剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

文字の大きさ
46 / 81

046 山

しおりを挟む
 
 わたしが滞在することになった迎賓館は、とにかくデカい。
 重厚な玄関扉を外して地面に転がしただけで、たぶんわたしの家よりも面積がある。
 それを「どっこいせ」と押し開けたら、なぜだか目の前に壁が出現。わたしは困惑する。
 何かとおもえば、広間に山と積まれた箱やら包みの数々。

「あれ? もしかして迎賓館ってば、ふだんは物置きに使われているの」

 たずねればカルタさんは首をふる。

「ちがうわ。これ、ぜーんぶチヨコちゃんへの贈り物よ。それにしてもスゴイ量よね」

 剣の母であるわたし。
 自分の派閥に取り込もうと躍起になっている、第一妃シンシャと第二妃メノウ。
 使節団での懐柔策が失敗したと悟るや、すぐさま二の矢を放つ。
 それがこの贈り物作戦である。
 一方が贈れば、もう一方も負けじと贈る。さらに負けてはなるものかと贈与品を用意し、あっちよりももっと高価な品を、より気を惹く品を、目立つ品を、珍しい品を、貴重な品を、大きな品をといった具合に競争が激化。
 結果がこの見上げるほどの宝物の山。
 おそらく途中からは目的を忘れて、意地の張り合いになったのだろう。
 二人の妃の鼻っ柱の強さについては、以前にホランから聞かされていたけれども、とんでもない負けず嫌いでもあるらしい。
 そりゃあ、わたしだって女の子ですもの。贈り物をされたら、うれしくないわけじゃない。物欲だって相応には持ち合わせている。
 けれども、これらすべてが血税の産物だと考えると、ちょっと素直によろこべやしないよ。
 あと、いま地震が起きたら巻き込まれてぺちゃんこだね。

「フム。これは眺めているだけで不安になってくる」

 わたしは率直な心情を吐露。
 すると白銀のスコップの姿にて帯革にいる勇者のつるぎミヤビが「そんなこと、このわたくしがさせませんわ」と慰めてくれた。
 愛い愛い。
 うちの子、とってもいい子!

 とはいえ、このまま放置ともいかない。
 そこでわたしは「とりあえずナマモノだけはよけてしまおう。傷んだらもったいないからね」と提案。
 迎賓館に到着早々、わたしはカルタさんや女官らに手伝ってもらい、仕分け作業をするハメになった。

  ◇

 どうして、わざわざ自分で仕分けを?
 お客さまなんだから、すべて女官らに任せればいいんじゃないの?
 とは、わたしもチラっと考えたさ。
 が、仮にも贈られた品々に目を通すこともしないというのも、いささか失礼が過ぎる。それにまったく興味がないといえばウソになる。
 またポッと出の小娘が調子に乗って横柄にふるまったら、あとが怖い。
 物陰からくすくす笑われたり、連絡事項が届かなかったり、自分の下着がドロにまみれて軒先に放置されていたり、お茶とかに雑巾のしぼり汁とかツバなんかをこっそり入れられるのはイヤ。

 手触りが素晴らしい反物。華やかなサクラン染めの着物。身につける宝飾品。かわいい小物類。色とりどりの宝石。煌びやかな小箱。精緻な細工が施された化粧入れや鏡台。見たことのない動物をかたどった置物。金ピカの姿見。よくわからない掛け軸や書画。見事な山水の絵が描かれた屏風。積木のような金の延べ棒……。
 いろんな品がとにかくいっぱい。
 それらに箱詰めの美味しそうなお菓子やら、甘い香りのする果物の盛り合わせなんかも多数混じっている。
 ナマモノを選り分けつつ、「いっぱいあるし、あとでみんなで食べよう」と言えば、手伝いの女官たちがキャアキャアよろこんだ。
 しかし「それはヤメておいたほうがいい」とホランが水を差す。
 理由をたずねたら「中に何が入っているのか、わかったもんじゃねえぞ」
 なんでも、わざと弱い毒を仕込んで、苦しんでいるところを助けて恩を売るぐらいの自作自演。妃の取り巻き連中ならば、平気でやりかねないんだってさ。

「まっさかー」とわたし、ケラケラ笑う。「さすがにそこまではしないでしょう」

 軽く受け流そうとするも、カルタさんおよび女官らが一斉にさっと目をそらした。
 おっふ……マジかよ。
 宮廷貴族、半端ねえな。
 というわけで、女だらけの懇親会は中止。
 やむをえない事情とはいえ、これにはみんなの士気もだだ下がり。現場の空気がすっかり冷たいものとなり、「あーあ」というしらけた雰囲気。
 この事態を打破すべく、わたしは「そういうことならしゃーないね。かわりに気に入ったのがあったら、どれでも一つ、持っていっていいよ」と告げた。
 上げて、落として、ガッカリからの急浮上。
 意気消沈しかけていた女官たちが、一転して狂喜乱舞したのは言うまでもない。
 すっかり目の色を変えた女官たち。競うようにして必死に宝物の山に群がり、これを漁る。
 女どもの豹変ぶりにおののくホラン。
 それらを横目に、カルタさんが「本当にあげちゃってよかったの?」とたずねてくるも、わたしは「かめへん」とにへら。

「みんなやる気になるし、おかげで早くかたづく。邪魔な荷物もちょびっと減る。なにより支持率がぐんぐん。思っていたよりも宮廷ってところはヤバそうだし、味方は多いにこしたことないよ」

 いきなり地盤固めを始めた教え子にカルタさんは言った。「あきれた」


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

処理中です...