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034 ホワイトナイトみたび
しおりを挟む苦労して手に入れたタヌキの宝箱。
なのに肝心の中身がない、からっぽ!
あんまりである。
もしかしてご先祖さまが仕掛けた、壮大なドッキリに引っかかっちゃった?
だとしたら、そろいもそろってとんだおマヌケさんであろう。
呆然とする一同。
和香は開いた口がふさがらず、パウロとサンもショックのあまり声も出ない。
現場にはなんともいえない空気が漂う。
そんな中にあって、いち早く我に返ったのはフォルであった。
「ギャギャガァーッ! (ふざけやがってっー!)」
おちょくられたと感じたフォルは怒り心頭にて、空箱をポカンと蹴飛ばす。
そしてギロリ、和香とパウロをにらみつける。
とても剣呑な目つきであった。どうやらフォルは、このやり場のない怒りを和香たちにぶつける腹積もりのようだ。
――えっ、箱を開けたら見逃す約束は?
そんなもの、はなから守つもりなんぞなかったのだろう。
もとより和香も期待はしていなかったけど、面と向かってぶつけられた殺気に、おもわず身がすくんでしまった。
明確なる殺意、野生の獣が持つ迫力、その凄味……
それらは和香の日常には存在しなかったもの。
まるでいきなり刃物を突きつけられたかのような錯覚に襲われる。
理性や勇気がたちまち恐怖に上塗りされた。
和香にそんなつもりはなかったのだけれども『なんだかんだでしょせんはタヌキでしょ? いざとなったら……』と心のどこかで侮っていたらしい。
でも、それが甘い考えであることを思い知らされた瞬間、和香は頭の中が真っ白になってしまい、作戦を決行するどころではなくなった。
そして怒りは伝播する。
集団を率いるフォルの影響を受けて、配下の者たちの目つきまでもがガラリと変わった。
(――怖い)
怯える和香はすぐに逃げ出そうとするも、それはかなわない。
あっという間に取り押さえられてしまった。
身じろぎすらも許されず、がっちり地面に押しつけられる。パウロもしかり。
ふたたび拘束されたところで、フォルが「グフグフグフ。(さぁて、どうしてやろうか)」とニタニタ笑みを浮かべては、ゆっくりと近づいてくる。
「ギャギャギャ、ウユンユン。(まずは尻尾をかじろうか、それとも耳からか)」
吐く息が感じられほどにまで顔を近づけられ、カチカチ牙を鳴らしながらささやかれ、まるで生きた心地がしやしない。和香は恐ろしさのあまり声にならない悲鳴をあげた。
だが、その時のことであった。
びゅるり。
谷底――石の墓場に一陣の白い風が吹く。
たまらず和香はギュッと目を閉じた。
◇
風はじきに止んだ。
しぃんと不自然に静まり返っている現場。
恐るおそる和香がまぶたを開けた時には、すべてが終わっていた。
死屍累々――いや、本当は死んでないけど――にて、キュウと目を回しているタヌキたちはフォルの手下たち。荒くれタヌキどもがみな倒されている。
フォルもまた地面に倒れ伏しており、その頭をムギュっと踏んづけていたのは白いシェパードであった。
「うにゃにゃにゃ!? (えっ、ホワイトナイトさまが、どうしてここに!?)」
助かった……けど、状況が理解できずに和香は困惑するばかり。
解放されたサンとパウロも、突如乱入してきた白いシェパードを前にして、緊張している。
和香のどうしてとの問いに、白いシェパードは「わふん。(たまたま通りがかっただけだ)」と。
(いやいやいや、そんなわけないでしょう)
と、心の内にて和香は突っ込む。
にしてもあいかわず口数少なく素っ気ない態度のホワイトナイト。
彼はこれ以上は語るつもりがないようなので、とりあえずそのことはいったん脇へとよけておくことにして……
和香の目の前にはタヌキの宝箱がある。からっぽだったのに怒ったフォルが蹴飛ばしたモノが、めぐり巡っていまここに。
何気なく前足をのばし、倒れていたのを起こしてみる。
すると、たまさか目に入ったのがフタの内側。
よくよく見てみれば、そこには文字らしきものが彫られているではないか。
もっともそれはタヌキ文字にて、和香にはさっぱりわからない。
そこでサンとパウロに解読してもらったところ……
『和を以て貴しとなす』
と、あった。
言葉の意味は、無闇に意地を張って対立するのではなくて、しっかり相手と意見をぶつけ合い、互いの理解を深めることで、まとまることこそが大事。
話し合い、議論の大切さを説いた言葉である。
ようは、みんな仲良くということ。
この金言こそが文太親分が残した宝。
でもって箱の中がからっぽだったことについては、文太親分の茶目っ気であったことが、ホワイトナイトの考察により明らかとなる。
「わふん? うぉーん。(それってタヌキの宝箱なんだろう? だったら『カラ』で正解じゃないか)」
タヌキの宝箱。
たぬきのたからばこ。
タヌキだから『た』を抜いたら、あとに残るのは……
簡単なナゾナゾ。
オチを知って、一同ぎゃふん。
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