にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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043 ネコの女奉行

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 それは月のない夜のことであった。
 暗闇にギラリと光るのは十二の瞳。
 どことも知れない場所に集められたのは、カラス、ネコ、タヌキ、イタチ、ネズミ、アライグマたち。
 各々が群れを率いる立場、もしくは発言に影響力を持つ者らにして、フライドチキン抗争の当事者でもある。

 いきなりであった。
 ふだん通りに仲間や家族と過ごしていたら、不意に自分の足下に丸い奈落のような濃い影が浮かんだ、とおもったら「――っ!」
 キュッ、スポン。
 影穴に呑み込まれてしまう。
 で、次の瞬間にはこの場所にいた。
 どうやら不思議な力で強引に連れてこられたらしい。

 少しひんやりとした清浄な気が充ち、しぃんと静まり返った厳格な雰囲気の空間。
 緊張感が漂っている――けれども、害意は感じられない。
 集められた者たちはみな夜目が利く。互いに見知った顔だとすぐに気がつくも、状況がさっぱりわからない。息を潜め警戒しつつ周囲の様子をうかがっている。
 そこへ光がひとつ、ゆっくりと降りてきた。

 優しい輝きは虹色をしている。
 よくよく見てみれば、それは虹色をした小石――虹石であった。

 とぷん……

 虹石が闇へと落ちて波紋が広がる。
 刹那のこと。
 真っ暗であった世界に色が生まれた。
 彩りがさざ波に乗る。
 強い光があふれる。
 あまりのまぶしさに、一同はギュッと目を閉じた。

  ◇

 光が落ち着いてきたところで恐るおそるまぶたを開ければ、景色が一変していた。
 中庭のような場所?
 三方を白い漆喰の壁に囲まれており、足下には砂利が敷き詰められ、筵(むしろ)がひろげられてある。ここが下段になっており、向かって正面の上段には座敷が設けられており、それらの間にはまるで上下を隔てるかのようにして板の縁側がある。
 時代劇ではお馴染み――奉行所のお白洲のセットのような場所に、一同あんぐり。
 あまりの奇天烈な展開に面喰らい、動物たちが固まっていると……

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 三度、力強く響いたのは陣太鼓の音。
 それに合わせて座敷の襖が静かに開く。
 奥から姿をあらわしたのは、肩衣長袴姿が凛々しいロシアンブルー。
 かすかな衣擦れをさせながら、畳の上を滑るように前へ。
 ピンと立った耳の天辺から、ふたつに分かれた尻尾の先まで、一分の隙もない。
 洗練された所作、そのひとつひとつがとても美しい。
 絵になる男装の令嬢――ならぬ令猫(れいびょう)。
 ネコの女奉行さまが登場するなり、神秘的なオッドアイで下段にて呆けている者らをジロリとひとにらみ。

「一同、控えよ」

 言われるなり動物たちは、すぐさま筵の上に身を伏せ首(こうべ)を垂れた。有無を言わさぬ迫力があったからだ。
 その様子にフムと満足げにうなづき、ネコの女奉行さまが口を開く。

「この度、その方らを集めたのはほかでもない。和香という者より『エサ場を巡って不毛な争いが続いているので、どうにかして欲しい』との嘆願が、猫嶽の役所に届けられたからである。
 訴状によれば、騒ぎが高じるあまり、他の迷惑もかえりみずに乱闘騒ぎを繰り返しているそうだな。ばかりか、すでに人間どもも動き出しているというではないか。
 だというのにその方らときたら……、いったい何を考えておるのか」

 淡々とつむがれる言葉、けっして声を荒げるでなし、でも威圧が尋常ではない。
 ネコの女奉行さまより指摘をされて、動物たちは汗をかきかき、なかにはプルプル震えながら縮こまっている者もいる。
 その様子を舞台袖からこっそり見学していた隻眼カラスのジョーとネコ姿の和香も、いっしょに怒られているかのような気持ちになって、どうにもお尻の辺りがムズムズして落ち着かない。

「すげえな。これが猫嶽の――ウワサには聞いてたが、あの連中がぐうの音も出ないだなんて」
「うん、そうだね。御所さま……ええと、わたしのお師匠さんによると、桐葉さまってば、じつは猫嶽の役所でも屈指のキャリアウーマンらしいよ」

 ジョーと和香は評定の邪魔をしないよう声を潜めては、こしょこしょ。
 ロシアンブルーのネコの女奉行さま、名前を桐葉という。
 猫又らを統括するのが猫嶽の役所。
 そこに所属し、よろず相談を請け負ったり、ときにわざわざ出張してまでお白洲を開いては、諸問題の裁定を下すのがネコ奉行さまである。
 古来よりの法と秩序の番人。
 この大事な役職を任ぜられるのは猫又の中の猫又、スーパーエリート猫又のみ。
 そのなかでも桐葉は唯一の女奉行だというのだから、たいしたもの。
 でもって猫又は強いから、一般の動物たちはみなこれに従う。

 御所さまにフライドチキン抗争について相談したところ、猫嶽の役所に訴えてみるようにとのアドバイスを受けた和香は、ダメ元でお願いしてみた。
 あんまり期待していなかったのは、しょせん役所は役所だし、なにより今回の件は猫又の問題ではなくて、あくまで町に住む動物たちの問題であったから。
 実際のところ、役所の受付での反応はかんばしくなかった。
 だから内心「あー、やっぱりダメか」と和香が諦めかけたときに、横合いからひょいとのびてきた手が、申請書類を引ったくる。
 それがたまさか出張帰りに通りがかった桐葉であった。

 ざっと書類に目を通した桐葉は「ほぅ、おもしろい。よし、いいだろう。この案件、私が預かろうではないか」と言ってくださったのである。
 かくして本日、出張お白洲が開廷の運びとなった次第。
 和香たちが見守る中、評定は続く。


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