過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと

文字の大きさ
21 / 26

episode.19

忙しさに目が回る。働けど働けど、次々に人がやってくる。

それも皆同じ症状で、以前リディオが言っていたエントで流行っていると言う症状を発症した人ばかりだ。

一体何だと言うのか。不幸中の幸いは、この病なのかなんなのかがガルブ全体に及んでいない事と、死に至る様な重度な症状では無いと言う事だ。

エントの薬屋が既にパンク状態でソフィアの所にも流れて来ている様だった。

ソフィアはやむを得ず、カストに薬作りの手伝いをさせる様になった。もっと本人の意思を尊重してゆっくり教えていく手筈だったのに…。

リディオが言っていた通り、人から人へ移らないというのは本当の様だ。

患者と接触し始めて1ヶ月が経とうとしているが、これだけ至近距離にいても、ソフィアにもカストにも何の異変もない。

「大丈夫かソフィ。飯も食わねぇで」

「大丈夫。お疲れ様」

まだ10歳のカストに心配されてしまう始末だが、休んでいられない。

きっとエントの薬師はもっと大変な事になっているだろうし、宮廷薬剤師が派遣されているかもしれない。他の人達も原因究明に動き回っているはずだ。

きっとリディオも今頃はエントにいるだろう。

であれば、彼らの方が危険な状況で心身を削って働いているに違いない。

そりゃあ許されるならソフィアだって休みたいしお腹いっぱいに食べたいし楽したい。

「疲れた…」

夕刻、客足が途切れたところでカストを家に帰し、ソフィアはカウンターにペシャリと突っ伏した。

いつもの何倍もの忙しさ、加えていつまで続くか分からないというのは結構なストレスになるものだと身を以て痛感している。

冬に一時流行り出すあの流行り風邪が永遠に続く様な、そんな気さえする。

加えて、あの日を最後にリディオはピタリと姿を見せなくなった。忙しいだろうか、体を壊していないだろうか、きちんと休めているだろうか…。

自分の事などそっちのけで、隙あらばリディオの無事を願っている。過去にも1ヶ月会わない時もあったのに、あの時よりもずっと、リディオに会っていない事が怖い。

次に会う約束などした事がなくても、今を除いてこんなに不安に思った事は無い。

疲労は心を弱くする。ソフィアは特に疲れた時にネガティブになり易いと自覚がある。

そんな時こそ明るく振る舞わねばならない。なぜならソフィアは先生の後を継いだガルブの薬師だ。

カランカランとベルが鳴る。ソフィアは疲労の溜まった体をなんとか起き上がらせた。

「え」

いらっしゃいませもしくは、こんばんはと言うのが常だと言うのに、やってきた人物を見て、ソフィアは言葉を失った。

今まで仕事だったのだろうか、騎士服姿のままのリディオがつかつかと入ってくる。

リディオの事を気にしすぎたあまり、幻覚を見ているかと何度か瞬きを繰り返した。

「リディオさっ……!?」

目の前にやって来たリディオは何も言わず、一番にソフィアの体を抱きしめていた。

懐かしい匂いにソフィアは息を呑む。

「…大丈夫か?」

「…………は、はいっ?」

いつもより僅かに気怠さを含んだリディオの声に、ソフィアは何のことかと目を泳がせ、声は裏返った。

「ガルブにも奇病の発症者が出ている。お前は大丈夫か?」

原因不明の奇病。それはまさに今、王都を騒がせ、ソフィアを寝不足に陥れている病だ。

幸い、ソフィアもカストも発症には至っていない。

「大丈夫…です……。患者さんは、流れて来てますけど、みんな……軽症のようで………」

「エストではまだ数人だが死者が出ている」

「…り、リディオさんも……エストに行ってる、んですよね…?」

「ああ」

それなら、大丈夫なのか心配なのはリディオの方だ。ガルブの患者はそれほど多くないし、やはり病の根源はエストにあるのだろう。

それより、一体いつになったら離してくれるのだろうか。もうそろそろ心臓が限界を迎えそうだ。

「お前の安否がずっと気がかりだった。病でなくとも、やはり少し痩せたな」

「う……。い、忙しくて…」

「そうだろうとは思っていた」

「あ、ああ、あのっ……。そ、そろそろ…」

お酒を飲んだわけでもないのに、リディオの匂いと熱で酔っ払いそうだ。膝の力が抜けて立てなくなる前に離してもらわないと大変な事になる。

ソフィアが何を言いたいのか理解したリディオは、小さくため息を吐いてソフィアの体を解放した。

「もしも誤解をされる様な事があれば俺を呼べ。こちらが勝手にした事だと弁明する」

「はい!?!?」

何を言われているのかてんで分からない。なぜなら、解放されたは良いものの、そうなると今度はリディオの美しいご尊顔を拝まねばならなかったからだ。

既に顔は真っ赤に染まっているだろうが、リディオの視線を感じると余計に熱が溜まっていく。

なんで抱きしめたりなどしてくれたのか。ソフィアは息が詰まりそうだった。

「疲れているな」

「………リ、リディオさんこそ」

まさか疲れてもたれ掛かっただけか?そうなのか!?だとしたら罪深すぎる。

ソフィアは確かに疲れてはいるのだが、リディオが来た事によってそれどころでは無くなっていた。

喜びと緊張と羞恥と、何よりリディオが無事で安心した。

「カストが、ご飯作ってくれてて…。私これからなんですけど、リディオさんもまだだったら、一緒にどうですか?」

「……良いのか?」

「もちろん!カストの作る料理は美味しいですからね」

久しぶりに会えて、もう少し一緒に居たいなんて欲が出たソフィアは暖簾の奥へリディオを招き入れるのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました

森島菫
恋愛
シャーロット・フォード伯爵令嬢。 社交界に滅多に姿を見せず、性格も趣味も交遊関係も謎に包まれた人物──と言えばミステリアスな女性に聞こえるが、そんな彼女が社交界に出ない理由はただ一つ。 男性恐怖症である。 「そのままだと、何かと困るでしょう?」 「それはそうなんだけどおおおお」 伯爵家で今日も繰り返される、母と娘の掛け合い。いつもなら適当な理由をつけて参席を断るのだが、今回ばかりはそうもいかない。なぜなら「未婚の男女は全員出席必須」のパーティーがあるからだ。 両親は、愛娘シャーロットの結婚を非常に心配していた。そんな中で届いたこのパーティーの招待状。伯爵家の存続の危機を救ってもらうべく、彼らは気乗りしない娘を何とか説得してパーティーに向かわせた。 しかし当日、シャーロットはとんでもない事態を引き起こすことになる。 「王太子殿下を、突き飛ばしてしまったのよ」 「「はぁっ!?」」 男性恐怖症のシャーロットが限界になると発動する行動──相手を突き飛ばしてしまうこと──が、よりにもよってこの国の王太子に降りかかったのである。 不敬罪必死のこの事態に、誰もが覚悟を決めた。 ところが、事態は思わぬ方向へ転がっていき──。 これは、社交を避けてきた伯爵令嬢が腹を括り、結婚を目指して試行錯誤する話。 恋愛あり、改革あり、試練あり!内容盛りだくさんな伯爵令嬢の婚活を、お楽しみあれ。 【番外編の内容】 アンジェリアは、由緒正しいフォード伯爵家の次女として生まれた。 姉シャーロットと弟ウィルフレッドは貴族社会の一員として暮らしているが、アンジェリアは別の道を選びたかった。 「私、商人になりたい」 いつからか抱いたその夢を口にしてから、彼女の人生は大きく変化することとなる。 シャーロットが王太子ギルバートと関わりを深める裏で繰り広げられていた、次女アンジェリアの旅路。 衣食住に困ることのなかった令嬢生活を捨て、成功する保証の無い商人として暮らすことを決めた彼女を待ち受けている景色とは? ※完結した本編との絡みもありつつ物語が進んでいきます!こちらもぜひ、お楽しみいただければ嬉しいです。

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。