拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

文字の大きさ
68 / 80

29-3.

しおりを挟む



 白い夜着は、はじめて彼女を抱いた夜にも着ていた。それだけで、心臓が嫌な音を立てる。彼女の覚悟を感じて。
 
「おいで」
 
 動揺を悟らせないために、いつものように自分の隣をぽんぽんと叩くと、リナリアは素直にベッドに乗り上げた。彼女はそのまま上半身を前に倒すと、フィグルドに触れるだけの口づけを落とす。

 触れ合わせるだけで離れて、恥じらいながら自分の真横でちょこんと正座したリナリアに、フィグルドは口元にかすかに笑みを浮かべると、その大きく無骨な手のひらをその柔らかい頬に添えた。

 読んでいた本をサイドボードに置くと、空いた手をリナリアの腰にまわして引き寄せ、口づけを交わす。触れるだけではなく、啄むものから、時折深く貪るようなものまで。

 今までも、時折深いキスも交わしていた。けれど、止まれなくなるから、とフィグルドからすることは少なかった。けれどこうやって、リナリアからのキスは、もっとしてほしいの二人だけの秘密の合図だ。

 久しぶりに交わす情欲を孕んだ口づけは、互いの体温を簡単に上げてくれる。静かな寝室に、唾液を交換するくちゅくちゅとした水音が響く。

 一度顔を離すと、二人の唇を銀糸が繋ぐ。

リナリアは少しフィグルドから身体を離すと、膝立ちになり、お気に入りの白い夜着の裾をするすると持ち上げると、自分のヘソが見える高さまでめくりあげた。

「……っ」
 
こくり、とフィグルドが息を飲み込み、喉仏が上下する。

 リナリアは下肢に何も身に着けておらず、寝室のオレンジ色の灯りが、彼女の滑らかな下半身を照らし出す。

 あまりにも挑発的で煽情的な姿に、フィグルドは自分の血流が一気に下半身へ集まるのを感じた。だが、ここで欲望に負けて彼女を抱いてしまっては、また同じことの繰り返しだ。
 
 彼女の覚悟と献身に、応えたい
 彼女の力を行使させず、この難局を乗り越えてみせる
 
フィグルドは素早くリナリアの腕を掴むと引き寄せてその体勢を崩させた。重心がずれて自分の胸に倒れ込んできたリナリアの腰をあげさせると、隠し持っていた黒うさぎのパンツを履かせた。
 
「……フィグ?」
 
リナリアが焦ったような表情になるが、気づかないふりして、そのまま自分の腕の中に閉じこめるように抱きしめる。
 
「すまない、リナ。ひどく眠いんだ……」
 
ちゅ、とリナリアの額に軽く唇を落とす。

 リナリアからの誘いを断りたくなんてなかったが、それが彼女との別れとなるなら、我慢など造作もなかった。

宣言するやいなや、瞼を閉じたフィグルドに、リナリアが戸惑いの声をあげる。
 
「……え?嘘……もう寝たの?フィグってば……」

 鍛えた鉄の精神で寝たふりを続けると、やがて、リナリアは小さなため息をついて、「まだ明日があるよね……」と呟いた。

 明日は、フィグルドの仕事が休みの日だ。休みの日は二人きりでゆっくり過ごすのが習慣化しているので、おそらくリナリアは明日まだ無の力を行使するチャンスがあると思っているのだろう。

 手記に書かれていた助けを求めに隣の主人がきた時間は通常ならフィグルドがまだ帰宅前の夕方くらいだった。つまり、そこまでに決着をつけるつもりなのだ。

 彼女が必死になるほど、予知夢に対する強い覚悟を感じて胸が引き絞られる。そこまでリナリアを追い詰めたのは、他ならない自分だからこそ。

 彼女の手記で起きる危険について具体的な出来事を知ったから、回避できるのではないかと頭を掠めるが、そんなに簡単なものであれば彼女は能力の行使を決意したりしない。

 つまり、覆すことが簡単ではない運命ということだ。聖女として一緒に旅をしていた時、彼女は回避が可能な予知夢に関してはきちんと自分達に共有してくれていた。だが、「無の力」を使わざるを得ないような予知夢に関しては、言わないか、言っても一部の情報しか伝えてこなかった。

 おそらく、彼女は予知夢を見ると同時に、数多くのその未来に至るパターンも同時に見ているのだろう。その中で、成功の道筋があれば、回避できる未来と結論づけて、話すか話さないかを決めていた。

 つまり、「無の力」を使うと決めた予知夢には、回避の未来が見えなかったということだ。

 これをどう覆すべきか……

明日のために対策を練りたいのに、未だ諦めずにもぞもぞとフィグルドの身体を弄ってくる可愛い誘惑に耐える。
 
 ……これ、明日も耐えるのか……耐えられるのか……?

自分の忍耐力に訴えるように、その夜は更けたのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】 二年契約の婚約者がグイグイ迫ってきます

紬あおい
恋愛
巷で流行りの言葉「俺は君を愛さない。」 そう言ったのはあなた。 冷たい態度が一夜で豹変し、溺愛モードに突入。 選択肢が 0か100 しかない極端な公爵様と、実家を守りたい伯爵令嬢の恋物語。

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

処理中です...