にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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035 ポンポン山

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『和を以て貴しとなす』

 ご先祖さまからの耳の痛いお言葉……ならぬ金言をたまわり、どんぐり山で起きたタヌキたちの騒動は終息する。

 フォルたちはホワイトナイトにメタメタにやられて、すっかり意気消沈し尻尾を丸めている。なまじ腕っぷし自慢であったがゆえに、今回の負けが相当こたえたようだ。
 またこれによりフォルの求心力の低下も避けられないだろう。そのままグループが瓦解するなんてこともあるかもしれない。
 これまでは若さと野心と勢いでもって、肩で風を切って歩いてきたフォルは前途多難である。

 一方でサンとパウロのカップルは希望に満ちあふれており、前途洋々であった。
 文太親分の残したタヌキの宝箱、そこに込められてあった想い、金言を掲げ自分たちの両親や、頭の固い古老たち、仲間らを説得すると意気込んでいる。
 どんぐり山にて、茂勢組と梅津組との間で長らく続いていた抗争に終止符を打つつもりだ。
 ことはそう簡単にはいかないだろうけれども、サンとパウロの決意は固い。
 でも彼らならばきっと大丈夫、この試練を乗り越えることであろう。
 かくしてひとまずの決着をみたところで、和香はタヌキたちに別れを告げた。

「ウユ~ン。(どうかお元気で)」
「キュンキュ~ン。(ありがとうワカ、ご恩は一生忘れません)」
「にゃん、にゃにゃ~ん。(サンとパウロもがんばってね。じゃあね!)」

  ◇

 白いシェパードが茜色のネコを背に乗せて走っていた。
 前方にある木々や、足下にてうねる木の根、わさわさ生い茂る繁みもなんのその。
 まるで向こうが自分から避けているようにして、飛ぶように駆けていく。
 リズミカルに躍動する四肢は地形をものともせず。歩幅が広い。力強くも軽やかな足運び。雄々しく華麗に疾走する姿は爽やかな夏風のごとし。
 背につかまっている和香は、もの凄い勢いで流れていく景色に目をぱちくりするばかりであった。

 そうして二頭が向かっていたのは、ポンポン山の天辺である。
 なにせいまの和香は遠足――長距離歩行訓練を無断で抜けているようなものだ。紅葉路のアレにイタズラをされて、強制的にどんぐり山へと送られてから、けっこうな時間が経っている。いい加減にスズちゃんや悠太らと合流しないとマズイだろう。それに玲央のことも気になっている。

 遠足のゴールはポンポン山の頂上だ。時間的にも、そろそろ先行していた生徒たちが到着しているはず。
 和香はそこにこっそりまぎれ込むつもりである。玲央を巡る喧騒から逃れて、ひとり先回りしたことにして、誤魔化してしまおうと考えていた。
 とはいえ慣れぬ山道である。悪路に苦戦してモタモタしていたら、そんな和香を見かねてホワイトナイトが「わぉん。(近くまで送ろう)」と申し出てくれたのが、いまの状況であった。

 ホワイトナイトのおかげで、じきに山頂付近へと到着した。
 ポンポン山の頂上は展望公園になっている。
 木陰からこっそり様子をうかがってみれば、予想通りにてそこそこの数の生徒の姿があった。みなおもいおもいのところにシートを広げては休憩している。さすがに長い距離を歩かされたのではしゃいでいる子はわずか、ほとんどがぐったりしている。
 誰も周囲に目を配る余裕なんてない。これならバレないだろう。なおスズちゃんたちはまだ来ていないようだ、しめしめである。

 が、肝心なことを忘れていたもので和香は、ハッ!
 それはホワイトナイトのことだ。
 いまの和香はネコである。まずは人間の姿に戻らなければならない。
 でもそばにはホワイトナイトがいる。これだと変身できない。
 さて、どうしたものやら。

「うにゃにゃ? (って、あれ? いない)」

 ふり返った和香は、きょとん。
 ついさっきまで自分のうしろにいたはずの白いシェパードは消えていた。

「なお~ん。(いったいいつの間に……)」

 和香は首をかしげつつ、付近の繁みの中へと入って人の姿に戻った。


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