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044 無駄骨
しおりを挟む桐葉は容赦ない。
ネコの女奉行さまがズバズバ物申す。
「ふーむ。うぬら……もしや気づいておらぬのか? けっこうヤバいぞ」
なにがヤバいのかといえば、それはお腹である。
大人から子どもまで、みんな大好きフライドチキン。
だが、ご多分に漏れず揚げ物なのでカロリーはちょっぴりお高めだ。
食べる肉の部位によっては、脂質や糖質などの栄養価に多少の差はあれども、総じて……ねえ?
調理の際には油たっぷり。
衣には独自配合のスパイスをこれでもかと混ぜている。
加えて人間の舌に合わせた味付けだ。
自然界にはない味ゆえに、動物たちにとってはごちそう。
けど、含まれているあれやこれが動物の身にはちと余る。
ぶっちゃけ体にあまりよろしくない。
というか、あげちゃダメ!
でもって、そんな食生活を続けていれば、当然ながらお腹まわりがプニプニ、体つきが福々しくなるのもしょうがないわけで……
「ろくに飛べないカラスは、老いたハトにも劣るぞ」
桐葉の口撃。
カラスの代表は「ぐはっ!」
バサリと翼を広げて倒れた。
「おいおい、そんなだらしない体では壁の上を歩くのにも難儀しそうだな」
桐葉の口撃。
ネコの代表は「うにゃ!」
涙目にて膝から崩れ落ちる。
「偏った食生活をしているせいか? くんくん、う~ん、ちょっと臭うかも」
桐葉の口撃。
タヌキの代表は「ぎゃふん!」
ショックのあまりひっくり返っては、ピクピクタヌキ寝入り。
「失くしてから初めてありがたみがわかるモノがある。それは健康だ」
桐葉の口撃。
イタチの代表は「がーん!」
ハッとして胃の辺りを押さえては、愕然とする。
「腹の肉がつっかえて、隙間を通り抜けれないネズミの、なんとマヌケなことか」
桐葉の口撃。
ネズミの代表は「ちゅう~」
うなだれ頭を抱えては、イヤイヤ。
「調子に乗って揚げ物ばかり食べていたら、ニキビができるぞ。あと動脈硬化もなにげに怖い」
桐葉の口撃。
アライグマの代表は「くぅ~ん」
天をあおぎ嘆息する。
一連のやりとりを舞台袖から見学していた和香とジョーは、身を寄せ合いガクブル。
「「桐葉さま、おっかない」」
とまぁ、終始がこんなありさまにて桐葉の独壇場である。
全員をきっちりへこまし、存分に反省を促してから、ネコの女奉行さまは判決を申し渡す。
「まとめて人間らに駆除されたくなくば無用の争いを避けよ。和香の提案を受け入れ、エサ場を仲良く共有するように。
さすれば、おのずと腹もひっこむであろう。
それからゴミ袋は無闇に破いたりせずにそっと開け、後始末もきちんとせよ。
散らかしたままだと人間どもが怒るからな。
ではこれにて本日のお白洲を閉廷する。大儀であった」
「「「「「「ハハーッ」」」」」」
一同が平伏したところで、ぱちん。
まるで照明のスイッチが一斉に切られたかのようにして、世界が暗転した。
◇
出張お白洲にて、ネコの女奉行・桐葉さまによって評定は下された。
あとはみんなで決まり事を遵守するばかり。
だったのだけれども……
「カァー。(まさかこうなるとはなぁ)」
「なぁ~ご。(だよね~)」
ジョーとネコ姿の和香は解体現場を眺めつつ、盛大にタメ息をつく。
フライドチキン抗争の舞台となっていたあのボロアパートが、急に取り壊されることとなったのだ。
理由はいくつかある。
ひとつは老朽化のため、建て替え話が前々から持ち上がっていたとのこと。
いまひとつは、数少ない住人が体調を崩したのを機に、郷里に帰ることになったこと。
でもって、その住人というのが、フライドチキン抗争の元凶となっていた例の人物である。
そりゃあそうだ。
連日、揚げ物ばかり食べてはビールやコーラをがぶ飲み、そんな不摂生な生活を続けていたら倒れもするだろう。これに関しては、自業自得なので同情の余地ナシ。
そしてこれにより「もう、ここに用はない」と動物たちもそっぽを向いたことにより、騒動は自然消滅を迎えることとなった。
こういうのを『大山鳴動してネズミ一匹』というのであろう。
とどのつまりは完全に無駄骨である。
ジョーと和香は居たたまれない。
なお市役所の環境課による調査はまだ続いている模様。
近頃、市内に居つく動物たちが増えており、活発化しているそうで、あちこちでトラブルが頻発しているらしく、けっこう本腰を入れて調べているそうな。
町の動物たちが増えている。
それゆえにいさかいが増えて、ついにはフライドチキン抗争なんぞも起きた。
ということは……
第二、第三の抗争がいつ勃発してもおかしくない?
「いや、まさか――ね」
和香は首を振り、自分の思いつきをすぐに頭の中から放りだした。
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