彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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42話 苦節10年……?

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あの日、俺が転玉を爆買いして帰ると『その手があったか!』と沸いた魔術部3班は、現在、死屍累々の戦場と化しています。
失敗して飛び散ったガラス(?)破片のせいで、足の踏み場もありません。

本当ごめん!
本当ごめんて!!

今まで予算の都合で実験を我慢してきたのだ。
机上で理論をこねくり回し、全員が納得いってはじめて実行できたのだ。
そこに目から鱗のやり方で試行錯誤し放題ってことに気がついた魔術師達が、テンション上げ上げになっちまった。

「わっ!わわ!術式にヒビ入った!ヤバい暴発する」
「逃げろ!!」
あー、騒がしい。

もう慣れたもんで、そんな声が部屋のどこからか聞こえれば、みんな一斉に着ていたローブを頭から被り、直接破片が当たるのを防ぐのもお手の物になった。

まあ、仮に破片が飛んで怪我をしても、ここに治癒できるおれがいるから、余計手加減しないで実験するっていう……。
俺のせいでもあるから、ちゃんと治癒してやるけどさ。

「やっぱ転玉は魔力の許容含有量が少ないからなあ。術式の少しの歪さも許されないって感じだな」
いつもより神経を使ってやる作業に、現場では愚痴も溢れるようになっている。
「まあ、そういうな。合ってるかどうかもわからない術式を、ひたすら紙に書いてるよりは意味があるだろう?」
「そうだぞ。転玉の時点で発動するものが出来れば、完璧に浄化できるものができあがるしな」
「そうですよね。実験すらできなかった頃を忘れていました」
彼らはすぐに気合を入れ直して、実験に戻っていった。

その間、俺は何してるのかって?
俺には新しい術式開発の手伝いなんかできないからな。
ちゃんと部屋の掃除をして暇つぶししているぞ。

割れた転玉をホウキでこう集めてな、バケツみたいなところにザラーと入れるんだ。
多分これを業者に持っていけば、焼き直して新しい転玉にしてくれるだろうけど、その場合、業者さんの気分はいいものだろうか?

『楽しく遊んでくれると思って作ったのに、何割ってくれてんの?ねえ?ねえ?ねえ?』
ってならねえ?この量だと。
掃除してんの俺で、買いに行ってるの俺なら、これを持ってくのも俺になるだろ?
だって暇人、俺だけだし。

これ、また元に戻すのってできねえのかなあ。
ビー玉って、熱く熱した溶けたガラスを一定の大きさに切って溝みたいなとこを転がすんだったっけ?
小学校で物の作り方ってビデオで見た気がする。
まあ、これがガラスならだけど。
半球の型に流し込んでくっつけるのはガラスじゃなかったような。
うーん。型つくるの面倒だし、ひとまず転がしてみるか。

手の平の上にひと掴みの割れガラスをのせて熱を加えていく。
「何やってんだ?」
「これ1回溶かして作り直せないかなって思って」
「ふーん。相変わらず変なことしか考えないよね、サリス君って」
「うっせえぞ、ショッテル。って、うわぁちっ!!」
溶けてきたら、あっちいわ!
そういや、自分で出した炎とかは熱くないけど、それによって燃えた物は熱いんだった。
範囲が狭過ぎてシフォンの結界も発動しなかったか。

「熱を加えて溶かしたら熱くなるに決まってるじゃん。先に対策しておかないとか、バカなんじゃない?」
「だから、うるせえって」
ぐうう、痛熱い。落としたら火事になっちまうぅ。あああ、づらいぃ。まずは冷やすか。
火傷は後で治せばいいし……って?

「仕方ないなあ、もう、手がかかるんだから。どう?熱くない?」
「お、おう。熱くなくなった。ありがとな、ショッテル」
ちち、治れ~。
マジで助かったああ!!
にっこり笑って特大の感謝を伝えると、ショッテル君が真っ赤になった。
結界の熱がショッテル君に吸収されてるとかじゃねえよな?

「サ、サリス君は結界苦手だもんね!そ、そういう時は言ってくれても、い、いいぞ」
熱くないんだな?うん、大丈夫っぽいかな。
「ありがとな、ショッテル。それなら次から頼むわ」
「ま、任せとけ!」

んで、この溶けたのをどうしようか。
風で浮かせて回したら丸くなるか?
長い溝なんてこの部屋にないし。

まずはいい大きさに『切断』。『浮遊』で浮かせて『回転』。
おお、丸くなってきたじゃん。あ、でも熱いし危ないな。
『遮断』で外に熱を漏らさないようにしてっと。

どうだ?

「お、できたじゃん」
やっぱ風属性の魔法は使いやすいなー。

「はあ、サリス君てなんでもありだよね。知ってたけど」
「いや、誰でもできるから。魔力と属性があれば」
俺が変わってるみたいに言うんじゃねえよ。
変わってるのはショッテルの方だと思うぞ。
小さくて可愛いのに、ゴリ所長とか筋肉班長とかと腕力で勝てると思ってるからな。
俺に対抗しようとするショッテル君、可愛いだろ。

因みに俺が2人に勝てるのはシフォンのおかげだ。
「できないからな。まず廃棄転玉を復活させるとか普通は考えないからね……お前の発想が変わってるっつうの」

あ、所長がこっちに気づいた。
所長、俺とショッテルが喋ってるとすぐ来るもんな。絶対サボってると思ってるだろ。
俺たち別にサボってないぞー。
まあ、ショッテルと話したりするの、めっちゃ楽しいけど。

「いや、少しでも出費を抑えられたらな、とか思って思い付いた、的な?えへへ」
ってことにしておこう。な、所長さん!
「なるほど、サリス君は経費を浮かせようとしてくれたのか。素晴らしいね!$」
あ、うん。
わかりやすいよねー、所長さんって。

「ところでサリス君、術式が完成したからね、君も術式を入れてみようか。そろそろ新しい仕事こともやってみたいでしょう?」
「う、はーい」
目が、怖えぇ。選択肢ないやつじゃん。
まあ、金貰ってるお仕事だからやるけどな。

しかし、教えられた通りに線を彫っていくんだが、一定の深さで彫るの難しくね?
細かいとこなんて、すぐに割れちゃうんだけど。
俺、無理じゃね?
せっかく作り直した転玉が、全て元に戻る勢いだ。
転玉で成功率が上がってから、魔石で本番だぞ?

俺には無理っぽ。

転玉なら自分でまた1から作り直せばいいけど、魔石なんか割れたら終わりだろ。いつまで経ってもできるようになる気がしない。

これってさあ、アレ使えないのかなあ。
コピー機能。
模様を記憶してそのままを貼り付けるヤツ。
アレできたらさ、指先の器用さとか集中力とかいらなくね?

うん、やるだけやってみるか。俺の場合、彫るより可能性ある気がする。

むむむ、こうか?発動しねえな。
こうかな?あ、なんかちょっとだけ発動したぞ?
転玉に小さい模様がついてる。ところどころ線が切れちまってるけど。
んー、光属性が引きずられてる……か?
なるほど、光属性な。レーザー光線的なの出したらいけるってことか?
あ、頭に新しい術式が浮かんできた。
てことは、これが新しく獲得した魔法ってことだな。
こんなにはっきりと新しい魔法ができたってわかったの、はじめてだ。

うし、『転写』!

お、おお、できた。

思ってたのとちょっと違うけどできたぞ。
「サリス君、なにやってんの?」
所長さん、まだそこにいたのかよ。
「新しいやり方を開発してました。でもちょっと違う感じになっちゃって、はは」

「どれどれ……これどうやったの?」
「外に刻むんじゃなくて、中に?」
そうなんだ。
普通は玉の表面に模様を削っていくんだけど、なんかレーザーでガラスの中に模様を入れるヤツみたいな感じになった。

「ふむ。変わってはいるが、術式は術式だ。発動するか、試してみよう」

所長がそれを持って部屋から出ると、城内に湧き出ている瘴気に向かって投げつけた。
いつもふわっと薄くなる瘴気が、ジュワッと消えた。

「…………すっげえ発動したな」
所長さん、小さく呟いた。

「この方法で発動したなら、刻む速度が上がりますね。所長、光属性持ってて、魔力量多い人って誰かいますか?」
「ああ、それならショッテル辺りがそうだと思うが……」
んー、所長早く正気に戻ってくれ。まだ、瘴気のあった場所を見てる。
まあいいか。
所長さんの指名は聞いたもんな。

「ショッテル~」
「なんだよ」
「ちょっとかがんで」
「こうか?」
「ん。我サリスフィーナ ミニマム、ショッテル カモネギに『転写』能力を譲渡する」
で額に口付けっと。

「な、な、な、な、な!お、おまっ、ひ、人前で口付けなど!は、恥じらいというものはないのか!」
ん?なんで恥じらい?
なんで?
ま、いいか。
「これでショッテルもバンバン『転写』できるようになったぞ。頑張れよ!」


こうして、転玉の浄化玉が(ショッテルによって)量産されることになった。

ここまで来るのに苦節10年(うそ、10カ月)涙無しでは語れねえぜ……。
俺、ほぼやってない気がするけど。

けどな、成果が目に見えて出るって素晴らしいな!!

前世の仕事場では決して得られなかった達成感だ。
所長と班長からも褒められたし!
わかんないけど、役に立てたに違いない。
魔石で作ったものよりも耐久性に劣るってだけで、転玉の浄化玉も2、3回用として使用できることもわかったしな。
そのあと割れちゃうから、近くにいる人に破片が刺さって危険って感じではあるけどな。

でもこれで一気に浄化も進むだろう……と思ってたんだけどなー。



ーーーーーーーーーー

所長さんはショッテル君♡なのでサフィと仲良くしていると邪魔しにきます
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