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038 サバイバルゲーム
しおりを挟む眼帯の男がカウボーイハットの縁をくいと持ち上げニヤリ、不敵な笑みを浮かべる。
「よくきたな、待っていたぞ」
男は牙寿郎(がじゅろう)と名乗り、「まずはオレについて来い。ここでのルールを説明がてら必要な物を渡す」と言った。
返事を待たずにさっさと歩き出す牙寿郎。わたしたちはあわてて追いかける。
連れていかれたのは保安官事務所であった。
もとは交番だった場所が、いまではすっかりウエスタンな内装に様変わりしている。
物珍しくて、わたしはついキョロキョロ。
そうしたら「おらよ、まずは奥でこれに着替えな」と押しつけられたのは、カウボーイファッション一式とゴーグルであった。ジンさんとカクさんの分ももちろん用意されている。ばかりか一枝さん用の小さなカウボーイハットまであった。
映画村では黒子たちが着替えさせてくれたけど、ここでは自分で着替えなければならないらしい。
ジンさんとカクさんは「ここでいい」と、その場で衣装を身に着けはじめたもので、女の子であるわたしだけが奥の部屋を使わせてもらうことにする。
奥といっても扉一枚を隔てた場所にて互いの声は充分に届く。
それを見越してか、牙寿郎が「着替えながら聞け」と第三の試練の儀について説明を始めた。
第三の試練の儀は『ウエスタンストリート』でのサバイバルゲーム。
西部劇よろしく、総勢百もの敵味方が入り乱れてはバンバン撃ち合う。
とはいえ、もちろん本物の銃を使うわけじゃない。
使用されるのはスポンジガンと呼ばれるおもちゃの銃だ。
ちょっと固めのスポンジの弾を飛ばす銃にて、威力は市販のモノよりも少しばかり高めてあるものの、当たったところでちょっと「アイタッ」となる程度。傷みの目安としては子どものシッぺとかデコピンぐらい。
でも、そんな程度ならばへっちゃらにて、気にせずゲームを続行するからキリがないのでは?
と考えるのは早計である。
ちゃんとゾンビ対策は施されている。
使用される弾には特殊なインクが含まれており、当たれば跡が残るので、ズルをしてもすぐにバレる仕様になっているのだ。
参加者全員には、事前に最低限の装備類と武器、それからコインが一枚支給される。
倒した相手からコインをゲットし、ゲーム終了時まで生き残るのはもとより、集めたコインの枚数で勝敗を決する。もちろん多く集めた者の勝ち。
なおゴーグルは目の安全を守るためのモノにて、必ず装着するべし。
「徒党を組んでもいいし、個人でがんばってもいい。積極的に撃って出てもいいし、物陰からこっそり狙ってもいい。なんならずっと身を潜めていてもいいだろう。
ただし、ゲーム終了時点でコインの数が足りなければそれまでだがな。
ここまでで何か質問はあるか?」
手をあげたのはジンさん。
「弾だが補充は可能なのか」
牙寿郎は「もちろん」とうなづく。
「ウエスタンストリートのあちこちに補充用の箱が隠されている。隠しているといっても、ちょっと探せばすぐに見つかるような場所だし、いかにもな形をした宝箱だから見ればすぐにわかるはずだ。
あと、それとは別に大きな宝箱もある。そっちには武器や役に立つアイテムとかが入っている。何が入っているかは開けてからのお楽しみだな。
他に訊きたいことはないか」
すると今度はカクさんが手をあげた。
「では、それがしからもひとつ。ゾンビとやらが禁止なのはわかったが、こちらが全滅した場合はどうなる?」
これまではギブアップしないかぎりは何度もリトライできたけど、今回はどうか?
牙寿郎の答えは「再チャレンジ可能」であった。
ワンゲームの時間は45分にて学校の授業時間と同じ。負けたらしばらくお休みにて、次のゲームに備えることになる。
ただし……いままでとちがう点がひとつある。
それは自分たち以外の面々もまた、経験を積んで学習し、着実にレベルアップしていくということ。
当然、ゲームをくり返すほどに、みんなスポンジガンの扱いに慣れていく。
回を重ねるごとに双方ともに、かなり手強くなることであろう。
「……と、まぁ、こんな感じだ。奥の嬢ちゃんもわかったか?」
ドア越しに声をかけられ、わたしは「は、はい」と返事する。若干、声がうわずってしまった。
わたしは着替えをすませてみなのところへ戻った。履きなれない革のブーツが歩きにくい。
にしてもジンさんとカクさん……ウエスタンスタイルが死ぬほど似合っていない。
でも帽子をかぶった一枝さんは愛い愛い。スマホで写真を撮りたい……まだ持ってないけど。
じつは中学への進学祝いで買ってもらえることになっているのだ。だからこそ、とっとと試練の儀をクリアして家に帰らねばならない。わたしはムフンと鼻息を吐く。
そんなわたしに牙寿郎は「おっ、嬢ちゃんはやる気充分って感じだな。けっこうけっこう。じゃあレディファーストってことで、まずはあんたからカードを引きな」と、トランプを差し出した。
マジシャンみたいに扇の形に広げては、なかから一枚引けと促す。
引いたカードによって最初に配備される武器が決まるそうな。
ひと口にスポンジガンといっても、いろいろだ。
強力な武器を手に入れたら、それだけゲームを有利に進められる。
運命の分かれ道。
わたしはしばし指を迷わせながらも、自分の直感に従ってコレだという一枚を選び、「えいっ」と引いた。
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