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045 迎賓館
しおりを挟む逆さまにした扇のような形状をした聖都。
ゆるやかな斜面を利用した階層構造になっており、扇を束ねる要の部分に相当する位置にあるのが宮廷。
宮廷の中央がナカノミヤ。ここが皇(スメラギ)やその一族たちが住まうところ。
向かって右にあるのがウノミヤ。二柱聖教の総本山にて大神殿があり関係者たちがウゴウゴしている。
そして左にあるのがサノミヤ。行政を司る役所関係が集まる場所。主に官吏たちがウゴウゴしている。
三つの宮が並ぶこの地は、文字通り国の要となる重要拠点。
ここよりピ湖側へと降ったところにあるのが、カモロ地区。
朱色の屋根と白を基調とした建物がずらり。整然とした街並みにて、大きな屋敷が多いのは、ここが貴族や官吏のえらい人たちが住む場所だから。
周囲を壁でおおわれており、出入りには六つある門のいずれかを必ず通る必要があって、許可なき者の立ち入りは禁じられている。
カモロ地区の階下に位置しているのが、タモロ地区。
三つの大通りに無数の裏路地を抱える商業地帯。超一流どころからクソみたいな品まで何でもそろうと言われている。巨額の金銭と膨大な品、これに群がる人がたむろするがゆえに喧騒が絶えることがない場所。表もあれば裏もあり。有象無象にて、とってもにぎやか。
そんなタモロ地区よりさらに一段下がったところ、ピ湖まで裾野を広げているのが、シモロ地区。
もっとも人口と建物が密集している庶民たちが暮らす地域。いろんなところから流れ込んできた流民たちも多く住み着いており、文化と人種の寄せ鍋みたいになっている。
老若男女、善人からごろつきまでピンキリながらも、治安がそこそこ保たれているのは、国の警邏隊の功績というよりも、賭場を仕切り顔役となっている者たちの存在が大きい。
雑多は雑多なりに形になって落ち着くという見本のようなところ。
◇
カルタさんから聖都のおおまかな地理の説明を受けているうちに、馬車が止まった。
使節団が到着したのはカモロ地区内にある、とあるお屋敷。
どんなお屋敷かとたずねられたら、わたしはあんぐりマヌケ面にて「デカい」としか答えようがない。
横も縦も奥行も、とにかく長く大きく広いのだ。
天井が高く、朱色の柱が太い。
あと壁がやたらと白い。キレイだけれども直視していたら目がちかちかしてくる。
真っ白な壁を作るのには専用の土が必要。それが採れるのは海辺だったと学び舎で習った記憶がある。わたしはまだ海というものを見たことがないけれども、それがどれだけ遠くにあるのかだけは、なんとなく理解している。
そんな遠くから、いったいどれほどの量の土を運んでくれば、こんなお屋敷になるのだろうか。
この立派なお屋敷、じつは海外からの大切なお客さまなんかが滞在する迎賓館と呼ばれる建物なんだって。
いちおう国賓扱いとなっている剣の母であるわたしは、とりあえずここに逗留することになるんだとか。
「とりあえず?」
わたしが首をかしげると、カルタさんが「もしかしたらチヨコちゃんには皇さまより、カモロ地区内にお屋敷が下賜されるかもね」とさらっと言った。
しかも使用人込みにて、管理費はすべて向こう持ち。
ふつうならば床に額をこすりつけて、涙ながらに「ありがたきしあわせーっ」とでも叫ぶところなのだろうが、若干十一歳の辺境育ちの里娘にはいまいちピンとこない。
ぶっちゃけ、もらってもうれしくない。
そもそもの話。ロクに使わない建物や誰も寝起きしない部屋に、いかほどの価値があるのだろうか?
いっそのことぶっ潰して、モンゲエ畑にでもしてしまったほうがいいような気がする。
ホランに「そこんところどうよ?」ときいてみたら、彼は「そうだな。ポポの里で食べた樽漬けはうまかったし、オレもそっちの方がいいかな」と即答した。
◇
お世話役のカルタさんと警護のホラン、影盾と影矛の二人組以外の使節団の面々とは、ここでお別れ。
重責からの解放と、ひさしぶりの帰郷に笑みを浮かべる者たちがいる一方で、がっくしと肩を落としていたのが第一妃、第二妃の息のかかった者たち。
なにせこの旅の間中に、剣の母であるわたしを篭絡するようにと命じられていたのに、ほとんど接触する機会がなかったのだから。
両陣営が互いを牽制、足を引っ張り合ったことが失敗の要因にあげられるが、何よりの敗因は、あの四頭立ての馬車であろう。
思いのほかに密閉率と防御力が高かった。さすがは水陸両用である。
どうせもらえるのならば、使い道のない屋敷よりも、わたしはこっちの方がいい。
悲喜こもごもにて退去していく者たち。
その中にあって、とびきりいい笑顔だったのが代表のガラムト。満面の笑みとはこういうことさ! と言わんばかりの晴れやかさ。
明らかに厄介ごとから解放されることをよろこんでいる。
あんまりにも露骨な態度だったので、ちょっとイラっときたわたしは別れ際にニコっと微笑む。「いろいろお世話になりましたガラムトさん。今後ともよろしく」と言ってやった。
特に深い意味はない。またお世話になるつもりも毛頭ない。ただの社交辞令である。
しかしこれを耳にした者たちがどう判断するかは、わたしの預かり知らぬこと。ククククッ。
新たな苦悩を抱え込むことになった小太り汗かき中間管理職。ふらふらとした足取りにて去っていった。
ああ見えて、奥さんはおっぱいの大きな美人さんらしいから、せいぜい泣きついて慰めてもらうがいいさ。
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