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月芝

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065 勇者の才芽

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 選定の儀、本選出場者たちをねぎらう激励の宴は、ユモ国にしては珍しい立食形式。
 飲み物は給仕の女官らが運んできてくれるし、食べ物は壁際に設置された長卓にずらりと用意されており自由に選べる。品によっては料理人がその場で調理してくれるから熱々なのを楽しめる。
 好きなだけ飲み食いし、おおいに歓談し、明日への英気を養うべしとの配慮。
 会場へと入ったわたしは、みんなの好奇な視線を一身に集めつつ、特別にあつらえられた席へと案内された。
 そこは皇(スメラギ)さまの御座近くに設置された特別席。
 イスに腰掛けたわたしの背後にホランとカルタさんが並んで立つ。

「ちょっと落ちつかないんだけど」

 まるで自分が景品になったかのような状況をボヤくが、ホランはツンとおすましをしたままで無言。
 カルタさんは「がまんなさい」とにべもない。でも「あとで料理をとってきてあげるから」と言ってくれたので、わたしはちょこんとおとなしくしておく。

 現人神(アラヒトガミ)であらせられる皇さまからありがたいお言葉を賜り、数名の国のえらい人の挨拶がこれに続く。
 将軍さまは軍人らしくスパッと簡潔。
 宰相さまも表現が明瞭にて同じくサクっと。
 なのに司法を担う天平(アマヒラ)さまの話がやたらと長い。
 わざわざ辞書からムズカシイ言葉を厳選したのとかという長口上は、ちょっとした拷問。
 わたしはイスに座っていたからまだマシ。
 けれども会場内の大多数の面々は立ちっぱなしにて、かなりイライラ。みんなの頭から怒りが湯気となってゆらゆら昇り、会場内の空気がじっとりイヤな熱を帯びていく。
 そんなシラケる場の雰囲気をものともしない天平さま。鋼の心にて我が道を征く。
 法を遵守し厳格に司るがゆえに、人として大切な何かをどこかに置き忘れてきてしまったのだろうか?
 実際に音こそは聞こえてこないけれども、心の舌打ちの連呼が会場内に満ち充ちたところで、ようやく天平さまの挨拶が終わった。
 これだけ長々としゃべったというのに、何一つ内容がこちらに届いていない。
 そのことにわたしは逆に感心させられたよ。

  ◇

 ようやく宴が始まった。
 先ほどまでのウツウツした空気もどこへやら。とたんに人の動きが活発となる会場内。
 もちろん主役は本選へと駒を進める十名の猛者たち。
 それぞれに人の輪ができており、盛況である。
 わたしはその様子をぼんやり眺めながら、カルタさんがとってきてくれた料理をつつく。
 みんな食事そっちのけ。あっちでコネコネこっちでコネコネ。人脈づくりに大忙し。
 えーと、こういうのを何といったかな。
 たしか「宴席外交」だったかな?
 この分では料理が大量にあまりそう。よし! あとで折り詰めにしてもらい、いつもお世話になっている迎賓館の女官たちへのお土産にするとしよう。
 そんなことを考えつつモグモグ、ごっくん。

「ねえ、ホラン。あなたは誰が優勝すると思う?」

 うしろに立つ彼に声をかけると、「そうだなぁ」としばし考え込んだのちに「優勝まではわからないが、決勝まで進むとしたら、まずあの二人だろう」と答えた。

 第一妃シンシャとそのとりまきに混じって、ご機嫌で杯を重ねていたのは金髪の美丈夫。
 彼の名はグアンリー。
 見た目はいい。実力もきっとあるのだろう。けれどもそこはかとなく漂う軽薄さが、妙に鼻につく青年。でも驚くなかれ。
 なんと! 「勇者」の才芽持ちなんだってさ。
 そんなのあんのかよ! これにはわたしもびっくり仰天。

「えっ、だったらもう本決まりじゃないの? お仕事終了にて剣の母伝説、完?」

 唐突な展開。おもわず腰を浮かしそうになったわたし。いまならば娘がいきなり自宅に彼氏を連れてきて、「この人と結婚します」と告げられた父親の気持ちがよくわかる。
 けれどもスコップ姿にて懐にいるはずのミヤビは沈黙を守ったまんま。
 まったくピクリともせず。
 あれれ? 勇者のつるぎというぐらいだから、その持ち主はやっぱり勇者なのかと考えていたのだけれども、ちがうのかしらん。
 我が子の反応に首をひねっていたら、ホランがポリポリ頬をかきつつ「やっぱりそうなるか……。いや、ミヤビ殿の性格からしてやはりというべきか」とぼそり。

 このグアンリーという男。
 勇者の才芽を持つがゆえに、たしかに才能豊かにて、体格にも恵まれ、見た目もたいそういい。ちょっとがんばれば、たいていのことはすぐに身につけてしまう。
 おかげで子どもの頃より周囲からは特別扱い。ちやほやされまくりのモテまくり。ついには第一妃シンシャの庇護を得て、増長ここに極まれり。
 確かに強いことは強い。
 けれどもそれは天性に寄るところが大きく、せっかく学んだことも底が浅く、伸びしろはないとの見解が大多数を占めているんだとか。
 いわゆる才芽の根腐れを起こした典型のような男。
 そしてミヤビがもっとも毛嫌いする系統の男でもある。
 なにせうちの娘は母親に似て、チャラチャラした男が大嫌いなもので。

「して、もう一人の優勝候補は?」

 わたしの問いにホランがアゴ先をクイッと向けたのは、第二妃メノウの派閥が固まっているところ。
 パッと目に飛び込んできたのは、腰まで伸びた黒髪も艶やかな偉丈夫。
 ムキムキではなくシュッとしたカラダつき。立ち姿がすらりとしている。細目にて温和な表情。如才なく周囲の相手を務めている。年齢はうちのお父さんより少し上ぐらいかな?

「落ち着いた雰囲気がタダ者ではないね。いかにも仕事がデキる大人の男性といった感じがするよ」

 フムフム。わたしが独りごちていたら、「ちがう」とホランが言った。「あの方は八武仙のフェンホアさまだ。優勝候補は脇にいる若い方」

 フェンホアの背に隠れるようにして、静かに控えている紅顔の美少年。
 彼の名はコォン。
 槍の名手たるフェンホア門下にて、随一の使い手。少年と青年の狭間である年齢ゆえに、まだゴツゴツしたところが肉体にはあらわれておらず、全体の線が細い印象。けれどもその槍の穂先の鋭さは、若手では随一ともっぱらの評判。
 師をとても尊敬しており、少しでも彼に追いつこうとひたむきに武に取り組んでいる未完の大器。

「あー、あっちの方か……。アレはアレで何やら危ういものを感じるねえ」

 それがコォンに対してわたしが抱いた率直な感想。
 研ぎすぎた刃は、切れ味こそは凄まじいけれども、総じて脆く欠けやすい。
 師と弟子が並んでいる姿は、一途を通り越して盲従しているのような気がする。
 べつになんでもかんでも疑えとは言わない。けれども少しは自分の頭で考える程度の心の余裕が欲しいところ。
 まぁ、あの年頃の男の子にそれを求めるのは、酷というものか。

 先の見えた頭打ちかんちがい野郎の自惚れ勇者。
 伸びしろは期待できるけれども、不安がつきまとう美少年。
 優勝候補らを前にして、懐のミヤビはまったく無関心のまま。
 うちの子はどちらもお気に召さないらしい。
 フム。この分だと選定の儀は当初の予定通り、茶番に終わりそうである。


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