彼はやっぱり気づかない!

水場奨

文字の大きさ
41 / 55

41話 サスケがニンニン

しおりを挟む
今日は1人きりの休息日だ。
研究員と学生は休みの取り方が違うから、リク達と毎回休日が同じってことにはならない。

1人きりの休日で、そろそろモズラ団子が少なくなってきたなと、王領の森に出かけることにしたのだ。

モズラってな、団子にするとおやつになるけど、すって液状のまま薬師班に持っていくと、泣いて喜ばれるんだぞ。
おかげで試験も受けてない平民の子供でも受け入れられるようになって、居心地もよくなった。

俺に何かしたら薬師さんたちに薬の調合をしてもらえなくなるとか、騎士さん達が言ってた。
武芸に秀でてなくてもマウントって取れるんだぜ。すげーよ、薬師。
上納ワイロっていつの時代も効果絶大なんだなー。

「モズラやモズラ~、モズラさん~」
誰も採らないからめっちゃある~。
俺の手元に少なくなったってことは、従業員なかまのところも品薄になってるだろうしな。
今度たくさん作って届けよう~。

ふんふんるんるん木の根本と格闘している時だった。

ガキンッと金属音がして、誰かに抱き上げられた。

「兄貴!ケガはないっすか?!」
「お、おう、サスケか。おかげで無事だぞ」

おうふ。
スネークジャーキーさんが真っ二つじゃないですかー。
スネークジャーキーってな、胴体の太さが直径30センチはある巨大蛇でな、めっちゃ美味いの。
ただしグルグルに巻きつかれたら、普通の人だと10秒で死んじゃうんだよな。
一瞬でバッキバキに骨とか折れるから。

あれだけシフォンに扱かれたにもかかわらず、未だに魔物の気配を感じ取れない俺は、ファーストコンタクトだけがやばい。
気づいちまえば大抵なんとかなるけど、フェイントくらったらやばい。さすがに無傷ってわけにはいかないだろう。
だから心配したシフォンが、普段の生活に支障が出ないよう致命的な攻撃だけを弾いてくれる結界を張ってくれることになったんだけどな。

そんな俺を片腕で担ぎ上げて危険を回避したのは、黒装束に身を包んだサスケだ。

ただし、
「兄貴、スネークジャーキーは基本8匹で行動するんで!」
ですよねー!!

サスケが右に飛ぶなら、俺は左に。
口を大きく開けて飛びかかってくるスネークさんの頭をピンポイントで蹴り上げると、首から捻り切った。
「うわ!」
頭落としても、身体は動くのかよ!

「兄貴!刃物持ってねえんすか?!」
「あるけど出してる余裕がねえ!!手でぶち切るから問題ない!」
「……そういう人でしたね!そういえば!」

跳ね上がる個体を押さえつけると、すかさずサスケの刀が斬りつける。
俺が押さえて、サスケが斬るのいいかもしれない。
サスケを見ると、サスケが頷いた。

うし、やるか。

複数で飛びかかってきても、俺の結界は硬いからな。簡単に折れたりしねえんだよ、残念だったな!
「兄貴!!」
「大丈夫だ!このまま押さえるから、サスケ、斬れ!!」
「は、はい!」
だが、スネークジャーキーは身体をすぐに俺に巻きつけることで、斬りつけやすい場所をなくしてしまった。
サスケは万が一にも俺に傷をつけたくないんだろう。
サスケの剣が迷った。傷は負わせられても、致命傷にはならない。
迷った剣で簡単に斬れるほど弱い敵じゃないのだ。

くねくねとのたうつ身体が俺を締め上げようとして絡みだした。
もうこれはちぎった方が早いかもしんねえな……って!
「サスケ!うしろ!!」
俺が押さえている3匹の他に、1匹隠れていたようだ。
それなのに、俺の方のスネークジャーキーを優先しようとするサスケ。

「ばか!俺は大丈夫だっつうの!」
こんなところで、俺の目の前で、仲間がやられるのを見てられるか!
「ぐっうぅぅうう!!」
くそっ、さすが3匹一緒は硬ぇ!
口を開けたスネークジャーキーがサスケに喰いつく。俺と違って、サスケは絡まれたら終わりなのに!!

ぶちりとスネークジャーキーが千切れるのとサスケが巻き込まれるのが同時だった。
「サスケ!!」
間に合わない!
どうしよう、どうしたらいい?
仲間が、サスケが傷つくのを、見たくないっ。
「バカ!!逃げろ!!」
俺のことなんか、放っておいてくれ!!
「うわあぁぁ、やめろぉお!サスケぇえ!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

ああ、違う。諦めるな、俺。
骨がバキバキに折れていても、生きてさえいれば助けられるだろう?
俺なら、やれる、だろう?

ぐるりと巻くスネークジャーキーの動きが、スローモーションで見える。
動け、俺。
まだ、終わって、ない、ぞ。
今なら、まだ。

足を踏み出した瞬間、大きくなった異様な圧力に瞬きすると、サスケに喰いついていたスネークジャーキーが吹き飛んだ。

『なんと情けない顔をしておるのだ、サフィよ。我は其方の身だけでなく、心を守るためにも動くのだぞ。もっと気安く呼び寄せよ』
「……ふっ、うっ、シフォン」
なんでか視界が揺らぐ。
ポタポタと落ちる滴で身体の力が抜けた。

ありがとう、シフォン。
言葉にならなくても、シフォンには伝わる、と、知ってる。

「サスケがっ、死んじゃうかと、思った」

『お主は本当に……自分のことももう少し大切にせよ』
顔をベロリと舐められて、返り血が凄いことになっているのを知る。
俺もサスケもシフォンも。
『浄化』

「兄貴、すみません!兄貴の玉の肌に傷でもつけたらどうしようかと思って、一瞬の判断ミスでこんなことに……」
おい、玉の肌ってなんだ。そんなんで、お前死ぬとこだったんだぞ。
それに戦闘で負った傷なら、男の勲章だろうが。

『サスケとやら』
「ひっ!はひっ!」
『サフィを守らんとする、その心意気はよし。だがサフィは我が守護する故、お主も自分の身を大切にせよ。其方らに何か有ればサフィが泣くのだぞ』
「……はい。兄貴ぃ。ぐすっ」
なんでかサスケまで泣いた。

『まあ、良い。サフィ、次はもっと早く我を思い出せ。頼ってもらえねば寂しいであろう』
「うん」
いいのかな。そんなことで頼っても。
『どれ。クゥの土産にひとつ貰っていくとするか。我は基本、人の世にはかかわらぬ。影響が大きすぎるからの』
それなのに、来てくれるんだもんな。
サスケを助けてくれて、ありがとう。

「シフォン、ありがとうな。次はもっと早く呼ぶ」
《そうせよ》
クフと鼻を鳴らすと、スネークジャーキーの胴を咥えて消えてしまった。

「さすが兄貴っすね」
少し茫然としながら呟いたサスケに苦笑いだ。
「ああ、シフォンはビアイラの森の神獣様なんだよ。俺に力を分けてくれた、な。俺がすごいんじゃなくて、シフォンがすげえの。わかっただろ?」
気づいただろ?俺の姿なんかハリボテの幻想だって。

「なに言ってるんすか!すごいのは兄貴っすよ!力があって権力があって血統もよくて……そんなヤツいっぱいいるけど、こんな俺たちみたいのに手を差し出してくれるの、兄貴ぐらいなんすっから!すごいのは兄貴っす!」
「お、おう、そうか。ありがとう」
な、なんか照れる。

あー別の話題、別の話題。

「あー、皆、変わりはないか?」
「はい。皆元気にしてるっすよ。兄貴と同じようにはいかないっすけど、今年の田畑も順調っす」
「そうか」
あー、今年はたくさんできるかなあ。
ちょっとは備蓄したいのが本音だ。

「兄貴」
「ん?」
「兄貴のおかげで、生まれたばかりの乳児までが市民権を取れたでしょう?」
「おう」
そういやそうだったな。
王様が約束守ってくれたんだよな。
「それで、中洲内の他の町の住人からも感謝がたくさん届いてるんすよ。さすが兄貴っすね。兄貴が崇められるの、気持ちいいっす。帰ってきたら驚くっすよ」

「はあ?」
なにそれ、怖い。崇めるって何?

「それでですね、どうしてもお礼をしたいって言うんで、交代交代で、新しい家を建ててもらってるっす。もうすぐ兄貴の豪邸が完成するんで、楽しみにしててください」
豪邸?新しく建ててるってこと?
「働いてくれてる人の報酬とかどうなってんの?」
お前ら無理してないか?いろいろ足りてるのか?

「あ、それは大丈夫っす。なんか帰りに大浴場でひと風呂浴びるのがご褒美みたいになってるっすよ。みんな暇のある時に少しずつって感じですから」
ならいいけどさ。

「一般の人も風呂に浸かりに来るようになったんすけど、ダボスがそれ仕事にならないかってカランさんに相談して、金を取るようになりました」
そういえば、カランが言ってたな。
こいつらに収入があるのはいいことだと思って、許可した記憶がある。

「木造棟を開放して宿泊するのも含めて、宿泊事業も始まったっす。現金の収益が出るようになりました」
そりゃあよかった。
お前らが俺の力を借りなくても、いずれ自立して生活できるようになるのが目標だからな。

「で、兄貴に頼みがあるんすけど、特産物としてモズラ団子を出してんっす。そろそろ在庫がなくなるから、兄貴に加工してもらいたいと思って、いっぱい集めてきたんで」

「わかった。今日俺休みだから、すぐに加工するし持って帰ってくれ」
「はい!」

ちゃんと稼いで、普通の生活ができるようになって、それではじめて自分に自信ってつくもんだ。
仲間が生き生きとしてたら嬉しい。
無条件で俺を受け入れてくれるの、お前らぐらいなんだからな。

楽しそうに生活してる話を聞いて、長期休暇には帰ろうと思う俺だった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

コスプレ令息 王子を養う

kozzy
BL
レイヤーとしてそれなりに人気度のあった前世の僕。あるイベント事故で圧死したはずの僕は、何故かファンタジー世界のご令息になっていた。それもたった今断罪され婚約解消されたばかりの! 僕に課された罰はどこかの国からやってきたある亡命貴公子と結婚すること。 けど話を聞いたらワケアリで… 気の毒に…と思えばこりゃ大変。生活能力皆無のこの男…どうすりゃいいの? なら僕がガンバルしかないでしょ!といっても僕に出来るのなんてコスプレだけだけど? 結婚から始まった訳アリの二人がゆっくり愛情を育むお話です。

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜

亜沙美多郎
BL
 前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。  この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。  その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。  騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。  中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。  茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。  転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。  それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。  リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。  Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。  リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。  いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。 しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。 エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。 弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。 お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。 ♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡ ※独自のオメガバース設定があります。 ※予告なく性描写が入ります。

魔王の事情と贄の思惑

みぃ
BL
生まれてからずっと家族に顧みられず、虐げられていたヴィンは六才になると贄として魔族に差し出される。絶望すら感じない諦めの中で、美しい魔王に拾われたことですべてが変わった。両親からは与えられなかったものすべてを魔王とその側近たちから与えられ、魔力の多さで優秀な魔術師に育つ。どこかに、情緒を置き去りにして。 そして、本当に望むものにヴィンが気付いたとき、停滞していたものが動き出す。 とても簡単に言えば、成長した養い子に振り回される魔王の話。

処理中です...