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068 変身
しおりを挟むその瞬間を目撃した男たちは、みなとっさに足を閉じ、己の股間をかばったという。
わたしが放った幻の左・改。
粉砕したのはチンケなクズ玉ひとつ。
本当は将来の禍根を絶つべく、すべてを根こそぎ破壊してやろうかとも思ったが、そうすると次の決勝戦が不戦敗になってしまう。
祭りは盛りあげるものだと言っていたことだし、当人もそれは不本意であろう。
まぁ、二個あるものが一個になったって問題ないよね?
だってポポの里のロウさんなんて、隻眼隻腕隻足にて杖が手放せない老人なのに、あれだけ戦えるんだもの。あれに比べたら玉のひとつぐらい、どうってことないでしょう。
白目にてぷくぷく泡を噴きぶっ倒れている自称勇者。
その脇腹をドムドム蹴飛ばしながら、わたしがにっこり微笑めば、真っ青な顔をした審判がコクコクうなづいた。
◇
医務室に担ぎ込まれたドルア。ぐったりしたまま動かない。意識もなく浅い呼吸がいまにも止まりそう。
ひと目見るなり医師らが険しい表情をみせる。
全身の傷もさることながら、血が流れすぎているのがマズイとのこと。
「バカたれめ。これから親孝行をしなくちゃいけないってのに、年老いた母親を残して死んだら承知しないからね」
わたしは白銀のスコップに変じたミヤビを手に、医務室を物色。
目を閉じ神経を鼻先に集中。天井から薬の材料がいっぱい吊るしてあった呪い師のハウエイさん宅を想起し、くんかくんか。
ニオイの記憶をたどって目当ての効能を探す。
するとなにやら高そうな大壺を棚の奥にて発見!
中にはドロっとした紫色の薬液がたっぷり。いかにも効きそう。
医師たちが「あー、それはダメっ!」と声をあげたのを見て、確信を抱いたわたしはミヤビを突っ込んでじゃぶじゃぶ。回復の祈りを込めて、オラオラ盛大にかき回す。
頼むよ、わたしの水の才芽。
お風呂の残り湯ですらもが、いい出汁がでてお肌ぴちぴちになると、迎賓館付きの女官らが二番湯をとり合っているというチカラ。いまこそ存分に猛威をふるうとき!
気合を入れて百回ぐらいかき回してから、大壺の中身をドルアの全身にぶちまける。
医師たちの「ギャーッ」「代々受け継がれてきた秘伝の薬がーっ」「ミズヤ黒銀貨数十枚分がーっ」などという悲痛な叫びは聞こえない。
ちなみにミズヤ黒銀貨一枚で、ミズロ白銀貨十枚に相当。
滋養強壮にいいというシロザルのナニの買い取り価格に換算したら、一万本。
フム。さすがは十万本分のチカラ。
ドルアのカラダが、何やらしゅうしゅうと怪しい白煙をあげはじめた。
おかげで医務室がえらいことになる。
それでも傷がふさがっていくのを見て安堵したわたしは、ここでもうひと押し。
さっき発掘した大壺の隣にあった、これまたお高そうな中壺を「うんしょ」と運び出して、同様に中身を混ぜ混ぜ。
からの、ドルアの口に強制投入。
もはや命を救うための術か、命を奪うための拷問かわかりやしない。
◇
全身だけでなく、口やら鼻やら耳の穴からも、ゆらゆらと白煙をのぼらせるドルア。
どんどんと煙が濃くなって、ついにはその姿が隠れてしまった。
ちょっとしたボヤ騒ぎが、本格的な延焼へと発展したような状況に医務室内は大騒ぎ。
ゲホゲホむせびながら窓や扉を全開にして、せっせと煙を排出する医師たち。
おかげで視界がどうにか戻ってきたところで、煙の向こうでむくりと大きな影が動いた。
死の淵よりの生還。目覚めたドルアが診察台にて上半身を起こす。
「あれ、俺はどうして……。確か勇者野郎にやられて……」
状況に戸惑っているらしいので、わたしは煙越しに声をかけてやった。
じょじょに薄まり、ついには煙が完全に霧散する。
そうして姿を見せた復活のドルア。
彼を前にして、わたしは叫ばずにはいられない。
「おまえ誰だよっ!」と。
医師たちも死にかけの重傷や、潰れていたはずの目がすっかり元に戻っていることよりも、その原型を留めない変身ぶりにそろって絶句。「!」「!」「!」
巨漢のどっぷりした太鼓腹な体型をした銅禍獣の鎧熊(ヨロイグマ)そっくりだったドルア。
筋肉の塊にて造られた三角形のような容姿が、引き締まった筋肉の綱で編み込まれた逆三角形の容姿に。しかも顔までしゅっと引き締まって苦味走った渋めの男前になっちゃった!
うーん。ドルアが助かったのはうれしいけれども、心なしかわたしの才芽が近頃暴走しているような気がする……。
ひょっとして成長期かな? そのわりには見た目はちっとも変っていないんだけど。おかしいなぁ。
本日の臨床実験結果。
水の才芽と勇者のつるぎに、死人もビビッて蘇るぐらいの秘伝の超高価な薬がそろえば、鎧熊なおっさんも、イケてる中年になれる。
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