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033 からくりチャレンジ
しおりを挟むカチャ、カチャ、カチ、カチ……
かすかに響いていたのは箱の仕掛けを動かす音。
一同が見守る中、和香は黙々とタヌキの宝箱に挑む。
肉球の手なのでちょっとやりづらいけど、そこは気合いでがんばる。
序盤から中盤までの作業はわりと順調であった。施されてあるからくりが、祖母の箱とだいたい同じだったからである。おかげでちょっとつまづくことはあっても、わりとサクサク進められた。
この時点で、クリアした仕掛けはすでに二十を越えていた。
「にゃふぅ」
いったん手を止めて深呼吸をする。和香はペロリと舌なめずりをしては、こっそり周囲の様子を盗み見る。
フォルは目をギンギンに血走らせては宝箱を凝視している。野心家は欲望むき出しだ。
一方で周りを囲んでいるタヌキたちの中には、待ちくたびれるあまり「クカァ」と大あくびをしている者なんぞもいる。
緊張状態はあまり長くは続かない。
現場はいい感じに中だるみしていた。
和香はほくそ笑む。
開封作業もいよいよ終盤へと入った。
しかしここにきて黙考する時間が増えていく。
わざとではない。単純にからくりがむずかしいのである。
だというのにフォルときたら、人の苦労も知らないで「ギャウギャウ! (もたもたするな!)」とやかましい。
和香はこめかみの辺りをヒクヒクさせつつ、フォルの勝手な言い分はつーんと無視して。
「うんにゃ、なぁ~。(ねえパウロ、ちょっと手を貸して)」
ここから先はひとりでは無理だから助手がいる。
と、和香はもっともらしいことを言った。
もちろんウソである。
そろそろ頃合いだと和香は判断した。周囲にバレぬようパウロへ接触し、起死回生の一手を打つことを報せるのだ。
とはいえさすがにこれにはフォルが難色を示す。パウロの代わりに自分の部下にやらせると提案してくるも、和香はやれやれと首を振っては大袈裟に肩をすくめてみせた。
「なぁなぁ、にゃんにゃん? (べつにかまわないけど、本当にそいつらにまかせて大丈夫なの?)」
フォルの配下たちはみな荒くれ者である。どう贔屓目に見ても、ちまちました作業には向いていそうにない。いかにも短気を起こしそう。
その点、パウロはさすが茂勢組の頭領の跡取り息子なだけあって、理知的であり貴公子然としており落ち着いている。
大切なタヌキの宝箱、どっちにまかせるのかなんて悩むまでもなかろう。
とはいえ捕らえたパウロを自由にするのには、やはり抵抗があるらしく……
フォルはしばし逡巡するも、結局は『一刻もはやく宝箱の中身が見たい』という欲望に負けた。
「ギャギャギャギャギャ。(いいだろう。ただし妙なまねをしたら承知しねえぞ)」
しめしめである。まんまとパウロに接触することに成功した。
和香は、額を突き合わせて作業するフリをしつつ、パウロにだけ聞こえるようにこしょこしょこしょ、自分の作戦について伝える。
それを聞いてパウロは一瞬目を丸くするも、フォルたちにバレてはいけないのですぐに平静を装って、小さくうなづいた。
なおサンの方は引き離されているので連絡のしようがない。サンのことはパウロにまかせるしかないが、彼のことだからきっとうまくやるだろう。
かくして準備は整った。
あとは和香がネコから人間の姿となって、フォルたちを「わっ!」と驚かせるだけ。
しかし寸前になって、予期せぬトラブルが起きた。
手元でカチリという音がして、和香とパウロはおもわず「「あっ」」
いままでとは明らかにちがう音……まるで何かと何かが、しっかりかみ合ったかのような。
本気で開けるつもりはなかったのに、あれこれ適当にいじくるうちに、たまたま二十七番目にして最後のからくりが解けてしまったらしい。
箱のフタがわずかに浮いている。
うっかり箱を開けてしまった!
いきなり段取りが狂ってあわてる和香たち。
そこへ目の色を変えたフォルをはじめとして、待ちかねていた配下の者たちまでもが興奮して一斉にわらわら群がってきたもので、和香とパウロはたちまちもみくちゃにされた。
はずみで和香が手にしていたタヌキの宝箱が、ポーンと彼方へ飛ばされる。
コテンと地面に転がった宝箱、ひょうしにフタがパカンと開いた。
だが、何も出てこない。
箱の中はからっぽであった。
木の葉一枚入っていやしない。
これには一同、あんぐり。
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