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037 ウエスタンストリート
しおりを挟む銀座とは銀貨を鋳造する場所のこと。
そして全国各地の商店街にやたらと『〇〇銀座』とついているのは、たいそう景気が良かったというのにあやかってのことである。
物知りなジンさんの解説に、わたしは「へ~」
おかげでずっと抱えていたナゾがひとつ明らかとなって、わたしはちょっとスッキリ。
まぁ、それはさておき『下出部銀座商店街』である。
規模は百メートルほど。屋根のついたアーケード式ではなくて、町の風景の一部に組み込まれており、個人商店ばかりが連なっている。
魚屋に八百屋に酒屋、肉屋、雑貨店、文房具店、古書店、時計店、喫茶店、郵便局、服屋、タバコ屋、駄菓子屋、散髪屋に美容院、写真館、居酒屋、お好み焼き屋に洋食屋に中華屋に寿司屋などなど。
ひと通り揃っており、下出部町五丁目界隈にあっては長年地元の生活を支えてきたものの、コンビニやスーパーの進出に、郊外へ各種大型店舗が出店してきたこともあって、かつてほどのにぎわいはない。
が、近頃復調の兆しをみせている。
時代に取り残されたかのような昭和レトロチックさが、いまの若い人たちに受けてわざわざ他県から見に来る人が増えた。
ぼんやりしているうちに、時代の方が一周回って追いついてきたのだ。
「流行はくり返すっていうけれど、まさか商店街までなんてねえ。長生きはするもんだ」
とはタバコ屋の婆ちゃんである菊さん談。
でも、それはふだんの商店街の話である。
わたしたちが近づくほどに、商店街がその姿をみるみる変貌していく……
〇
青さが際立つ空。
降り注ぐ太陽の光がギラついている。
ひゅろろろろろ。
乾いた風が哭くたびに、舞うは赤い砂塵。
コロコロと剥き出しの地面を転がっていくのは、枯草が玉になったもの。
キィ……キィ……キィ……
風に揺れて軋んでいたのは、壊れかけの扉。
窓や壁の一部も傷んでおり、隙間にギラリと光るのは獣の瞳。
空き家に住み着いたノラネコであろうか。こっちをじっとにらんでいる。
近代的な建物はすべて失せた。かわりに並ぶのはレンガ造りの建物や木の家など。
そこは何もかもが乾いており、赤錆色であった。
いや、なかには赤やミントグリーンなどの色をした建物などもあるのだが、せっかくのそれらも日焼けと砂でくすんでしまっている。
そのうちのひとつ、軒先のウッドデッキに置かれたロッキングチェアに腰かけている老人がいた。
カウボーイハットを目深にかぶり、うなだれている。手には空の酒ビンが握られており、酔って寝ているのか、かすかにイビキが聞こえてくる。
店の外観もがらりと入れ替わった。
居酒屋は酒場とホテルに、交番は保安官事務所に、小さな稲荷は教会に、散髪屋や美容院は床屋に、バス停は乗合馬車の停留所に。雑貨屋は……そのままだけど商品のラインナップがビン詰めや缶詰が幅を利かせていた。あと服屋にはお尻のあたりが膨らんで全体に少しフレアの入ったドレス――プレーリースカートを着た女性が出入りしている。
男たちはカウボーイハットをかぶり、革のベストにカカトにギザギザの車輪のようなモノがついたブーツを履いている。
女たちは日傘片手にプレーリースカート姿が多く、なかには首にスカーフをまいていたり、オシャレな帽子をかぶっている人もいる。
行き交う人たちはみなウエスタンファッションに身を包んでいた。
かつてはどこにでもあった古ぼけた昭和レトロな商店街が、すっかり様変わり。
西部開拓時代の町になっちゃった!
「時代劇の次は西部劇なの!」
ウエスタンストリートを前にして、わたしはびっくりするやら呆れるやらで、目をぱちくり。
「芸が細かいねえ。いったい誰の仕業やら」
一枝さんは羽を少し動かしては、体についた砂ほこりを払う。
「う~ん、細かい砂は困る」
とはジンさんだ。人体模型のパーツの間に砂が入り込むと、動くたびにジャリジャリして気持ちが悪いそうな。
「おもしろい。ガンマンとやらとは、一度手合わせしたかったのだ」
カクさんは言うなり、さっそくその辺に落ちていた手頃な棒を物色しては、ブンブン振る。
すると突如として前方が騒がしくなり、酒場のウエスタンドアを押し開け、奥から出てきたのはふたりの男たち。どちらも腰に銃を帯びており、ガンマンらしいのだけれども。
どちらも荒野をさすらう渡り鳥といった風だが、うちひとりは黒いカウボーイハットに、黒いジャケットに黒いブーツと、全身黒づくめにて、右目には眼帯をつけていた。
いったい何が始まるのか。
わたしたちが少し離れたところから固唾を飲んで見ていたら、男たちは通りのど真ん中にて背中合わせに立つ。
そして各々、同時に歩き始めた。
一歩、二歩、三歩――
ここでやにわにふり返った男たちが、ホルスターから銃を抜いては「「バン!」」
重なるふたつの銃声。
しばしの沈黙ののち、一方が「ぐふっ」と膝をついて前のめりに倒れた。
勝ったのは眼帯の男。
眼帯の男は銃口に「フーッ」と息を吹きかけてから、くるくる銃を回しては華麗にホルスターに収納した。
いきなり始まった真昼の決闘に、わたしたちはただポカンとするばかり。
そんなわたしたちに勝利した眼帯の男が近づいてくる。
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