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324 人工生命体ムジーナ
しおりを挟むいつの時代、どこの国にも、集団から逸脱する者がひとりやふたりあらわれる。
その者を革新をもたらす天才と呼ぶのか、あるいは天下の鬼才、奇才の類としつつ遠巻きにするのか、もしくは異端者として排除するのかは、その時々や周辺の環境によるところであろう。
そんな異才たちの多くが、強い興味を示すことがある。
生命の神秘、不死の追求――
この世に産まれ落ちたその瞬間から、誰もが死へと向かって歩み続ける。
生とは、その時間が少し長いか短いか。
悠久の刻の流れからすれば微々たるもので、誤差の範囲でしかない。
だが「それでは足りない」「あまりにも儚い」「もっともっと」と望む。
古今東西、不思議とこのテーマにとり憑かれる者のなんと多いことか。
ある大国の王は、己が権力を保持するために永遠を求めた。
ある研究者は、死んだ妻子を蘇らせようとした。
ある賢者は、真理を追求するあまり我を忘れた。
けれども望みを叶えた者はいない。
誰もが志半ばで倒れ、無念のうちに死んでいった。
挑戦の果てに残されたのは『出来損ない』という夢の残骸ばかり。
でも運命の女神はそんな連中を憐れんだのか、ほんの少しだけ気まぐれを起こす。
新たな挑戦者があらわれた。
その者は不死について研究する際に、資料として集めたのが大量の廃棄物。
先人たちの失敗から学ぶことで、研究する方向を模索しようと考えたのだ。
だが、いざ分析をしようという段になって、それらを保管してあった建物がある地域を、地震が襲った。
幸いにも建物は無事にて、たいした被害はなかったものの、建屋内では棚が倒れたり、書類が散乱したりして、けっこうぐちゃぐちゃに。
それは廃棄物を保管していた倉庫も同じにて、いくつもの容器が割れて中身が床に零れてしまう。
いく種類ものドロドロとしたモノが混ざり合い、更にドロドロとなっては毒々しい色味を帯び、異臭を放つ。
そのうちにボコボコと表面が泡立ち、不意にあらわれたのは一本の腕のようなモノであった。
続いて肩、頭部、胸部、腰部、脚といった具合に湧いてきては、ついに人型となる。
ただし顔はない。つるんとした、のっぺらぼうであった。
人型は無言のまま、立ち尽くすばかりで微動だにせず。
ぼんやりと天井を見上げていた。
そんな人型を発見したのは、廃棄物を集めて保管していた者であった。
偶然の産物……
研究者はこれを『人工生命体ムジーナ』と名付ける。
名の由来は、人型の能力によるところ。
この人型、ぐにゃぐにゃの軟体を器用に操っては、見知った存在に変化する能力を有していたのである。
相手の頭の中を盗み見ては、その者がもっとも恋慕する存在、あるいは恐怖を抱く者に化けては、獲物を惑わし喰らうムジナという禍々がいる。
ゆえに研究者はこれをもじってムジーナと名付けたのだけれども、本家のムジナが真似するのはあくまで外見だけであったのに対して、ムジーナは参考にした対象の持つポテンシャルをも完全に再現してみせた。
叩いても潰してもぐにゃりとしており手応えはなく、ケロッとしている。
切ってもすぐにくっつき、高熱の炎で燃やしたり、薬液で溶かしたりしても、しばらくしたら元通り。
不死にも等しい再生能力、他者を完璧に模倣する能力は、かぎりなく永遠に近しい存在である。
この仕組みを解明すれば、かつて誰も達成できなかった偉業となるだろう。
ゆえに研究者は、なんとか第二のムジーナを自分の手でも造りだそうと躍起になるが、研究の成果は芳しくなく……
さなかのことだ。
研究者はふとおもった。
「人工生命体に魂はあるのか?」
自律可動式の人形はある。
動く人形だ。ある程度は自分で考えて行動する。
さりとて、それらの行動は事前に設定された、創作者の指示に従ってのことに過ぎない。
そこに自我はない。あくまでそれっぽっく見えているだけのこと。
「では、ムジーナは?」
こちらの指示には素直に従っており、反抗的な態度を示したことはない。
さりとて懐いているとか、情が沸いているといった雰囲気でもない。
というか、そもそも出来損ないに魂はあるのか。
ムジーナの外面だけでなく、内面に興味を持った研究者は、研究の切り口を変えるべくそちらからのアプローチを実施する。
そして……
――彼は発狂した。
ムジーナという存在。
その奥底、深淵にて研究者が何を知り目にしたのかは、いまとなっては誰にもわからない。
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