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月芝

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042 紅風旅団

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 溺れる女賊たちを救助。
 放っておこうかとも考えたが、なんとなくこの人たちって憎めないんだよねえ。窃盗目的にて乙女の寝所に忍び込むのは、さすがにどうかと思うけれども、わたしには直接危害を加えようとはしなかった点は評価できる。
 なんていうか、無法者は無法者なりに、ちゃんと踏みとどまるべき線をわきまえているような気がする。
 これってけっこう大切なことだよ?
 自分なりの規範を内に秘めているかどうか。
 それが人間とケダモノの差だと、わたしは考えている。
 善には善の、悪には悪なりの美学がないとね。こだわりなき生は、虚しいばかりでつまらないよ。
 だから助けることにした。

  ◇

 すっかり濡れそぼった黒装束。ピタリと肌にまとわりつく布地。あちこち浮き上がる女体の特徴的部位と曲線。
 フム。これはかなりエロエロですな。
 酔ったオヤジ目線にて、わたしが全身を舐めまわすように見ていたら、背の高い女が覆面をとる。
 あらわとなったのはキツネ目の美人さん。

「まずは礼を言わせてくれ。助かったよ、嬢ちゃん。しかしあたいたちも焼きがまわったね。狙った相手から情けをかけられるなんて」

 後ろで束ねられている赤髪から雫を垂らしつつタメ息をついた彼女。「紅風旅団の首領アズキ」と名乗る。
 富める者のみから奪い、弱者は傷つけないを信条とする義賊。
 ご大層な名前がついているが、構成員は現在三名のみ。現在団員募集中につき、これからおおいに雄飛する予定であったとのこと。
 いろいろとツッコミどころのあるお話。
 けれども、口調といい態度といい、いかにも姉御肌といった気風のアズキ。わたしはこういう女性、わりとキライじゃない。
 アズキに続いて、がっちりした女と小柄な女も覆面を脱ぎ素顔をさらす。

「自分はキナコ。ありがとう」

 がっちりした女が勢いよく頭を下げた。
 ひょうしに茶髪のぼさぼさ頭から飛沫がぴちゃり。
 ニカッと笑うパッチリお目め。こちらは、いかにも大雑把を絵に書いたような女人であるが、ちょっと阿呆っぽい気がする。
 アズキにキナコと続けば、お次はヨモギとかアンコあたりかと、内心でドキドキ。
 そんなわたしの淡い期待はあっさり裏切られる。

「……うちはマロン。泳ぎは苦手。助かった」

 よもやの外国産っ!
 えっ、ちがうの。
 正しくは四分の一だけ血が混じっている? へー、そうなんだぁ。
 などという説明を栗毛のおかっぱ頭から受けた。

  ◇

 わたしも名乗り、ついでに仲間たちをご紹介。
 空を自在に飛び、意思を持ち、言葉を発する勇者のつるぎミヤビ。
 第一声にてガツンとかます。「もしもチヨコ母さまに危害を加えようとしたら、即座に三枚におろす」
 鉢植えにてうねうね。言葉を発する単子葉植物の禍獣であるワガハイ。「ワガハイ、女人は選り好みせぬで候。すべからく宝なり。おっぱい、あれはいいモノ」と意味不明発言。

 おっかなびっくりの紅風旅団。
 顔合わせが済んだところで、今回の一件についてアズキより釈明を受ける。

「あたいたちも知らなかったんだ。あんなことを仕掛ける手筈になっていたなんて」

 語られる今回の襲撃の一部始終。
 アズキたちの言い分を鵜呑みにすれば、こういうことになる。
 聖都にて義賊として活動していた紅風旅団の面々。
 高貴な屋敷にしのび込んでは盗みを働いたり、暴利をむさぼる悪徳商人から奪ったりした金品らを、市井の貧しい人たちにばら撒いていたある日のこと。
 なにやらとんでもない剣があるらしいということと、それにまつわる不穏なウワサを耳にする。

「神がこの世界に遣わした天剣(アマノツルギ)のチカラを、ユモ国が独占しようとしている。あれは権力者たちのオモチャではない。本来であれば国や身分に関係なく、広くあまねく民のために用いられるべきモノ。だというのに」

 自称・義賊の身としては、これはとても見過ごせない話。
 おおいに義憤に駆られたアズキ、キナコ、マロンたち。「よし! いっちょやったるか」俄然やる気となる。
 するとそこにツツツと近寄ってきたのが、ナゾの人物。

「その高潔なる志。まっこと感服しました。矮小な身にて微力ながら、ぜひとも私にもお手伝いをさせていただきたい」

 とりたてて特徴のない中年男からの申し出。
 はじめは胡散臭いとアズキたちも相手にしなかったのだが、もたらされる情報や援助は本物。次第に信用するようになっていく。
 で、満を持して忍び込んだ一度目は、わたしの機転により失敗。
 二度目が逃げ場のない船での不意打ちだったのだけれども、フタを開けてみればあの大炎上。

「自分らが聞かされていたのは、煙をたいて混乱しているうちにって」とキナコ。
「……火は見せかけ。実際にはつけないって話だったのに」とはマロン。
「いまさらだけど、よくよく考えてみたら、いいように動かされていたような気がする」

 拳を握りしめて反省するアズキの言葉に、コクコクとうなづき同意を示すキナコとマロン。
 なお彼女たちは沼色の装束と白面をかぶった連中とは、いち面識もないとのこと。
 話しの流れ的にはナゾの中年男がむちゃくちゃ怪しい。けれども現時点ではどこまでいっても疑惑止まり。わからないことをいくらウジウジ考えていてもしようがないので、わたしはいったん脇へと「てぃっ」

「あー、まぁ、そういうことなら、もう行っていいよ。あなたたちも利用されただけみたいだし。ご覧のとおり、勇者のつるぎが人間風情にどうこうできるシロモノじゃないことは、わかったでしょう?」

 わたしの言葉にうなづく紅風旅団の三人組。

「どうしてあたいたちを見逃してくれるんだい?」との疑問には「若い女の打ち首獄門なんて見たくない」と答えておく。ついでに「もしも都落ちをするときには、ぜひともポポの里へ」と宣伝しておく。
 辺境のすみっこ暮らしでは、過疎問題は近々の課題だからね。
 活きがよくって、腕の立つ若い娘さんならば、いつでも大歓迎。里のお兄さま方もきっと大よろこび。
 郷里を遠く離れてもそのことを忘れない。わたしってばとってもいい子。
 なのに、何をかんちがいしたのか女義賊ども。

「こんなアタイたちのことをそこまで案じてくれるだなんて」とアズキ。
「うぅ、自分、すごく感動」とキナコ。
「……じーん」とマロン。

 三人そろって感極まり、「剣の母さま」と片膝ついて首を垂れる。
 かくしてわたしことチヨコは手下を三匹獲得。
 それと同時に、紅風旅団の新首領に就任?


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