22 / 26
episode.19②
しおりを挟む
カストが作り置いて行った夕飯を温め直して食卓に並べた。
上着を脱いだのに、はめていた手袋を取らないまま匙を持ったリディオを不審に思い指摘すると、リディオは観念した様に手袋を外した。
リディオの手はあれから改善するどころか酷くなっていた。痛むに違いない。
「適切な手当てを受けているんですか?」
「薬室には足を運んでいる」
「本当に?」
「………子供じゃないんだ」
…なるほど。いつぞや、ソフィアが言った事を根に持っているらしい。
それにしてもこれは治療だと言うのに、リディオの手に触れるのは少し緊張する。ソフィアのシワシワの手に比べたらリディオの手は少しごつごつしていて指は長い。
「どうして手に…」
リディオの症状は見事に両手のみ。他の患者さんは手の他に、顔、全身に広がりを見せる。
「他の騎士さんも、こんな感じですか?」
「同伴していた8人の騎士のうち、2人には酷い症状が現れて倒れた」
やはり分からない。倒れた騎士とリディオの違いは何なのだろう。というかそれでは4分の1の確率で重症化する事になる。
次はリディオの番かもしれないと思うと、やはり気が気ではいられない。
「これからも、エストには行かれるんですか?」
「ああ。原因がわからなければ対処のしようがない」
「リディオさんが、行かないとだめなんでしょうか」
声が震える。良くない、良くない。
リディオは騎士だ。どんな方法であれ、人を守る事が仕事でそれに誇りを持っているのを知っているのに、ソフィアの今の発言はつまり、リディオが行かずとも、他の人が何とかしてくれると、そう言う意味だ。
「何が言いたい」
リディオの声もいつもより固くなったのを感じた。それはまるで、ソフィアが何を言いたいのか問いながらも既に察しているようだ。
溜まった疲労が、ソフィアの心を弱くする。それでも、行かないでと言えるほど図々しくは無い。
唯一出来ることは、何でもありませんと下手な笑みを浮かべて、心のモヤを、弱いところがこれ以上溢れ出ない様に必死に蓋をするくらいだった。
歯を食いしばって涙だけは流すまいと努めていると言うのに、リディオは手袋をはめた手でソフィアの頬に触れた。
「そんな顔をするな。お前に、そんな顔をさせるためにここに来たんじゃない」
「………」
そんな風に見ないでほしい。そんな風に触れないでほしい。そんな…そんな声を、今だけは聞かせないでほしい。
今はその声を聞いただけで、どうしようもなく切なくなる。
「何でも無いんです、本当に。気にしないでください」
リディオがスッと手を引くと、それはそれで寂しいだなんてわがままにも程がある。
「…すまない。責めたかった訳じゃないんだ。お前が俺の身を案じてくれているのは分かっているつもりだ」
「はい」
「だが、俺がエストに行くのはお前の為だぞ」
「……………え?」
「エストの調査は俺が望んで志願した。流行り病となれば、今は区画が違えどいずれお前の負担になるだろうと思っていた。そうなる前に、何とか出来れば良かったんだが、私欲に走ったからか神は味方してくれなかった。世の中、そう甘くは無いな」
困ったように笑うリディオを前にして、早い段階でそこまで考えていてたなんて知らなかったと目を丸くした。
「リディオさんが、私のために…?」
「ただの自己満足だ、気にするな。前に言っただろう、お前に1番に選ばれたいと。そう望むなら、俺は騎士として出来る限りお前の力になるように振る舞おうと思っただけだ」
「そっ…それ…!それです……!!」
ハッとして大きな声を出したソフィアに、リディオはなんだ?と怪しむように半眼を向けた。
「私に選ばれたいって、どっ…どういう事だろうと思って、ずっと考えてて………。先生にも相談したけどろくな答えじゃなくて、気がかりで…」
先生に相談?とリディオは首を傾げていた。先生は既に亡くなっているはずだ。他に先生と呼ぶ人物がいるという事だろうかと考えて見るも思い当たる人物はいなかった。
「先生は、何と言っていたんだ?」
「何も言いませんよ死んでるんですから。いつでも話聞くって言ってたのに本当に聞くだけで返事しないし……いや、そんな事はどうでもいいんです」
そんな事はどうでもいいんだ。返事をしない先生の事なんてこの際放っておいてもバチなんて当たるものか。どうせ話も聞いているふりをして聞いてないんだ。
「………っ!!とにかくもう!気になって気になって、気づいたらずっとリディオさんの事ばっかり考えてるんです!!良い加減にしてくださいもう!!」
疲れは人格をも破壊する。良くない、良くない。
フーフーと威嚇する猫の如く……いや、今にも突進して来そうな闘牛のように荒げていた。
「疲れて、いるな………」
「誤魔化さないでください!!」
あまりの迫力に、珍しくあのリディオが気圧されていた。
上着を脱いだのに、はめていた手袋を取らないまま匙を持ったリディオを不審に思い指摘すると、リディオは観念した様に手袋を外した。
リディオの手はあれから改善するどころか酷くなっていた。痛むに違いない。
「適切な手当てを受けているんですか?」
「薬室には足を運んでいる」
「本当に?」
「………子供じゃないんだ」
…なるほど。いつぞや、ソフィアが言った事を根に持っているらしい。
それにしてもこれは治療だと言うのに、リディオの手に触れるのは少し緊張する。ソフィアのシワシワの手に比べたらリディオの手は少しごつごつしていて指は長い。
「どうして手に…」
リディオの症状は見事に両手のみ。他の患者さんは手の他に、顔、全身に広がりを見せる。
「他の騎士さんも、こんな感じですか?」
「同伴していた8人の騎士のうち、2人には酷い症状が現れて倒れた」
やはり分からない。倒れた騎士とリディオの違いは何なのだろう。というかそれでは4分の1の確率で重症化する事になる。
次はリディオの番かもしれないと思うと、やはり気が気ではいられない。
「これからも、エストには行かれるんですか?」
「ああ。原因がわからなければ対処のしようがない」
「リディオさんが、行かないとだめなんでしょうか」
声が震える。良くない、良くない。
リディオは騎士だ。どんな方法であれ、人を守る事が仕事でそれに誇りを持っているのを知っているのに、ソフィアの今の発言はつまり、リディオが行かずとも、他の人が何とかしてくれると、そう言う意味だ。
「何が言いたい」
リディオの声もいつもより固くなったのを感じた。それはまるで、ソフィアが何を言いたいのか問いながらも既に察しているようだ。
溜まった疲労が、ソフィアの心を弱くする。それでも、行かないでと言えるほど図々しくは無い。
唯一出来ることは、何でもありませんと下手な笑みを浮かべて、心のモヤを、弱いところがこれ以上溢れ出ない様に必死に蓋をするくらいだった。
歯を食いしばって涙だけは流すまいと努めていると言うのに、リディオは手袋をはめた手でソフィアの頬に触れた。
「そんな顔をするな。お前に、そんな顔をさせるためにここに来たんじゃない」
「………」
そんな風に見ないでほしい。そんな風に触れないでほしい。そんな…そんな声を、今だけは聞かせないでほしい。
今はその声を聞いただけで、どうしようもなく切なくなる。
「何でも無いんです、本当に。気にしないでください」
リディオがスッと手を引くと、それはそれで寂しいだなんてわがままにも程がある。
「…すまない。責めたかった訳じゃないんだ。お前が俺の身を案じてくれているのは分かっているつもりだ」
「はい」
「だが、俺がエストに行くのはお前の為だぞ」
「……………え?」
「エストの調査は俺が望んで志願した。流行り病となれば、今は区画が違えどいずれお前の負担になるだろうと思っていた。そうなる前に、何とか出来れば良かったんだが、私欲に走ったからか神は味方してくれなかった。世の中、そう甘くは無いな」
困ったように笑うリディオを前にして、早い段階でそこまで考えていてたなんて知らなかったと目を丸くした。
「リディオさんが、私のために…?」
「ただの自己満足だ、気にするな。前に言っただろう、お前に1番に選ばれたいと。そう望むなら、俺は騎士として出来る限りお前の力になるように振る舞おうと思っただけだ」
「そっ…それ…!それです……!!」
ハッとして大きな声を出したソフィアに、リディオはなんだ?と怪しむように半眼を向けた。
「私に選ばれたいって、どっ…どういう事だろうと思って、ずっと考えてて………。先生にも相談したけどろくな答えじゃなくて、気がかりで…」
先生に相談?とリディオは首を傾げていた。先生は既に亡くなっているはずだ。他に先生と呼ぶ人物がいるという事だろうかと考えて見るも思い当たる人物はいなかった。
「先生は、何と言っていたんだ?」
「何も言いませんよ死んでるんですから。いつでも話聞くって言ってたのに本当に聞くだけで返事しないし……いや、そんな事はどうでもいいんです」
そんな事はどうでもいいんだ。返事をしない先生の事なんてこの際放っておいてもバチなんて当たるものか。どうせ話も聞いているふりをして聞いてないんだ。
「………っ!!とにかくもう!気になって気になって、気づいたらずっとリディオさんの事ばっかり考えてるんです!!良い加減にしてくださいもう!!」
疲れは人格をも破壊する。良くない、良くない。
フーフーと威嚇する猫の如く……いや、今にも突進して来そうな闘牛のように荒げていた。
「疲れて、いるな………」
「誤魔化さないでください!!」
あまりの迫力に、珍しくあのリディオが気圧されていた。
102
あなたにおすすめの小説
喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~
浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!
香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。
しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。
愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。
すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!?
けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。
記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。
(――それでも、私は)
これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。
元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?
中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。
副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。
やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。
出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。
慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。
誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。
……嘘でしょ、団長!?
かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に!
本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け!
※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。
完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。
水鳥楓椛
恋愛
男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
婚約破棄を希望しておりますが、なぜかうまく行きません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のオニキスは大好きな婚約者、ブラインから冷遇されている事を気にして、婚約破棄を決意する。
意気揚々と父親に婚約破棄をお願いするが、あっさり断られるオニキス。それなら本人に、そう思いブラインに婚約破棄の話をするが
「婚約破棄は絶対にしない!」
と怒られてしまった。自分とは目も合わせない、口もろくにきかない、触れもないのに、どうして婚約破棄を承諾してもらえないのか、オニキスは理解に苦しむ。
さらに父親からも叱責され、一度は婚約破棄を諦めたオニキスだったが、前世の記憶を持つと言う伯爵令嬢、クロエに
「あなたは悪役令嬢で、私とブライン様は愛し合っている。いずれ私たちは結婚するのよ」
と聞かされる。やはり自分は愛されていなかったと確信したオニキスは、クロエに頼んでブラインとの穏便な婚約破棄の協力を依頼した。
クロエも悪役令嬢らしくないオニキスにイライラしており、自分に協力するなら、婚約破棄出来る様に協力すると約束する。
強力?な助っ人、クロエの協力を得たオニキスは、クロエの指示のもと、悪役令嬢を目指しつつ婚約破棄を目論むのだった。
一方ブラインは、ある体質のせいで大好きなオニキスに触れる事も顔を見る事も出来ずに悩んでいた。そうとは知らず婚約破棄を目指すオニキスに、ブラインは…
婚約破棄をしたい悪役令嬢?オニキスと、美しい見た目とは裏腹にド変態な王太子ブラインとのラブコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる