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38話 ある父と兄の苦悩
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我が王位についたのは、まだ16の時であった。
父王は豪胆で強く、憧れの人であった。
王族には珍しいことに妃をたった1人しか娶らず、その愛妻ぶりは随分と揶揄されたものであった。
今思えば、苦言も多くあったことだと思う。
母が亡くなり、父の興味はもっぱら我等子供のこととなったが、民と触れ合う良き王で、また、良き父であった。
その父が突然崩御した。
個人的な視察で、供にはいずれも腕のたつ3人をつけての、いつもの、毎月のことであった。
王領内にある墓の、その帰路で襲われたという。
学院時代からの友人で、我の婚約者の父であるベルフォンスが、ただ1人満身創痍で馬に引き摺られるようにして帰ってきて、そう訴えたのだった。
慌てて駆けつければ、確かに父と2人の供の遺体はあった。
何がそう思わせたのか、未だに分からない。
だがその時、確かに我はおかしいと感じたのだ。
彼奴の目の力に、一瞬だけ上がった口角に。
そんなわけがない。
そんなはずがない。
彼等は確かに厚い友情で結ばれた、長年の友であったのだから。
そう、思おうとした。
それでも、おかしいと感じてしまったのだ。
その感覚は、我に不信感を抱かせるのに充分であった。
父の死と同時に、我の戴冠が決まり、また同じく妃を娶ることが決まった。
相手はベルフォンスの娘、ヴァーミラだ。
だが、なぜだろうか。
無性に納得できない自分がいた。
そんな時、ヴァーミラが笑いながら言ったのだ。
「まだ女を知らないトレアンに、自分を満足させることなどできるのか」
と。
『私以外の女に触った手で触れられたくない』と拗ねて言っていた、可愛らしい彼女の言葉とは思えない台詞であった。
彼女の言葉に誠実であろう、父と母のような夫婦でありたいという気でいた我は、それ故に夜の指南もまだであった。
我は彼女の願い通り、指南役を受け入れることにした。
ヴァーミラの言葉に従う我は、彼等にとって都合の良い駒と見えたことだろう。
指南役は事前に月のものを確認され、その後厚い監視の元に置かれる。
薬を服用し、子を生すことなどないとわかっていても、そういう決まりであった。
褥に上がったのは、後に最初の妻となったシャルロッテだ。
指南役に選ばれることからもわかるように、生娘ではなかった。
初婚ではなく出戻りで、また身分も低かった。
本来であれば妃に据えることも叶わぬ末端貴族の娘であったが、元々の性格や前婚での苦労もあったのだろう。
その頃の我の、荒れた心を和ませる女性だった。側にいてくれると落ち着ける、そんな女性であった。
それ故に、彼女との間に父母と同じ愛を、子を望んだ我は一計を立てた。
そして生まれたのが王太子だ。
母の身分は低くとも、長子は長子。
我が国には代々遵守される、始祖王シンノスケの言葉がある。
国を平ける為にお家騒動は厳禁である
トクガワの永きの世にあやかり、必ず長子を跡取りに据えよ
いかに愚鈍な長子であっても、その治世を兄弟が側から支えよ
それに背いて王が立つと国護神の加護が得られず、その王の治世は荒れると言われている。
実際に何代かそういう時代があったそうだが、いずれも驚くほど短い治世となったと記されている。
故に、長子は長子。
女児であっても問題はなかったが、有難いことに生まれてきたのは男児であった。
それに異を唱えたのがベルフォンスであり、ヴァーミラであった。
身分の低い卑しい王などあり得ないと。
けれどそれは代々言い伝えられ、守られてきた王家の訓に勝るものではなかった。
通例通り長子長子はそのまま王太子となった。
その後、後継者問題に影を落とさぬように、気取られぬよう慎重に10年という年月を開けてヴァーミラとの間に1男を儲けると、我の興味はシャルロッテに留められることとなった。
ヴァーミラの妬みが、恨みが大きくなればシャルロッテに苦労をかける事態になると予想できても、我の心はヴァーミラに向くことはなかった。
王太子が生まれて15年。
シャルロッテに次の子が宿った。
誕生した我が子は、始祖王と同じ髪、同じ瞳、同じ属性を持つ神に愛された子供だった。
成長すればするほどその賢明さは現れ、また気質も温和。よく兄を支える弟となるだろうと胸を撫で下ろしたものだった。
その後2人目をとせっつかれ、ヴァーミラの間にもう1子儲けると、役目を果たしたとばかりに彼女を遠ざけた。
生まれた子は女児であった。
そして事件は起きた。
先に王太子王太子がシャルロッテと共にリキューリクの待つ部屋へと出向いた。
弟の10の生誕を祝うためにだ。
それは我が部屋から出るまでと、わずか5分間のズレであった。
身分の低い使用人の大半が金で買収されていた。
礼節をわきまえている使用人の家族が人質となっていた。
命よりも主人を優先する側仕えが呼び止められ、入室の遅れた僅かな時間。
側仕えが疑問に思うか思わぬかの、ほんの僅かな時間にそれは起きた。
王太子を守るため、毒杯とわかっていてリキューリクは口にしたのだ。
その我が子を守ろうと、シャルロッテは毒杯を奪い口にしたのだ。
そうして、王太子は生き延びた。
あの事件で、我は愛しい者2人を亡くすこととなった。
罰せられた者は真の犯人では無かった。
裏にはもっと大きな敵がいる。それがわかっていてもなお、その先を追求することは叶わなかった。
二妃側のやったという証も、とうとう見つからなかったのだ。
それからはベルフォンスとヴァーミラの息のかかった者たちを探し出し、密かに中央から排除することに腐心した。
2人が命をかけて守った王太子を、必ず守ろうと策を立てた。
王太子をすぐに結婚させ、次の後継者も生まれた。
これで第二王子が王位を継ぐことは難しくなったことだろう。
そっと、息をついた。
王太子を守る目処も立ち、次は民を困らせている事案の解決に本腰を入れることとなった。
そして出会ったサリスフィーナという子供。
とても美しい、けれど真の部分で貴族に屈しない不思議な子供は、我に幸運をもたらした。
死んだと思っていた我が子が生きていると知ったのだ。
神獣が言うのならば、それは事実なのであろう。
何より、我はそれを信じたい。
そして、2度と同じ過ちを繰り返してはならぬ。
悪いのは、リキューリクの生存を敵にも知られてしまったことだ。
領主を追い出す時に、アヤツも追い出すべきであった。
証拠は無くとも、我のあの時の違和感を、あの時の不信感を今こそ信じよう。
そして今度こそ守り抜くのだと、シャルロッテ、君に誓う。
☆☆☆
忘れもしないあの日。
私はかけがえのない母と弟を失った。
弟の待つ部屋へ足を踏み入れた直後、彼等はどこからか得物を取り出した。
その切っ先は全て私に向けられていた。
「さあ、勧んでその杯を呷りなさい。そうすれば母君と弟君は助かるかもしれませんよ」
差し出された杯は、明らかに毒杯だった。
異変を感じた側仕えが応援を呼びに走ったのが見えた。
常に側にいる護衛が、不自然に遠ざけられた場からこちらに寄る隙を探すのが見える。
何の刺激が彼らを衝動に突き動かすか分からず、皆慎重に辺りに気を配っていた。
父が来るまでの時間をなんとしても稼がねばならない。
だが、それは非常に難しい。
そんなことはわかっている。
そうこうしているうちに、アレは私を貫くために動くのだろうから。
動いたのはリキューリクだった。
ことを収拾するため毒杯を手に取り口にしたのだ。
「僕の祝いの場で起きた事であれば、僕が杯すのが筋でしょう」
と。
それを母が横から奪い取り飲み干した。
もうここに、私が飲める毒杯は、ない。
それどころか、予定外の出来事に、彼らにほんの僅かの動揺が走った。
その動揺は私の護衛が間に入る隙を充分に与えた。
誰が黒幕か、考えずとも分かる。
それでも母は彼女を責めなかった。
「元はと言えば私が相応しくない寵を得たのが悪かったのです。あの方も、寂しかったのでしょう」
望外の幸せでした、と。
結論から言うと、母は助からなかった。
毒杯はただの毒杯ではなかったため、ほんの僅か口に含んだだけのリキューリクも、完全に無事とはいかなかった。
その身に濃く呪いが残ってしまったのだ。
それでも命はあった。
リキューリクが生きていると、二妃に露見してはならない。
リキューリクを生まれた時から支えてきた乳母が、父にも隠れて弟と逃げ出すことを選択した。
その時の父があまりにもベルフォンスに近過ぎたためだ。
己を愚か者とし、私達を守ろうとしていたことは知っていても、父に全てを伝えることは良策ではなかった。
生きていてくれればいい。
生きていてくれれば、必ず、必ず探し出す。
私は乳母に、父と母から譲り受けていた婚礼の品を託した。
いずれ弟の、身を明かす証となるだろうと。
本来であれば死ぬはずだったのは王太子だ。
私だったのだ。
あれから5年。
二妃の息のかかった者たちは城から遠ざけられ、もういない。
二妃が自分の味方だと思っている者は、父と私の手の者達だ。
その日、ルイベル川を浄化したと思われる人物を呼び、アマデルウ川をも浄化したいと、協議の場を設けていた。
私は会議に参加できないが、民の負担が減るといい。そう考えていた時だった。
俄かに城内が騒がしくなった。
「ジャカルディク様、リキューリク様と思われる方が紅玉の間にいるようです。如何なされますか」
「ご自分が第三王子だとは知らないご様子です」
「陛下によく似た面差しで、始祖王の色をお持ちです」
「陛下の部屋にはベルフォンス様がいらっしゃるので、まだお耳に入れることができません」
入れ替わり立ち替わり、その報告は私に歓喜をもたらした。
そうか。
そうか、無事でいてくれたか。
ならば今度は私に守らせて欲しい。
勇敢で優しかった、愛しい私の弟よ。
「二妃に知られることなく、リキューリクを保護したい」
「はっ。お任せください」
足早に走り去った側近を見届け、けれども落ち着かぬ。
この5年。
お前はどう生きてきたのか。
幸せであったのか。
苦労はしていなかったか。
ああ、早くこの目で其方の無事を確かめたいものだ。
父王は豪胆で強く、憧れの人であった。
王族には珍しいことに妃をたった1人しか娶らず、その愛妻ぶりは随分と揶揄されたものであった。
今思えば、苦言も多くあったことだと思う。
母が亡くなり、父の興味はもっぱら我等子供のこととなったが、民と触れ合う良き王で、また、良き父であった。
その父が突然崩御した。
個人的な視察で、供にはいずれも腕のたつ3人をつけての、いつもの、毎月のことであった。
王領内にある墓の、その帰路で襲われたという。
学院時代からの友人で、我の婚約者の父であるベルフォンスが、ただ1人満身創痍で馬に引き摺られるようにして帰ってきて、そう訴えたのだった。
慌てて駆けつければ、確かに父と2人の供の遺体はあった。
何がそう思わせたのか、未だに分からない。
だがその時、確かに我はおかしいと感じたのだ。
彼奴の目の力に、一瞬だけ上がった口角に。
そんなわけがない。
そんなはずがない。
彼等は確かに厚い友情で結ばれた、長年の友であったのだから。
そう、思おうとした。
それでも、おかしいと感じてしまったのだ。
その感覚は、我に不信感を抱かせるのに充分であった。
父の死と同時に、我の戴冠が決まり、また同じく妃を娶ることが決まった。
相手はベルフォンスの娘、ヴァーミラだ。
だが、なぜだろうか。
無性に納得できない自分がいた。
そんな時、ヴァーミラが笑いながら言ったのだ。
「まだ女を知らないトレアンに、自分を満足させることなどできるのか」
と。
『私以外の女に触った手で触れられたくない』と拗ねて言っていた、可愛らしい彼女の言葉とは思えない台詞であった。
彼女の言葉に誠実であろう、父と母のような夫婦でありたいという気でいた我は、それ故に夜の指南もまだであった。
我は彼女の願い通り、指南役を受け入れることにした。
ヴァーミラの言葉に従う我は、彼等にとって都合の良い駒と見えたことだろう。
指南役は事前に月のものを確認され、その後厚い監視の元に置かれる。
薬を服用し、子を生すことなどないとわかっていても、そういう決まりであった。
褥に上がったのは、後に最初の妻となったシャルロッテだ。
指南役に選ばれることからもわかるように、生娘ではなかった。
初婚ではなく出戻りで、また身分も低かった。
本来であれば妃に据えることも叶わぬ末端貴族の娘であったが、元々の性格や前婚での苦労もあったのだろう。
その頃の我の、荒れた心を和ませる女性だった。側にいてくれると落ち着ける、そんな女性であった。
それ故に、彼女との間に父母と同じ愛を、子を望んだ我は一計を立てた。
そして生まれたのが王太子だ。
母の身分は低くとも、長子は長子。
我が国には代々遵守される、始祖王シンノスケの言葉がある。
国を平ける為にお家騒動は厳禁である
トクガワの永きの世にあやかり、必ず長子を跡取りに据えよ
いかに愚鈍な長子であっても、その治世を兄弟が側から支えよ
それに背いて王が立つと国護神の加護が得られず、その王の治世は荒れると言われている。
実際に何代かそういう時代があったそうだが、いずれも驚くほど短い治世となったと記されている。
故に、長子は長子。
女児であっても問題はなかったが、有難いことに生まれてきたのは男児であった。
それに異を唱えたのがベルフォンスであり、ヴァーミラであった。
身分の低い卑しい王などあり得ないと。
けれどそれは代々言い伝えられ、守られてきた王家の訓に勝るものではなかった。
通例通り長子長子はそのまま王太子となった。
その後、後継者問題に影を落とさぬように、気取られぬよう慎重に10年という年月を開けてヴァーミラとの間に1男を儲けると、我の興味はシャルロッテに留められることとなった。
ヴァーミラの妬みが、恨みが大きくなればシャルロッテに苦労をかける事態になると予想できても、我の心はヴァーミラに向くことはなかった。
王太子が生まれて15年。
シャルロッテに次の子が宿った。
誕生した我が子は、始祖王と同じ髪、同じ瞳、同じ属性を持つ神に愛された子供だった。
成長すればするほどその賢明さは現れ、また気質も温和。よく兄を支える弟となるだろうと胸を撫で下ろしたものだった。
その後2人目をとせっつかれ、ヴァーミラの間にもう1子儲けると、役目を果たしたとばかりに彼女を遠ざけた。
生まれた子は女児であった。
そして事件は起きた。
先に王太子王太子がシャルロッテと共にリキューリクの待つ部屋へと出向いた。
弟の10の生誕を祝うためにだ。
それは我が部屋から出るまでと、わずか5分間のズレであった。
身分の低い使用人の大半が金で買収されていた。
礼節をわきまえている使用人の家族が人質となっていた。
命よりも主人を優先する側仕えが呼び止められ、入室の遅れた僅かな時間。
側仕えが疑問に思うか思わぬかの、ほんの僅かな時間にそれは起きた。
王太子を守るため、毒杯とわかっていてリキューリクは口にしたのだ。
その我が子を守ろうと、シャルロッテは毒杯を奪い口にしたのだ。
そうして、王太子は生き延びた。
あの事件で、我は愛しい者2人を亡くすこととなった。
罰せられた者は真の犯人では無かった。
裏にはもっと大きな敵がいる。それがわかっていてもなお、その先を追求することは叶わなかった。
二妃側のやったという証も、とうとう見つからなかったのだ。
それからはベルフォンスとヴァーミラの息のかかった者たちを探し出し、密かに中央から排除することに腐心した。
2人が命をかけて守った王太子を、必ず守ろうと策を立てた。
王太子をすぐに結婚させ、次の後継者も生まれた。
これで第二王子が王位を継ぐことは難しくなったことだろう。
そっと、息をついた。
王太子を守る目処も立ち、次は民を困らせている事案の解決に本腰を入れることとなった。
そして出会ったサリスフィーナという子供。
とても美しい、けれど真の部分で貴族に屈しない不思議な子供は、我に幸運をもたらした。
死んだと思っていた我が子が生きていると知ったのだ。
神獣が言うのならば、それは事実なのであろう。
何より、我はそれを信じたい。
そして、2度と同じ過ちを繰り返してはならぬ。
悪いのは、リキューリクの生存を敵にも知られてしまったことだ。
領主を追い出す時に、アヤツも追い出すべきであった。
証拠は無くとも、我のあの時の違和感を、あの時の不信感を今こそ信じよう。
そして今度こそ守り抜くのだと、シャルロッテ、君に誓う。
☆☆☆
忘れもしないあの日。
私はかけがえのない母と弟を失った。
弟の待つ部屋へ足を踏み入れた直後、彼等はどこからか得物を取り出した。
その切っ先は全て私に向けられていた。
「さあ、勧んでその杯を呷りなさい。そうすれば母君と弟君は助かるかもしれませんよ」
差し出された杯は、明らかに毒杯だった。
異変を感じた側仕えが応援を呼びに走ったのが見えた。
常に側にいる護衛が、不自然に遠ざけられた場からこちらに寄る隙を探すのが見える。
何の刺激が彼らを衝動に突き動かすか分からず、皆慎重に辺りに気を配っていた。
父が来るまでの時間をなんとしても稼がねばならない。
だが、それは非常に難しい。
そんなことはわかっている。
そうこうしているうちに、アレは私を貫くために動くのだろうから。
動いたのはリキューリクだった。
ことを収拾するため毒杯を手に取り口にしたのだ。
「僕の祝いの場で起きた事であれば、僕が杯すのが筋でしょう」
と。
それを母が横から奪い取り飲み干した。
もうここに、私が飲める毒杯は、ない。
それどころか、予定外の出来事に、彼らにほんの僅かの動揺が走った。
その動揺は私の護衛が間に入る隙を充分に与えた。
誰が黒幕か、考えずとも分かる。
それでも母は彼女を責めなかった。
「元はと言えば私が相応しくない寵を得たのが悪かったのです。あの方も、寂しかったのでしょう」
望外の幸せでした、と。
結論から言うと、母は助からなかった。
毒杯はただの毒杯ではなかったため、ほんの僅か口に含んだだけのリキューリクも、完全に無事とはいかなかった。
その身に濃く呪いが残ってしまったのだ。
それでも命はあった。
リキューリクが生きていると、二妃に露見してはならない。
リキューリクを生まれた時から支えてきた乳母が、父にも隠れて弟と逃げ出すことを選択した。
その時の父があまりにもベルフォンスに近過ぎたためだ。
己を愚か者とし、私達を守ろうとしていたことは知っていても、父に全てを伝えることは良策ではなかった。
生きていてくれればいい。
生きていてくれれば、必ず、必ず探し出す。
私は乳母に、父と母から譲り受けていた婚礼の品を託した。
いずれ弟の、身を明かす証となるだろうと。
本来であれば死ぬはずだったのは王太子だ。
私だったのだ。
あれから5年。
二妃の息のかかった者たちは城から遠ざけられ、もういない。
二妃が自分の味方だと思っている者は、父と私の手の者達だ。
その日、ルイベル川を浄化したと思われる人物を呼び、アマデルウ川をも浄化したいと、協議の場を設けていた。
私は会議に参加できないが、民の負担が減るといい。そう考えていた時だった。
俄かに城内が騒がしくなった。
「ジャカルディク様、リキューリク様と思われる方が紅玉の間にいるようです。如何なされますか」
「ご自分が第三王子だとは知らないご様子です」
「陛下によく似た面差しで、始祖王の色をお持ちです」
「陛下の部屋にはベルフォンス様がいらっしゃるので、まだお耳に入れることができません」
入れ替わり立ち替わり、その報告は私に歓喜をもたらした。
そうか。
そうか、無事でいてくれたか。
ならば今度は私に守らせて欲しい。
勇敢で優しかった、愛しい私の弟よ。
「二妃に知られることなく、リキューリクを保護したい」
「はっ。お任せください」
足早に走り去った側近を見届け、けれども落ち着かぬ。
この5年。
お前はどう生きてきたのか。
幸せであったのか。
苦労はしていなかったか。
ああ、早くこの目で其方の無事を確かめたいものだ。
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