物は大丈夫でしたか?」
「ああっ! そうだった!」

ノアは僕が拾った瓶を慌てて確認し始めた。
さっきからバタバタと落ち着きのない奴だ。

「よかった……割れてない。中身も無事です」

細かく分割されたつのの入った瓶を手に持ち、ホッとした様子のノア。
そんな彼に気になったことを尋ねる。

一角狼クルフィアつのなんて何に使うんだ?」

一角狼クルフィアとは、額に立派な角を生やし、灰銀色の体毛に覆われた狼型の魔獣だ。
その美しい毛皮は貴族に人気で、高値で取引されていると聞く。

そして、角は煎じれば炎症を抑える薬として使えるのだが、発熱や喉の痛みを柔らげるには弱かった。
それならば、数も多く討伐も容易な一角兎アルミラージの角のほうが、薬効も高く薬として重宝されている。

「殿下は一角狼クルフィアの角をご存知なんですか?」
「知ってるも何も、これを買いに街へ行くつもりだったんだ」
「え? でも、一角狼クルフィアの角は街に売っていませんよ」
「何だと!?」

魔獣の討伐は騎士団や冒険者が請け負い、討伐した魔獣は解体され、部位ごとに販売されると聞いていた。
しかしノアの話によると、一角狼クルフィアの角は需要がないため破棄されてしまうことがほとんどだという。

「研究材料として使いたいと、事前に冒険者ギルドに申請をして今回は購入できたのです」

王城では望めば当たり前のように材料が手に入っていたため、そこまで気が回らなかった。

「それじゃあ化粧水が作れないじゃないか!」
「もう市販品でいいんじゃないですか?」
「ダメだ! ただでさえ環境のせいで肌の調子がイマイチなんだからな!」
「誰も殿下の肌なんて気にしていませんよ」
「僕が気にするんだ!」
「あ、あの……!」

言い合うクライドと僕の間に、ノアが口を挟んだ。

一角狼クルフィアの角が必要な理由って……?」
「僕専用の化粧水を作るためだ」

すると、突然ノアが僕の両手を掴む。

「殿下! 僕の研究をお手伝いいただけないでしょうか!」
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