42 / 81
042 紅風旅団
しおりを挟む溺れる女賊たちを救助。
放っておこうかとも考えたが、なんとなくこの人たちって憎めないんだよねえ。窃盗目的にて乙女の寝所に忍び込むのは、さすがにどうかと思うけれども、わたしには直接危害を加えようとはしなかった点は評価できる。
なんていうか、無法者は無法者なりに、ちゃんと踏みとどまるべき線をわきまえているような気がする。
これってけっこう大切なことだよ?
自分なりの規範を内に秘めているかどうか。
それが人間とケダモノの差だと、わたしは考えている。
善には善の、悪には悪なりの美学がないとね。こだわりなき生は、虚しいばかりでつまらないよ。
だから助けることにした。
◇
すっかり濡れそぼった黒装束。ピタリと肌にまとわりつく布地。あちこち浮き上がる女体の特徴的部位と曲線。
フム。これはかなりエロエロですな。
酔ったオヤジ目線にて、わたしが全身を舐めまわすように見ていたら、背の高い女が覆面をとる。
あらわとなったのはキツネ目の美人さん。
「まずは礼を言わせてくれ。助かったよ、嬢ちゃん。しかしあたいたちも焼きがまわったね。狙った相手から情けをかけられるなんて」
後ろで束ねられている赤髪から雫を垂らしつつタメ息をついた彼女。「紅風旅団の首領アズキ」と名乗る。
富める者のみから奪い、弱者は傷つけないを信条とする義賊。
ご大層な名前がついているが、構成員は現在三名のみ。現在団員募集中につき、これからおおいに雄飛する予定であったとのこと。
いろいろとツッコミどころのあるお話。
けれども、口調といい態度といい、いかにも姉御肌といった気風のアズキ。わたしはこういう女性、わりとキライじゃない。
アズキに続いて、がっちりした女と小柄な女も覆面を脱ぎ素顔をさらす。
「自分はキナコ。ありがとう」
がっちりした女が勢いよく頭を下げた。
ひょうしに茶髪のぼさぼさ頭から飛沫がぴちゃり。
ニカッと笑うパッチリお目め。こちらは、いかにも大雑把を絵に書いたような女人であるが、ちょっと阿呆っぽい気がする。
アズキにキナコと続けば、お次はヨモギとかアンコあたりかと、内心でドキドキ。
そんなわたしの淡い期待はあっさり裏切られる。
「……うちはマロン。泳ぎは苦手。助かった」
よもやの外国産っ!
えっ、ちがうの。
正しくは四分の一だけ血が混じっている? へー、そうなんだぁ。
などという説明を栗毛のおかっぱ頭から受けた。
◇
わたしも名乗り、ついでに仲間たちをご紹介。
空を自在に飛び、意思を持ち、言葉を発する勇者のつるぎミヤビ。
第一声にてガツンとかます。「もしもチヨコ母さまに危害を加えようとしたら、即座に三枚におろす」
鉢植えにてうねうね。言葉を発する単子葉植物の禍獣であるワガハイ。「ワガハイ、女人は選り好みせぬで候。すべからく宝なり。おっぱい、あれはいいモノ」と意味不明発言。
おっかなびっくりの紅風旅団。
顔合わせが済んだところで、今回の一件についてアズキより釈明を受ける。
「あたいたちも知らなかったんだ。あんなことを仕掛ける手筈になっていたなんて」
語られる今回の襲撃の一部始終。
アズキたちの言い分を鵜呑みにすれば、こういうことになる。
聖都にて義賊として活動していた紅風旅団の面々。
高貴な屋敷にしのび込んでは盗みを働いたり、暴利をむさぼる悪徳商人から奪ったりした金品らを、市井の貧しい人たちにばら撒いていたある日のこと。
なにやらとんでもない剣があるらしいということと、それにまつわる不穏なウワサを耳にする。
「神がこの世界に遣わした天剣(アマノツルギ)のチカラを、ユモ国が独占しようとしている。あれは権力者たちのオモチャではない。本来であれば国や身分に関係なく、広くあまねく民のために用いられるべきモノ。だというのに」
自称・義賊の身としては、これはとても見過ごせない話。
おおいに義憤に駆られたアズキ、キナコ、マロンたち。「よし! いっちょやったるか」俄然やる気となる。
するとそこにツツツと近寄ってきたのが、ナゾの人物。
「その高潔なる志。まっこと感服しました。矮小な身にて微力ながら、ぜひとも私にもお手伝いをさせていただきたい」
とりたてて特徴のない中年男からの申し出。
はじめは胡散臭いとアズキたちも相手にしなかったのだが、もたらされる情報や援助は本物。次第に信用するようになっていく。
で、満を持して忍び込んだ一度目は、わたしの機転により失敗。
二度目が逃げ場のない船での不意打ちだったのだけれども、フタを開けてみればあの大炎上。
「自分らが聞かされていたのは、煙をたいて混乱しているうちにって」とキナコ。
「……火は見せかけ。実際にはつけないって話だったのに」とはマロン。
「いまさらだけど、よくよく考えてみたら、いいように動かされていたような気がする」
拳を握りしめて反省するアズキの言葉に、コクコクとうなづき同意を示すキナコとマロン。
なお彼女たちは沼色の装束と白面をかぶった連中とは、いち面識もないとのこと。
話しの流れ的にはナゾの中年男がむちゃくちゃ怪しい。けれども現時点ではどこまでいっても疑惑止まり。わからないことをいくらウジウジ考えていてもしようがないので、わたしはいったん脇へと「てぃっ」
「あー、まぁ、そういうことなら、もう行っていいよ。あなたたちも利用されただけみたいだし。ご覧のとおり、勇者のつるぎが人間風情にどうこうできるシロモノじゃないことは、わかったでしょう?」
わたしの言葉にうなづく紅風旅団の三人組。
「どうしてあたいたちを見逃してくれるんだい?」との疑問には「若い女の打ち首獄門なんて見たくない」と答えておく。ついでに「もしも都落ちをするときには、ぜひともポポの里へ」と宣伝しておく。
辺境のすみっこ暮らしでは、過疎問題は近々の課題だからね。
活きがよくって、腕の立つ若い娘さんならば、いつでも大歓迎。里のお兄さま方もきっと大よろこび。
郷里を遠く離れてもそのことを忘れない。わたしってばとってもいい子。
なのに、何をかんちがいしたのか女義賊ども。
「こんなアタイたちのことをそこまで案じてくれるだなんて」とアズキ。
「うぅ、自分、すごく感動」とキナコ。
「……じーん」とマロン。
三人そろって感極まり、「剣の母さま」と片膝ついて首を垂れる。
かくしてわたしことチヨコは手下を三匹獲得。
それと同時に、紅風旅団の新首領に就任?
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる