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episode.17
「俺がここにいるからだったら良いのに……?」
……………。
「俺を選べば良いのに………?」
……………。
何だったんだあれは…!?
昨夜はせっかく急患の無い静かな夜だったと言うのに、あの野営の日以降ソフィアはあまりよく眠れなかった。
1人になると月明かりに照らされたリディオの顔が思い浮かんで、その度にちょっと赤面して、その度に頭を悩ませている。
そんなソフィアの元にカストが出勤。朝一番に買ってきた小さな花束に目敏く気付いた。
「なにその花、買ったの?」
「そう、さっき買ってきた。今日少し空けたいんだけど」
「ああ、俺は別に留守番してるから良いけど。どの辺にいるかだけ教えて」
「すぐ戻るけど、霊園に行ってくる」
「りょーかい。墓参りか?…まぁそれしかねえか」
「先生のね。カストはまだ小さかったから先生の事、あんまり覚えてないでしょ?」
先生が亡くなって4年が経つ。もう4年も経った。
「いや、普通に覚えてる。俺そんなに小さくねえし」
「…そう?」
ソフィアにとってカストは今でもまだまだ子供で、4年も前だと赤ちゃんみたいなものだと思っていたけど、案外しっかり記憶はあるらしい。
「じゃあちょっと、早いうちに行ってくるから。何かあったらよろしくね」
「あいよ」
心置きなくとまでは行かずとも、こうして余裕を持って先生の所に行けるのは随分ありがたい。
霊園までの距離はそれほど遠くは無いが、ソフィアは足早に目的地へと向かった。
頻繁に足を運んでいるわけでは無いのに、先生の墓標は綺麗にしてあって、枯れていない花まで供えてある。先生の事を慕っていた誰かが、こうして時折先生の墓を訪れているのだろう。
ソフィアは先生を親の様だと思いながらあまりここには来ていない。もう少し顔を出せと叱られるかもしれない。
「おはよう先生。話聞いてもらいに来たよ」
ソフィアがここを訪れるのは、悩みがある時と、弱音を吐きたい時、気がかりなことがある時、緊張している時…。
総じて、弱気な本音を聞いて欲しい時だ。
先生の病が進んで、体を起こす事も難しくなって、その頃からあの薬屋はソフィアが実質1人で切り盛りする様になった。
だけどまだ16、7のソフィアにはやはり荷が重くて、何度も泣いて、人前でうまく笑うことすら難しくなっていた時、先生は痛む体を無理矢理起こしてソフィアに言った。
「ソフィ。お前はきちんと出来る子だから、堂々としていなさい。お前が弱っていたら、お前を頼っている人達も不安になるよ。辛くなったら私の所においで。私はいつでも、お前の話を聞いてやるから」
だからこうして、ソフィアは時々ここを訪れる。ちゃんと聞いてくれているのか、返事がないから怪しいのだが、聞くと言ったのは先生なんだからちゃんと聞いて欲しい。
「お店の方は順調だよ、カストに手伝いをさせてる。生意気だけどよく出来る子だよ。本人が望むなら、そのうち薬学を教えてもいいと思ってる」
あのカストがねぇ。お前と良いコンビになりそうじゃないか
「………って言うよね、きっと」
先生は男勝りで子供っぽくて、勝負事は特に、子供だったソフィア相手でも容赦無かった。
今だってきっと、「やーい、おバカコンビ~!」とか言って指差して笑っているに違いない。
そんな話をしに来たんじゃないとソフィアは頭を振った。どこから話せば良いのかと少し考えてから口を開く。
「なんか、良くしてくれている王宮騎士さんがいるんだけどね。凄く優秀な人で、そりゃあもう絶対先生も認めるくらい顔面も優秀な人なんだけどね。その人がこの前、私が俺の事を選べば良いのにって…言ってたんだよね。……どういう事だと思う?」
これは、リディオに期待していい案件だろうか?
でも相手はあの冷徹無慈悲で全然考えが読めない騎士様だし、前にも似た様なことがあって、無駄にドキドキしたことがある。
やっぱり今回も何か裏があって、勘違いしているという線を捨て切れない。というかそっちの方が優勢だ。
「だって私だよ?料理も掃除もそんなに得意じゃないし、見た目だって痩せててカビ生えそうとか言われるし。やっばりおかしいよね?あのリディオさんが私に選ばれたいって。……じゃあ何の話だと思う?」
いつもならここに来て悩みを打ち明けると割とスッキリして帰れるのに、今回ばかりはモヤモヤが深まった気がする。
何故あの時、有耶無耶にして無意味に逃げてしまったのか。
もしも先生が生きていて、この事を相談したとしたら、先生は何というだろう。きっと、「さてね。悩め若人!」とか言ってろくな返事は返ってこないだろう。
「あ~…!分かんないよぉ~!!」
頭をぐしゃぐしゃと掻きむしって、ソフィアはすくっと立ち上がった。
「…帰るね、今日もきっと忙しいから。むしろ忙しい方が気が紛れていいわ。先生と話してるより有意義。ははっ」
最後に、「おいコラ」とどつく先生を思い浮かべて笑ったソフィアは、ボサボサ髪のまま帰路に就いた。
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