にゃんとワンダフルDAYS

月芝

文字の大きさ
34 / 62

034 ホワイトナイトみたび

しおりを挟む
 
 苦労して手に入れたタヌキの宝箱。
 なのに肝心の中身がない、からっぽ!
 あんまりである。
 もしかしてご先祖さまが仕掛けた、壮大なドッキリに引っかかっちゃった?
 だとしたら、そろいもそろってとんだおマヌケさんであろう。

 呆然とする一同。
 和香は開いた口がふさがらず、パウロとサンもショックのあまり声も出ない。
 現場にはなんともいえない空気が漂う。
 そんな中にあって、いち早く我に返ったのはフォルであった。

「ギャギャガァーッ! (ふざけやがってっー!)」

 おちょくられたと感じたフォルは怒り心頭にて、空箱をポカンと蹴飛ばす。
 そしてギロリ、和香とパウロをにらみつける。
 とても剣呑な目つきであった。どうやらフォルは、このやり場のない怒りを和香たちにぶつける腹積もりのようだ。

 ――えっ、箱を開けたら見逃す約束は?

 そんなもの、はなから守つもりなんぞなかったのだろう。
 もとより和香も期待はしていなかったけど、面と向かってぶつけられた殺気に、おもわず身がすくんでしまった。

 明確なる殺意、野生の獣が持つ迫力、その凄味……

 それらは和香の日常には存在しなかったもの。
 まるでいきなり刃物を突きつけられたかのような錯覚に襲われる。
 理性や勇気がたちまち恐怖に上塗りされた。
 和香にそんなつもりはなかったのだけれども『なんだかんだでしょせんはタヌキでしょ? いざとなったら……』と心のどこかで侮っていたらしい。
 でも、それが甘い考えであることを思い知らされた瞬間、和香は頭の中が真っ白になってしまい、作戦を決行するどころではなくなった。
 そして怒りは伝播する。
 集団を率いるフォルの影響を受けて、配下の者たちの目つきまでもがガラリと変わった。

(――怖い)

 怯える和香はすぐに逃げ出そうとするも、それはかなわない。
 あっという間に取り押さえられてしまった。
 身じろぎすらも許されず、がっちり地面に押しつけられる。パウロもしかり。
 ふたたび拘束されたところで、フォルが「グフグフグフ。(さぁて、どうしてやろうか)」とニタニタ笑みを浮かべては、ゆっくりと近づいてくる。

「ギャギャギャ、ウユンユン。(まずは尻尾をかじろうか、それとも耳からか)」

 吐く息が感じられほどにまで顔を近づけられ、カチカチ牙を鳴らしながらささやかれ、まるで生きた心地がしやしない。和香は恐ろしさのあまり声にならない悲鳴をあげた。
 だが、その時のことであった。

 びゅるり。

 谷底――石の墓場に一陣の白い風が吹く。
 たまらず和香はギュッと目を閉じた。

  ◇

 風はじきに止んだ。
 しぃんと不自然に静まり返っている現場。
 恐るおそる和香がまぶたを開けた時には、すべてが終わっていた。

 死屍累々――いや、本当は死んでないけど――にて、キュウと目を回しているタヌキたちはフォルの手下たち。荒くれタヌキどもがみな倒されている。
 フォルもまた地面に倒れ伏しており、その頭をムギュっと踏んづけていたのは白いシェパードであった。

「うにゃにゃにゃ!? (えっ、ホワイトナイトさまが、どうしてここに!?)」

 助かった……けど、状況が理解できずに和香は困惑するばかり。
 解放されたサンとパウロも、突如乱入してきた白いシェパードを前にして、緊張している。
 和香のどうしてとの問いに、白いシェパードは「わふん。(たまたま通りがかっただけだ)」と。

(いやいやいや、そんなわけないでしょう)

 と、心の内にて和香は突っ込む。
 にしてもあいかわず口数少なく素っ気ない態度のホワイトナイト。
 彼はこれ以上は語るつもりがないようなので、とりあえずそのことはいったん脇へとよけておくことにして……

 和香の目の前にはタヌキの宝箱がある。からっぽだったのに怒ったフォルが蹴飛ばしたモノが、めぐり巡っていまここに。
 何気なく前足をのばし、倒れていたのを起こしてみる。
 すると、たまさか目に入ったのがフタの内側。
 よくよく見てみれば、そこには文字らしきものが彫られているではないか。
 もっともそれはタヌキ文字にて、和香にはさっぱりわからない。
 そこでサンとパウロに解読してもらったところ……

『和を以て貴しとなす』

 と、あった。
 言葉の意味は、無闇に意地を張って対立するのではなくて、しっかり相手と意見をぶつけ合い、互いの理解を深めることで、まとまることこそが大事。
 話し合い、議論の大切さを説いた言葉である。
 ようは、みんな仲良くということ。
 この金言こそが文太親分が残した宝。
 でもって箱の中がからっぽだったことについては、文太親分の茶目っ気であったことが、ホワイトナイトの考察により明らかとなる。

「わふん? うぉーん。(それってタヌキの宝箱なんだろう? だったら『カラ』で正解じゃないか)」

 タヌキの宝箱。
 たぬきのたからばこ。
 タヌキだから『た』を抜いたら、あとに残るのは……
 簡単なナゾナゾ。
 オチを知って、一同ぎゃふん。


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...