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041 拾いもの
しおりを挟む燃え盛る船から、勇者のつるぎミヤビに乗って脱出したわたし。
見れば流れ橋の上には、野次馬がつらつら。
「貴人の船が燃えているぞ!」「えらいこっちゃ!」「きゃーっ」「けっ、いい気味だぜ」「バカ、今はそんなことを言ってるときじゃないだろう!」「早く助けないと」「おいおい、沈むんじゃねえのか」「なんだなんだ?」「火事?」「えっ、あれはなんだ?」「トリか?」「女の子?」「ちがう! 剣が空を飛んでいるぞ!」「はぁ? 何をバカなことを……、ってマジかよ!」
船の異変に気がついて足を止め、にぎわっている橋の上の人々。
心配している声もちらほらあるけれども、大半が事態をおもしろがっているみたい。
まぁ、民草なんてものはこんなものだよね。
お金持ちとえらい人の不幸は蜜の味。
とはいえ、このままだと自分たちも、どっぷり火の粉が降りかかることに気がついているのだろうか?
だって、襲撃現所は川上。
そして流れ橋は川下にある。
これはえらい人が利用する船が「ぺーぺーの庶民どもが使う橋より風下を渡るなど、言語道断!」という、くだらない理由にての決まり事による結果。
水は基本的に上から下へと流れる。人の思惑なんぞは関係なしに。
「……というわけで、のんびり見物していたら危ないよー。じきに燃える船が突っ込んでくるよー。そうしたらいっしょに人間タイマツで火祭りだよー」
橋を並走するように飛びながら、わたしが注意喚起。
それで我にかえった野次馬たち、ギョッ!
ドタバタ、一斉に岸を目指して移動を開始。
「ほら、そこ、あわてない。まだ余裕があるから。若いのは女子どもに手を貸してあげて。漢気をみせたら『あらステキ!』ってな具合に、あらたな恋が芽生えるかもしれないよ」
わたわたしている野次馬らに声をかけつつ、わたしはヨト河を渡る。
橋のたもと……では現場が混乱し避難の邪魔になりそうなので、やや川下の岸辺にある林へと向かう。
適当なところに着地したところで、ミヤビが「チヨコ母さま、あれを」
見ればさっきまで自分が乗っていた船が、ぐりんと転覆するところであった。他の二艘も早や風前の灯火。
フム。これはみんなダメかもしれない。ナムナム。
◇
河の流れに押されるかっこうにて、次々と流れ橋にぶつかる三艘の船たち。
燃え移る炎と衝撃にて、橋がゆっくり倒壊。
というか分解を開始。
もとから洪水などのときには、加わるチカラが一定以上になると自壊する構造の流れ橋。橋脚だけを残し、バラバラと橋ゲタが崩れてゆき、ガラガラどっかん。盛大に水しぶきをあげる。
その様子を岸辺から眺めていた、わたしとミヤビとワガハイ。
「あのぶんだと橋はたいして燃えずにすみそうだね」とわたし。
「予算をケチった造りが、思わぬ功をそうしましたわ」とミヤビ。
「おかげで船から投げ出された連中も溺れずにすみそうである」とワガハイ。
ワガハイの言葉の通りにて、船から脱出した使節団の面々が最寄りに浮いている橋ゲタや、木材なんかにしがみついてあっぷあっぷ。
一方で馬や騎竜なんかは、わりと余裕顔にてスイスイ泳いでいる。
そういえば聖都は大きな湖に面したところに位置しており、水産業や水運が盛んであると学び舎の授業で習ったことがある。そのせいでみんな水に慣れているのかな?
なんぞと考えていたら、「おぉ!」わたしたちは思わず声をあげた。
転覆した船から少し離れたところにて、ザバンッと水中より勢いよく姿をあらわしたのは、四頭立ての馬車。自分たちがずっと乗っていたやつである。
まさかの水陸両用っ! これにはおったまげ。
うーん。ポポの里を旅立って以来、一番の驚きかもしれない。
◇
船の沈没やら橋との激突、橋の倒壊のどさくさに紛れて、いつの間にか姿を消していたのが襲撃者たち。沼色の衣装と一つ目の白面をかぶった怪しげな連中が、どこにも見当たらない。
じつに見事な撤収。敵ながら感心させられる手際のよさ。
それに比べて、まるでダメだったのが例の女賊三人組。
河中にて一本の細木を奪い合うような醜態をさらす。どうやら全員泳ぎがダメみたい。
ならばどうして河で襲ってきた? と内心でツッコんでいたら、ついには仲良くそろってブクブク暗く冷たい水底へと。
見かねたわたし、あきれつつも手を差しのべた。
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