彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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34話 眷属とは

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さて、あれからどうなったかというと。
なんでも翌々日が入学式ということで、1度家に帰ることも許されずに学院の部屋に押し込まれました。

最低限の必要な物は用意されているらしく、それでも足りない物はあるわけで、父さん達は大慌てで帰っていった。
まさか平民の家から2人も王立学院に入学できるとは思っていなかったらしく
「さすが私の子供達」
とえらくご機嫌な義母に褒められた。
いつお前の自慢の子供になったのか、小一時間ほど問い質したい。


「失礼いたします。私、この棟を管理しているダズラバと申します。既製の品ではありますが学院での制服をお持ちいたしましたので、サイズの確認をお願いします」
ほえー、服とかまで用意してくれるんだ。
「サリスフィーナ様はこちらの研究員の制服となります」
「あ、はい。ありがとうございます」
クリス達は白ベースに緑の模様だけど、俺は黒に緑の模様が入った服だった。なんか肩のところにヒラヒラがついている。

「では失礼いたします」
ダズラバさんは大きな箱を4つ置くと退室していった。
中には数日分の下着から部屋着から履物から諸々の必需品が納められていた。あ、筆記具もある。
手触りも確実に上等品で、カランとリクが一瞬強張った。

「それにしても、ここって特別室なのか?」
「そう思うのもわかるけど、これが王立学院貴族の学校の標準なんじゃないかなー」
クリスは特に驚いてる感じがしない。
でもめっちゃ豪華なんですけど。

「でっかいお風呂もついてるし、オーブン付きのキッチンもあるのに?」
「だって4人部屋じゃん。特別な部屋なら、これで1人用でしょ」
確かに4人分のベッド部屋があるな。鍵もついてないし。
けどそれぞれが広いし、なんならベッド自体もデカいじゃん。クリスとも同室だし、正直落ち着かない。

「それにしても、リクまで特待生の学生登録されてるとは思わなかったな」
「気乗りはしませんが、サフィ様と一緒にいられるならいなはありません」
なんか城のヤツらの様子が怖かったから、断る選択肢なんかなかったもんなー。

「私も『自分で学費を賄えるなら通っていい』などと言われるとは思いませんでしたね。付添の使用人が許可されないのであれば他に方法も無かったですし、旦那様には感謝しております」
カランの学費は父さんが出してくれることになったんだよ。
何しろクリスも特待無料だったし、俺は研究員扱いでむしろ給金が発生するらしいし。
さすがの父さんも気が引けたのかなって。1人くらい払わせてくれ、みたいな。

まあ、いろいろあったけど
「はあ、よかったあ、無事終わって」
だってさ、俺、授業受けなくていいんだよ。
試験が無いの。
これをよかったと言わずしてなんというのだ、るんるん!
……と思っていたのだが。

「サフィ様……」
「ど、どうしたんだ?」
部屋から部外者ダズラバがいなくなった途端、リクとカランの顔がめっちゃ怖いことになった。
「勉強するのイヤだったら、今からでもやめとくか?」
勉強するの面倒だよな。わかるぞ、その気持ち。
俺だけ試験ないし、ズルい~って恨みたくなる気持ちも理解できるぞ。

「違いますよ。サフィ様が酷いという話です」
「本当ですね。サリス様がこれほど非道な方だとは考えてもいませんでしたよ」
「え、と。何が?」
な、何が?勉強以外で何かやらかしてたってこと?

「あははー、兄さん怒られてるの?従僕に」
クリスは荷解きをしながら、俺の状況を楽しんでるらしい。ていうか
「お前、自分で支度するとか偉いな」
俺のはさっさとカランとリクが片付けてくれたのだ。

「当たり前でしょ?王立学院は基本自立して生活する場所だよ。兄さんも彼らを従僕と考えたりしないで生活しないと、制裁対象になるかもしれないから気をつけないとね」
学校なのに、制裁対象てなんだ。
「明らかに人気が出そうな2人を他人ひとの目があるところでこき使ったりしたら、兄さん、袋叩きされちゃうかもよ」
ううう、それはコワイ。

カランとリクが人気が出そうな2人っていうのは納得できる。
クリスだってふわふわの優王子顔だしな。
この部屋で俺だけ普通で、しかも学生でもないときた。うーん。
『何あの平凡顔、3人様を顎でこき使って。腹立つなー!よし、みんなで私刑だ!!』
うん、簡単に想像できる。

「わかった。カランとリクに頼らないように気をつける」
俺がそう言うと、クリスが『よくできました』っていう顔で褒めてくれた。
けど、カランとリクが般若顔になってしまった。

「頼らないように気をつける……ですか?」
「わかっておりませんね、サフィ様は」
「へ?」
「私達が何に怒っていたのか」
「理解していないようで、腹が立ちます。どうしてやりましょうか」
な、な、なんでだよ。

「なぜあの時、我々を切り捨てるようなことを口にしたのですか?サリス様のお役に立てなかった過去ことをお怒りでしたか?」
その言葉にカランとリクが何に怒っているのか思い当たって、俺は言葉を詰まらせた。

カランは俺がいなくなった後、ずっと探し続けてくれていたんだった。そんなに大事にしてもらえてるとは思ってなかったから驚いたんだよな。
あんなワガママな俺だったのに、カランは俺を見捨てなかった。
それなのに、俺、カランを切り捨てるみたいなこと言っちまったのか。

「あの時の約束を反故にして『要らない』などと言われるくらいなら、サフィ様の手で殺してもらいたかった。俺のこと捨てたりしないって、あれは嘘だったんですね」
リクの言葉も重い。

俺はリクが孤独な辛い日々を過ごしてきてのを知ってたのに。捨てられると思って、すがり付いて離れなかったリクを思い出す。
拾った俺に要らないなんて言われたら、捨てられたと思うよな。
そんなことを口にしたんだな、俺は。

俺、自分の都合ばかりで考えなしだった。
そんなつもりはなくても、外から見れば明らかに立場の上の人間が2人を押さえつけたように見えただろう。2人もそう感じたに違いない。
権力者の暴挙だったんだな。

「ごめん。あの時はとにかく、無断で嫌なことを押し付けるクリスに謝らないとって思ってたんだ。クリスに頭を下げるの、2人に邪魔されないようにって、それで言っただけなんだ。要らないなんて思ってないよ」
「なら、そうおっしゃってくだされば良かったのです」
「うん、次からはきちんと説明する……から、許してください。ほんと、ごめん」
そんな言葉で傷つけた気持ちが簡単におさまるわけ無いってわかってるけど。

手のひらを握りしめて断罪を待っていると、2人からため息が溢れた。
カランとリクが俺の前に跪き、俺を見上げるような位置につくと、それぞれの手が握りしめた俺の手を包んだ。

「サリス様の気持ちはわかりました。謝罪を受け入れましょう。でも2度とあんなこと言わないと誓ってください」
「も、もちろん」
「俺達を一生手放すことはないと、誓ってくださいますね」
「う、うん。わかった」
了解したのに、2人の視線は離れない。

「では、我々に正式な誓いを」
「は?」
正式なやつってなんか縛りがあったよな?
嘘ついたら呪われる系のなんか。
それをやれって言われてんの?

「ほら早くきちんと裏切れないよう誓ってください」
「そ、そんな本格的にしないとダメか?」
この系って反故にしたらどんな罰があるんだっけ……お、覚えてなひ。

「もちろんです。傷ついた心はそのくらいしていただかないと癒されることはないでしょうね」
「きっと不安で情緒が不安定になることでしょうね。それとも、そうなればいいと思うほど実は私達のこと嫌いでした?」
「そんなわけないだろ!」

ううううう。
もう覚悟を決めよう。
「あーでも俺、誓言とか全然覚えてない」
自分には一生縁はないと思ってたから、これっぽっちも覚えてない。

「大丈夫ですよ。こちらに下書きしてあります。神の名のところは、よろずの神々の中からサリス様が信仰されている名を入れると良いでしょう」
うーん。信仰する神様ねえ……シフォンでいいかな。
この世界の他の神様よくわかんないし、天照様とか毘沙門様とかキリスト様とか、俺の知ってる神様は多分いないだろうしな。

なんなら、俺の使い切れない力も譲渡してやんぜ。ちょっとだけ誓言いじるのアリだよな。
シフォンが俺の器は小さいから、育った力は譲渡した方がいいって言ってたもんな。
俺に一生ついてくるつもりなら、覚悟しろよ!
力に振り回されるのも結構大変なんだぞ!
馬鹿力とか馬鹿力とか馬鹿力とかな!
力に振り回されると粉砕するしな!……便利だけど。

深呼吸すると、まずはカランの手を取った。
「我、サリスフィーナ ミニマム、カランの願いを受け入れ生涯を汝と共に歩むことを約束する。その証に、森の祖神獣である大生神シフォンより授りし力の一部を譲渡するものとする」
誓言と共にカランの額に口付けると何か見慣れない『闇手』という模様が光って吸い込まれていった。

うむ、なんかわからんが無事に力の譲渡ができたようだな。
カランがやたらと嬉しそうだ。
次はリクだ。
リクに向き直ると、その手を取った。

「我、サリスフィーナ ミニマム、リクの願いを受け入れ生涯を汝と共に歩むことを約束する。その証に森の祖神獣である大生神シフォンより授りし力の一部を譲渡するものとする」
同じくリクの額にも『凍水』という模様が光って消えた。
と思うと、どこからか『リキューリクの力の解放には、我からも祝福を与えよう!』と小さな歌が聴こえてきてリクが輝いた。

リクが感動で打ち震えてるのがなんかかわいい。
はあ、よかったな。

「なんかすごいことになってるねえ。ねえ兄さん、1個目のお願い、僕もそれにしようかなー。全く同じやつね」
「へ?」
距離を取って様子を見ていたクリスだが、2人への誓言が終わると寄ってきて俺の手を取った。

「ほら早く!それとももっと別な何かの方が良い?」
別な何かってなんだ。
無条件で叶えなければならない願い事が3つもあるんだぞ。
1個目が『ずっと一緒だよ』っていうのと、余って困っている力の譲渡程度なら、まともなお願いの部類に入るだろう。
「わかった」
死ねとか言われるよりずっといい。

『僕、浄化系がいいんだけどねー』
『その程度ならば良いであろう』
サフィが知らぬところでクリスが何かを呟いたのを、これまたサフィとクリスの知らぬ間に何かが受け入れた。
そうとは知らずにサフィは誓言を唱える。

「我、サリスフィーナ ミニマム。クリスの願いを受け入れ生涯を汝と共に歩むことを約束する。その証に森の祖神獣である大生神シフォンより授りし力の一部を譲渡するものとする」
『炎浄』模様が光ると、これもスッとクリスに吸い込まれた。


こうして3人はサリスフィーナに連なる者として力を手にすることになったのだった。
真なる意味も知らずに。
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