過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと

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episode.18

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その日、ソフィアの元を訪ねて来た患者のうち、5人は少し変わった症状に悩まされていた。

皮膚の爛れと、腹痛、嘔吐、下痢。息苦しさもあると言う人は喉も少し腫れている様だった。

何かのアレルギーの様にも思うが、5人とも、今までこんな風になった事は無いと言う。

「なんだろう…」

原因が分からないソフィアに出来る事は、炎症止めの塗り薬と整腸剤を出すくらいしか出来なかった。

「みんなガルブの端っこに住んでるのは偶然なのか?」

「………分からない」

5人とも居住地がガルブ区画の端で、隣のエント地区との境付近。ソフィアの薬屋からも少し遠く、言ってしまえばエントの薬師を訪ねた方が早いかもしれない。

症状は全身に表れている人もいれば、顔に集中している人もいた。

リディオがソフィアの元を訪ねて来たのは、それから3日が経った日だった。

「リッ…リディオさん…」

「邪魔するぞ」

「あ、は、はい…どうぞ………」

リディオの様子はいつもと変わらず、ドギマギしているのはソフィアだけだった。いかんせん会うのはあの野営の日以来で、ソフィアは先生にも相談したあの出来事の答えがまだ出ていない。

だと言うのにリディオの態度といえば、まるであの夜の事は無かったかの様に素っ気ない。

「きょっ、今日はお休みですか?」

「少し忙しくてな。午前は仕事をしていた」

「…そう、ですか。大変ですね」

「お前の方が、まともな休みは無いだろう」

「……………はは」

カストが来て楽になったとは言え、まだまだソフィアの負担は多い。休みなど無いブラック企業に違いない。

カストにはもちろん終日の休日を多めにあげている。カストがいない日に限って、やたらと人が訪ねて来たりするから不思議なものだ。

「よおリディオさん!この前は楽しかったな!またやろうぜ」

「そうだな」

カストと話しながら、リディオが慣れた足取りで薬屋の奥の部屋に入って行こうとしてソフィアの横を通り過ぎた時、リディオの顔を見られなくて俯いていたソフィアにはあるものが目に映った。

「リディオさん!」

急に呼び止められたリディオは驚きつつも、表情は変えずに振り返った。

「その手…どうしたんですか?」

いつにも増して神妙な面持ちのソフィアの視線は、リディオの赤く火傷の様に荒れた手を映していた。

リディオは隠すつもりがない様で話し始めた。

「エント地区で原因不明の病が流行り始めている。正確に言えば、まだ病とも言い切れない。人から人への感染は確認されておらず、どうしたらこの症状が現れるのかも分からない。調査のため、昨日昼にエントを訪れて、夕方にはこうなった。他の症状は無い」

「……エント」

「何か、心当たりがあるのか?」

3日前の患者には1つだけ共通点があった。住んでいるのがエント地区との境界付近だと言う事だ。症状も限りなくリディオと似ている。

「3日前に、似た症状の患者が5人来ました。みんな、居住地がエント付近です」

ぐっと、リディオの眉間に深い皺が刻まれた。

「……既にガルブにも広まっていると言うことか?」

「分かりません。あの日以降、そう言った患者は来ていませんし…」

エントでの流行病なら、エントの薬師を訪ねているのかもしれないし、あれっきり誰にも症状が出ていないのかもしれない。情報が少ないので何とも言えなかった。

「それより手当は?」

「昨日の夜薬を塗ったから問題ない。見た目ほど症状も無い」

「今日はしてないんですか!?ダメですよ!!」

リディオは王宮騎士だ。王宮には優秀な宮廷薬剤師がいる。原因が分からないのであれば、炎症止めの薬を塗るくらいしか出来る手当は無いだろうが、やらないよりはマシだろう。

座って腕をまくる様にとリディオに指示しながら、ソフィアは薬棚から効きそうな薬を取り出す。

薬師のスイッチが入ったからか、つい先程まで感じていた恥ずかしさや気まずさは感じなくなっていた。

こうして手当てをしているとリディオと初めて会った時の事を思い出す。

リディオは騎士であるが故か、痛みに鈍感で自分の体にあまり頓着が無いか、あるいは…。

「薬、嫌いですか?」

「いや?なぜだ?」

「薬は苦いし臭いから、苦手な子供は多いんですよ。リディオさんもその類かなって」

チラリとリディオの顔を覗き込むと、眉間の皺は健在で、難しそうな顔をしていた。

「薬に抵抗があるわけじゃない。ただ、もっとその薬が必要な奴のところに回った方がいいだろう」

「リディオさんだって、薬を必要としている人ですよ」

「俺は我慢できる」

「やっぱり苦手なんですね?」

「違う」

手のひらと手の甲、手首にかけて薄く炎症止めの薬を塗って、薬屋にある1番大きいサイズの手袋を被せた。

「薬が馴染むまで、少しつけてて下さい。ベタベタになっちゃうんで」

「ああ」

「それと、宮廷の薬室の薬を使う事に抵抗があるなら、いつでも私の所に来てください。私の店の薬は、あらゆる患者さんのためにあります。リディオさんも、その1人ですよ」

子供じゃ無かったらですけどね、と揶揄い混じりに言うと、リディオは珍しく苦笑いの様な微妙な顔をしながら鼻で笑った。

「患者か」

「?」

「いや、何でもない」

そう言うと今度こそリディオは人ん家だと言うのに遠慮なく奥の部屋へと消えていった。

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