彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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41話 サスケがニンニン

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今日は1人きりの休息日だ。
研究員と学生は休みの取り方が違うから、リク達と毎回休日が同じってことにはならない。

1人きりの休日で、そろそろモズラ団子が少なくなってきたなと、王領の森に出かけることにしたのだ。

モズラってな、団子にするとおやつになるけど、すって液状のまま薬師班に持っていくと、泣いて喜ばれるんだぞ。
おかげで試験も受けてない平民の子供でも受け入れられるようになって、居心地もよくなった。

俺に何かしたら薬師さんたちに薬の調合をしてもらえなくなるとか、騎士さん達が言ってた。
武芸に秀でてなくてもマウントって取れるんだぜ。すげーよ、薬師。
上納ワイロっていつの時代も効果絶大なんだなー。

「モズラやモズラ~、モズラさん~」
誰も採らないからめっちゃある~。
俺の手元に少なくなったってことは、従業員なかまのところも品薄になってるだろうしな。
今度たくさん作って届けよう~。

ふんふんるんるん木の根本と格闘している時だった。

ガキンッと金属音がして、誰かに抱き上げられた。

「兄貴!ケガはないっすか?!」
「お、おう、サスケか。おかげで無事だぞ」

おうふ。
スネークジャーキーさんが真っ二つじゃないですかー。
スネークジャーキーってな、胴体の太さが直径30センチはある巨大蛇でな、めっちゃ美味いの。
ただしグルグルに巻きつかれたら、普通の人だと10秒で死んじゃうんだよな。
一瞬でバッキバキに骨とか折れるから。

あれだけシフォンに扱かれたにもかかわらず、未だに魔物の気配を感じ取れない俺は、ファーストコンタクトだけがやばい。
気づいちまえば大抵なんとかなるけど、フェイントくらったらやばい。さすがに無傷ってわけにはいかないだろう。
だから心配したシフォンが、普段の生活に支障が出ないよう致命的な攻撃だけを弾いてくれる結界を張ってくれることになったんだけどな。

そんな俺を片腕で担ぎ上げて危険を回避したのは、黒装束に身を包んだサスケだ。

ただし、
「兄貴、スネークジャーキーは基本8匹で行動するんで!」
ですよねー!!

サスケが右に飛ぶなら、俺は左に。
口を大きく開けて飛びかかってくるスネークさんの頭をピンポイントで蹴り上げると、首から捻り切った。
「うわ!」
頭落としても、身体は動くのかよ!

「兄貴!刃物持ってねえんすか?!」
「あるけど出してる余裕がねえ!!手でぶち切るから問題ない!」
「……そういう人でしたね!そういえば!」

跳ね上がる個体を押さえつけると、すかさずサスケの刀が斬りつける。
俺が押さえて、サスケが斬るのいいかもしれない。
サスケを見ると、サスケが頷いた。

うし、やるか。

複数で飛びかかってきても、俺の結界は硬いからな。簡単に折れたりしねえんだよ、残念だったな!
「兄貴!!」
「大丈夫だ!このまま押さえるから、サスケ、斬れ!!」
「は、はい!」
だが、スネークジャーキーは身体をすぐに俺に巻きつけることで、斬りつけやすい場所をなくしてしまった。
サスケは万が一にも俺に傷をつけたくないんだろう。
サスケの剣が迷った。傷は負わせられても、致命傷にはならない。
迷った剣で簡単に斬れるほど弱い敵じゃないのだ。

くねくねとのたうつ身体が俺を締め上げようとして絡みだした。
もうこれはちぎった方が早いかもしんねえな……って!
「サスケ!うしろ!!」
俺が押さえている3匹の他に、1匹隠れていたようだ。
それなのに、俺の方のスネークジャーキーを優先しようとするサスケ。

「ばか!俺は大丈夫だっつうの!」
こんなところで、俺の目の前で、仲間がやられるのを見てられるか!
「ぐっうぅぅうう!!」
くそっ、さすが3匹一緒は硬ぇ!
口を開けたスネークジャーキーがサスケに喰いつく。俺と違って、サスケは絡まれたら終わりなのに!!

ぶちりとスネークジャーキーが千切れるのとサスケが巻き込まれるのが同時だった。
「サスケ!!」
間に合わない!
どうしよう、どうしたらいい?
仲間が、サスケが傷つくのを、見たくないっ。
「バカ!!逃げろ!!」
俺のことなんか、放っておいてくれ!!
「うわあぁぁ、やめろぉお!サスケぇえ!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

ああ、違う。諦めるな、俺。
骨がバキバキに折れていても、生きてさえいれば助けられるだろう?
俺なら、やれる、だろう?

ぐるりと巻くスネークジャーキーの動きが、スローモーションで見える。
動け、俺。
まだ、終わって、ない、ぞ。
今なら、まだ。

足を踏み出した瞬間、大きくなった異様な圧力に瞬きすると、サスケに喰いついていたスネークジャーキーが吹き飛んだ。

『なんと情けない顔をしておるのだ、サフィよ。我は其方の身だけでなく、心を守るためにも動くのだぞ。もっと気安く呼び寄せよ』
「……ふっ、うっ、シフォン」
なんでか視界が揺らぐ。
ポタポタと落ちる滴で身体の力が抜けた。

ありがとう、シフォン。
言葉にならなくても、シフォンには伝わる、と、知ってる。

「サスケがっ、死んじゃうかと、思った」

『お主は本当に……自分のことももう少し大切にせよ』
顔をベロリと舐められて、返り血が凄いことになっているのを知る。
俺もサスケもシフォンも。
『浄化』

「兄貴、すみません!兄貴の玉の肌に傷でもつけたらどうしようかと思って、一瞬の判断ミスでこんなことに……」
おい、玉の肌ってなんだ。そんなんで、お前死ぬとこだったんだぞ。
それに戦闘で負った傷なら、男の勲章だろうが。

『サスケとやら』
「ひっ!はひっ!」
『サフィを守らんとする、その心意気はよし。だがサフィは我が守護する故、お主も自分の身を大切にせよ。其方らに何か有ればサフィが泣くのだぞ』
「……はい。兄貴ぃ。ぐすっ」
なんでかサスケまで泣いた。

『まあ、良い。サフィ、次はもっと早く我を思い出せ。頼ってもらえねば寂しいであろう』
「うん」
いいのかな。そんなことで頼っても。
『どれ。クゥの土産にひとつ貰っていくとするか。我は基本、人の世にはかかわらぬ。影響が大きすぎるからの』
それなのに、来てくれるんだもんな。
サスケを助けてくれて、ありがとう。

「シフォン、ありがとうな。次はもっと早く呼ぶ」
《そうせよ》
クフと鼻を鳴らすと、スネークジャーキーの胴を咥えて消えてしまった。

「さすが兄貴っすね」
少し茫然としながら呟いたサスケに苦笑いだ。
「ああ、シフォンはビアイラの森の神獣様なんだよ。俺に力を分けてくれた、な。俺がすごいんじゃなくて、シフォンがすげえの。わかっただろ?」
気づいただろ?俺の姿なんかハリボテの幻想だって。

「なに言ってるんすか!すごいのは兄貴っすよ!力があって権力があって血統もよくて……そんなヤツいっぱいいるけど、こんな俺たちみたいのに手を差し出してくれるの、兄貴ぐらいなんすっから!すごいのは兄貴っす!」
「お、おう、そうか。ありがとう」
な、なんか照れる。

あー別の話題、別の話題。

「あー、皆、変わりはないか?」
「はい。皆元気にしてるっすよ。兄貴と同じようにはいかないっすけど、今年の田畑も順調っす」
「そうか」
あー、今年はたくさんできるかなあ。
ちょっとは備蓄したいのが本音だ。

「兄貴」
「ん?」
「兄貴のおかげで、生まれたばかりの乳児までが市民権を取れたでしょう?」
「おう」
そういやそうだったな。
王様が約束守ってくれたんだよな。
「それで、中洲内の他の町の住人からも感謝がたくさん届いてるんすよ。さすが兄貴っすね。兄貴が崇められるの、気持ちいいっす。帰ってきたら驚くっすよ」

「はあ?」
なにそれ、怖い。崇めるって何?

「それでですね、どうしてもお礼をしたいって言うんで、交代交代で、新しい家を建ててもらってるっす。もうすぐ兄貴の豪邸が完成するんで、楽しみにしててください」
豪邸?新しく建ててるってこと?
「働いてくれてる人の報酬とかどうなってんの?」
お前ら無理してないか?いろいろ足りてるのか?

「あ、それは大丈夫っす。なんか帰りに大浴場でひと風呂浴びるのがご褒美みたいになってるっすよ。みんな暇のある時に少しずつって感じですから」
ならいいけどさ。

「一般の人も風呂に浸かりに来るようになったんすけど、ダボスがそれ仕事にならないかってカランさんに相談して、金を取るようになりました」
そういえば、カランが言ってたな。
こいつらに収入があるのはいいことだと思って、許可した記憶がある。

「木造棟を開放して宿泊するのも含めて、宿泊事業も始まったっす。現金の収益が出るようになりました」
そりゃあよかった。
お前らが俺の力を借りなくても、いずれ自立して生活できるようになるのが目標だからな。

「で、兄貴に頼みがあるんすけど、特産物としてモズラ団子を出してんっす。そろそろ在庫がなくなるから、兄貴に加工してもらいたいと思って、いっぱい集めてきたんで」

「わかった。今日俺休みだから、すぐに加工するし持って帰ってくれ」
「はい!」

ちゃんと稼いで、普通の生活ができるようになって、それではじめて自分に自信ってつくもんだ。
仲間が生き生きとしてたら嬉しい。
無条件で俺を受け入れてくれるの、お前らぐらいなんだからな。

楽しそうに生活してる話を聞いて、長期休暇には帰ろうと思う俺だった。
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