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046 山
しおりを挟むわたしが滞在することになった迎賓館は、とにかくデカい。
重厚な玄関扉を外して地面に転がしただけで、たぶんわたしの家よりも面積がある。
それを「どっこいせ」と押し開けたら、なぜだか目の前に壁が出現。わたしは困惑する。
何かとおもえば、広間に山と積まれた箱やら包みの数々。
「あれ? もしかして迎賓館ってば、ふだんは物置きに使われているの」
たずねればカルタさんは首をふる。
「ちがうわ。これ、ぜーんぶチヨコちゃんへの贈り物よ。それにしてもスゴイ量よね」
剣の母であるわたし。
自分の派閥に取り込もうと躍起になっている、第一妃シンシャと第二妃メノウ。
使節団での懐柔策が失敗したと悟るや、すぐさま二の矢を放つ。
それがこの贈り物作戦である。
一方が贈れば、もう一方も負けじと贈る。さらに負けてはなるものかと贈与品を用意し、あっちよりももっと高価な品を、より気を惹く品を、目立つ品を、珍しい品を、貴重な品を、大きな品をといった具合に競争が激化。
結果がこの見上げるほどの宝物の山。
おそらく途中からは目的を忘れて、意地の張り合いになったのだろう。
二人の妃の鼻っ柱の強さについては、以前にホランから聞かされていたけれども、とんでもない負けず嫌いでもあるらしい。
そりゃあ、わたしだって女の子ですもの。贈り物をされたら、うれしくないわけじゃない。物欲だって相応には持ち合わせている。
けれども、これらすべてが血税の産物だと考えると、ちょっと素直によろこべやしないよ。
あと、いま地震が起きたら巻き込まれてぺちゃんこだね。
「フム。これは眺めているだけで不安になってくる」
わたしは率直な心情を吐露。
すると白銀のスコップの姿にて帯革にいる勇者のつるぎミヤビが「そんなこと、このわたくしがさせませんわ」と慰めてくれた。
愛い愛い。
うちの子、とってもいい子!
とはいえ、このまま放置ともいかない。
そこでわたしは「とりあえずナマモノだけはよけてしまおう。傷んだらもったいないからね」と提案。
迎賓館に到着早々、わたしはカルタさんや女官らに手伝ってもらい、仕分け作業をするハメになった。
◇
どうして、わざわざ自分で仕分けを?
お客さまなんだから、すべて女官らに任せればいいんじゃないの?
とは、わたしもチラっと考えたさ。
が、仮にも贈られた品々に目を通すこともしないというのも、いささか失礼が過ぎる。それにまったく興味がないといえばウソになる。
またポッと出の小娘が調子に乗って横柄にふるまったら、あとが怖い。
物陰からくすくす笑われたり、連絡事項が届かなかったり、自分の下着がドロにまみれて軒先に放置されていたり、お茶とかに雑巾のしぼり汁とかツバなんかをこっそり入れられるのはイヤ。
手触りが素晴らしい反物。華やかなサクラン染めの着物。身につける宝飾品。かわいい小物類。色とりどりの宝石。煌びやかな小箱。精緻な細工が施された化粧入れや鏡台。見たことのない動物をかたどった置物。金ピカの姿見。よくわからない掛け軸や書画。見事な山水の絵が描かれた屏風。積木のような金の延べ棒……。
いろんな品がとにかくいっぱい。
それらに箱詰めの美味しそうなお菓子やら、甘い香りのする果物の盛り合わせなんかも多数混じっている。
ナマモノを選り分けつつ、「いっぱいあるし、あとでみんなで食べよう」と言えば、手伝いの女官たちがキャアキャアよろこんだ。
しかし「それはヤメておいたほうがいい」とホランが水を差す。
理由をたずねたら「中に何が入っているのか、わかったもんじゃねえぞ」
なんでも、わざと弱い毒を仕込んで、苦しんでいるところを助けて恩を売るぐらいの自作自演。妃の取り巻き連中ならば、平気でやりかねないんだってさ。
「まっさかー」とわたし、ケラケラ笑う。「さすがにそこまではしないでしょう」
軽く受け流そうとするも、カルタさんおよび女官らが一斉にさっと目をそらした。
おっふ……マジかよ。
宮廷貴族、半端ねえな。
というわけで、女だらけの懇親会は中止。
やむをえない事情とはいえ、これにはみんなの士気もだだ下がり。現場の空気がすっかり冷たいものとなり、「あーあ」というしらけた雰囲気。
この事態を打破すべく、わたしは「そういうことならしゃーないね。かわりに気に入ったのがあったら、どれでも一つ、持っていっていいよ」と告げた。
上げて、落として、ガッカリからの急浮上。
意気消沈しかけていた女官たちが、一転して狂喜乱舞したのは言うまでもない。
すっかり目の色を変えた女官たち。競うようにして必死に宝物の山に群がり、これを漁る。
女どもの豹変ぶりにおののくホラン。
それらを横目に、カルタさんが「本当にあげちゃってよかったの?」とたずねてくるも、わたしは「かめへん」とにへら。
「みんなやる気になるし、おかげで早くかたづく。邪魔な荷物もちょびっと減る。なにより支持率がぐんぐん。思っていたよりも宮廷ってところはヤバそうだし、味方は多いにこしたことないよ」
いきなり地盤固めを始めた教え子にカルタさんは言った。「あきれた」
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