下出部町内漫遊記

月芝

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039 トイガン

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 厳正なる抽選の結果……
 ジンさんは――ちょっとレトロなリボルバータイプの拳銃。
 カクさんは――銃身の長いボルトアクション式のライフル。
 でもって、わたしは――可愛らしいパステルカラーのトイガン。

「おもちゃのわりによくデキている」

 ジンさんは与えられたスポンジガンを返すがえす眺めては「ほうほう」感心している。

「火縄銃に似ているのぉ。ふむふむ、なるほど。このボルトとかいうレバーを引いて、弾を装填するのか」

 カクさんは弾を込めていない状態で、カチカチなんども引き金をひいたり、レバーを操作しては、感触を確かめている。
 そんなふたりを恨めしげに眺めつつ、自分の手の中の武器にわたしは「はぁ」とタメ息をついた。

「よりにもよって、どうしてコレなのよぉ」

 トイガンとは、まんまおもちゃの銃である。
 いかにも小さなお子ちゃま向けといった色合いとフォルムにて、怪光線でも発射されそうだけれども、当然ながら銃口より飛び出すのはスポンジ弾である。
 試しに一発撃ってみたら、ポコンという気の抜けた音がした。
 弾速はへろへろ。射程距離もせいぜい五メートルといったところか。勢いが弱いせいもあってか、空気抵抗をモロに受けるだけでなく、しばらく進んだらふにゃんと弾道が下がりぽとりと落ちる。しかも一発撃つごとに弾込めをしなければいけない単発式!
 これならばゴム鉄砲の方がまだマシであろう。

「これでどうしろと? せめてふつうのスポンジガンをちょうだい!」

 と懇願するも、牙寿郎は「ダメだ」とにべもない。

「まぁ、たしかに運がなかったな。だが、じつはそう捨てたもんでもないんだぜ、ソイツは」

 見た目は確かにおもちゃの銃にて、性能も低くて、頼りにならなさそう。
 というか頼りにならない。すぐ目の前にいる相手にすら、まともに弾が当たるか怪しいものだ。
 だがしかし、専用のパーツで拡張することが可能でパーツ次第では大化けすることも……
 ちなみにパーツはウエスタンストリート内に隠されている大きな宝箱に入っている。

「嬢ちゃんの場合は、無闇に勝負を仕掛けずに、まずは自身のパワーアップをはかることから始めるんだな。
 おっと、そろそろゲームの開始を告げる合図が鳴る。せいぜいがんばりな」

 そう言い残し牙寿郎は保安官事務所から出て行った。
 かとおもえば、ジンさんとカクさんはさっそくガサゴソ家探しを始める。

「ほらボサッとしていないで、ミユウも奥を調べな」

 帽子をかぶった一枝さんが肩に飛び乗ってくる。「チチチ」とせかされ、わたしもそこいらを漁る。
 では、どうしていきなりみんなでコソドロみたいなマネをしているのかといえば、補充用の弾を確保するためだ。
 手持ちの弾丸が多いにこしたことはない。
 それに牙寿郎も先ほどの説明で言っていたではないか。『ウエスタンストリートのあちこちに補充用の箱が隠されている』と。それすなわち保安官事務所も例外ではないということ。

 家探しの言い出しっぺはジンさんだ。
 そしてジンさんのにらんだとおり、さっそく小箱をふたつ発見した。ニ十五発ずつ入っていた。形状も性能もまちまちなスポンジガンだけど、弾薬は共用にて。
 わたしたちは合計五十発もの弾をいきなり手に入れた。
 相談の上で、わたしは十発だけもらい、残りはジンさとカクさんで分けてもらう。
 理由は、わたしのトイガンだとたくさん手持ちがあってもしょうがないから。バンバン撃ったところで、まともに当たりそうもないし。
 だったら、ジンさんとカクさんに託したほうが有効に活用されるというもの。

 各々、自分の銃に弾を込める。
 準備を整えたところで、聞こえてきたのは――

 ドォオォォォォォーン!

 ズンと響く音がして、ビリビリと窓ガラスが震えた。
 この音は大砲のものか。きっと空砲だろうけど、すごい迫力にて。わたしはおもわず「ひえっ」と首をすぼめる。
 どうやらこれがゲーム開始の合図らしい。
 第三の試練の儀『ウエスタンストリート』でのサバイバルゲーム、スタート!


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