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067 幻の左・改
しおりを挟む激励の宴。
大トリを飾ったのは、勇者のつるぎミヤビ。
わたしはスコップを懐からとり出して、天にかかげてしゅわっち。
ピカッと光って、威風堂々たる白銀の大剣が姿をあらわす。
そして天剣(アマノツルギ)が本選出場者たちに告げる。
「わたくしは常にあなた方のすべてを見ています。武人の矜持に恥じぬ正々堂々とした戦いを」
卑怯卑劣、しょうもないマネをしたらわかっているだろうな?
という意味が含まれたミヤビの言葉にて、宴は幕を閉じた。
◇
タモロ地区内にある大きな大きな円形の屋内型闘技場。
その中央にぽつんとあるのが、石畳で作られた円形の舞台。
これをぐるりと囲む満員御礼な客席もまた円形。
客席と舞台との距離はけっこう離れている。しかも客席側は舞台よりも一段高くなっているばかりか、目の前には深い溝まであって、まるで内と外を明確に分かつかのよう。
観客の安全と、興奮したバカがおいそれと闘技場に立ち入らないための措置だというが、わたしの目にはとてもそれだけの理由には思えない。
丸、まる、マルと幾重ものまん丸で構成された場所。
ここで本選出場者たちは、存分に互いの武を競うことになる。
でっかい銅鑼が「ぐぅあん」とこれまたでっかい音を鳴らした。
選定の儀本選、ついに開幕。
ニンジンを鼻先にぶら下げられたウマというわけではないけれど……。
昨夜の激励の宴にて勇者のつるぎを間近にし、本選出場者たちは俄然やる気となった。
もとからやる気はあったのだろうが、武に生きる者の性なのか「天剣が欲しい」と強く願うように。
おかげで本選は激闘につぐ激闘続き。
なにせ全員が膨大な予選参加者らを打ち負かし、ここまで這いあがってきた猛者ぞろい。
実力伯仲につき、見ごたえ十分。
のちのちまで語り草になるであろう名勝負に、つめかけた観客たちは大盛りあがり。
けれども、わたしはいまいちピンとこない。
せっかくの祭りだというのに、一人だけ乗り遅れたかのよう。
えっ、どうしてかですって?
答えは、観覧席のせいだよ。
剣の母のためにと、会場の上の上の上の上の方に用意された特別席。
豪華な内装に加えて前面が大きなガラス張り。ここまで大きくて歪みのないガラスは、むちゃくちゃ高価。鉄と職人の国パオプから取り寄せたという特注品。見つめているだけで、冷や汗だらだら。まるで落ちつけやしない。
来場するなり、わたしはホランとカルタさんともどもここに押し込められる。
えらい人は高いところにてふんぞり返るもの。
だからやんごとない身分の方々の座席は一般の客席よりも、ずんと上の方になる。
上から下界を見下ろすと言えば聞こえはいいが……。
遠いんだよ!
熱戦をくり広げている戦いの場が、めちゃくちゃ遠いんだよっ!
いくらむーんと目をこらしても、ここからでは棒人形みたいな二人が、中央でくんずほぐれつ、ペチペチしているようにしか見えない。
ぴちぴちの十一歳の田舎娘の裸眼でこれだもの。
軽く老眼が入っていたら、完全にマメ粒だよ!
剣戟音も怒号も熱気も迫力も、興奮する観客の声すらもが若干遠い。
これで何をどう楽しめと?
◇
憤懣やるかたなし。
憮然としつつ、どうにか試合を見れないものかと試行錯誤。
人間とは追い詰められたときにこそ、真価を発揮する生き物。
世の中、たいてのことはなせば成る。
若干十一歳の人生、辺境のすみっこ暮らしにて培った経験と学んだ知識を総動員。
その結果、ピコンと閃く。
朝露に濡れた葉っぱ。水滴の中にある世界は、いつもより大きく見えるもの。
ならば、自分の持つ水の才芽を応用すればどうにかできるかもしれない。
室内に用意されてあった水差しの中身を手に注ぎ、「見えろ視えろ診えろみえろ」と念ずる。
ひたすら「みえろえろえろ」願いを込めて、最後に「ふんぬ」と気合注入。
するとあらふしぎ!
手の中の水が動き出し、うにょうにょ。丸い水球に変化。
これを通すことで、向こうの景色がやや拡大して映し出される。
とはいっても、せいぜい棒人形が丸太人形ぐらいに大きくなるだけどもね。
「って、あんの野郎! いけない、ミヤビっ!」
あわてて水球をポイッ。
わたしの叫びに応じて、ミヤビが即座に白銀の大剣の姿に戻る。
飛び乗ったわたしは、ホランの制止をふり切り、ガラスを粉砕して特別席から飛び出す。
向かったのは会場中央。
そこでは、散々になぶりものにされ血だらけとなった巨漢のドルアが、いまにも勇者の才芽持ちのグアンリーにトドメをさされようとしていた。
◇
「デカいだけのザコの分際でしつこいんだよ。なぁにが紅風旅団の名誉にかけてだ。あんなちんちくりんに忠義とか、バッカじゃねえの? 余計な手間をかけさせやがって。もういい! てめぇはここで死んどけや!」
朦朧にて傷だらけとなりながら、なおも立ち上がろうとするドルア。
その太い首へと、容赦なくふり下ろされるグアンリーの両手持ちの大剣。
これを間一髪のところで「ギィィン」と防いだのは、勇者のつるぎ。
ミヤビが凶刃をはじく直前、彼女の剣身から飛び降りていたわたしは、そのままドルアのもとへ駆け寄る。
……これはヒドイ。
全身をなます切りにされており血まみれ、片目までざっくり。
わたしは近くに立っている審判をキッとにらむ。
こういう事態にならないよう、適当なところで試合を止める手筈になっていたからだ。
けれども審判は目をそらし、「ソイツがまいったを言わないから」とごにょごにょ言い訳を口にする。
ちっ、どうやら事前に第一妃から買収されるなり、言い含められるなりしていたらしい。
それでこの暴挙を見逃しやがったというわけか。
しょせん出自の卑しい者なんて、どうなろうとかまわないとでもいうのか。
ふつふつと沸いてくる怒りを抑えつつ、わたしはグアンリーに問う。
「どうしてこんなになるまで? あなたの実力ならもっと楽に勝てたはずなのに」
すると彼はにへらといやらしい笑みを浮かべ言った。
「どうしてかだって? もちろん祭りを盛りあげるために決まってるじゃないか。祭りに血と生贄はつきものだろうがよぉ。見ろよ、この大歓声、客たちの興奮ぶりを。供物の活きがよく、大きく派手であればあるほどに、みんな大よろこびさ。だからこの勇者である俺さまがひと肌ぬいでやったんじゃねえか」
胸クソにて吐き気をもよおす言い分だった。
聞いているだけで耳が腐る。
わたしはゆっくりと歩いてグアンリーの風上へと移動。懐よりこっそりとり出した赤い薬包をほどき、歩きながらサラサラと空気中に散布。
これはポポの里から聖都へと旅立つ際に、呪い師のハウエイさんから「備えあれば」と餞別に渡された赤青黄黒、四種類のクスリのうちの一つ。
赤い薬包の中身はシビレ薬。量を調節すれば限りなく死に近づける。
がっつり服毒させるのが一番効果的だが、吸い込んでもそれなりにシビれる。
大口をあけてゲラゲラ笑いつつ、得々と語っていた自称勇者さま。
散布された粉をけっこう吸い込んで、じきに「あれ?」となり全身ぷるぷる。ついには手から剣をとり落とすまでに。
「なっ、なんらこれ。おまへ、なにをしたれろれろ」
グアンリーの呂律がすっかりおかしくなったところで、わたしはシュタタタと接近。
すばやくヤツの懐へと潜り込む。
強い踏み込みによって生じたチカラが大地にて反射。
倍化して左ふくらはぎ、太ももと通過して、腰へと到達。そこに腰と背筋が生み出す回転が加わる。左肩から打ち出されたチカラの奔流が肘にてさらに回転、いっそう加速。それらすべてが固く閉じられた左の拳、中指付け根の一点へと集約。
これまでの辺境生活にて育まれた肉体に宿るチカラに、ミヤビに乗って鍛えあげられた体幹と下半身のチカラが融合。
ここに超進化を遂げた「幻の左・改」が炸裂する!
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