キミと僕との7日間

五味

文字の大きさ
21 / 66

3-2

しおりを挟む
「じゃ、行ってきます。」

昨日と同じく、祖母からなにかの食べ物をまた持たされて、見送られる。

「はい、行ってらっしゃい。」
「うん。」

いつもならその声を背に、ふらりと出かけるのだけれど、今日は祖父の頭から離れないため、足取りが重い。
手癖で出来る課題の類と違って、今日は外をふらふらと歩いている間にも、その言葉が常にどこか重さを与えてくれた。

「どうかしたの。」
「まぁ、うん。じーさんから言われたことをね。」

そう、色々考えてしまう。
あってから決めようだなんて、そうして先送りにしても、こうして時間が近づくたびに、奥底にしまい込んだはずがふわふわと浮かんでくる。
面倒だ、どうしても、そう感じてしまう。良くない事だと分かっているのだけれど。

「そう。」
「うん。どうしようかなって。」

そうして肩を落として祖母に伝えれば、祖母はただ笑って返してきた。

「好きにしたらいいのよ。」
「でも。」
「誘っても、断るかもしれない。お爺さんはね、その子も心配しているだけなのよ。」
「僕があの子を追い出せば。」
「そうね、解決したかもしれないわね。それとももっとひどい方向に行ったのかしら。」
「それは。」
「だって、その子は別の場所を探すでしょう。今度は、これまで危ないと避けた道を選んでしまうかもしれないもの。」

祖母にそう言われて、僕は初めて気が付いた。
彼女も目的があるからここに来ているのであって、一つ所が駄目と言われて、直ぐに帰るとも限らないのだ。

「そうかも。」
「そうなのよ。」

あの人は昔から言葉が足りないから。
祖母はそういってため息をつくと、僕に話しかける。

「本当に好きにしたらいいのよ。それこそ何時から何時まで、それだけ聞いてもらえば、その前後で私から聞いている連絡先に確認して、無事かどうか確認すればいいんだもの。
 あなたが、合わなかったら、その時に対応すればいいんだもの。
 ただ、私達は出来る事が有るから、やってあげてもいいかな、そう考えてるだけよ。」
「難しいね。」

祖母の言葉は難しい。
無かったことに、見なかったことに、そうするのが一番簡単だと、それくらいは僕にもわかるから。

「難しく考えるから、難しいのよ。」

祖母は変わらず笑いながら話しかける。

「そう、かな。」
「ええ。」

祖父の言葉が足りないと、そういう祖母の言葉が足りている気もしない。
それについては僕が言えたことではないと、そういった自覚はあるけど。

「あってから、話して、それで。」
「ええ。それで。あなたはきちんとしてるから。」
「そうでもないと思うけど。」
「そうでなきゃ、初めて会った相手に連絡先なんて、教えないわよ。
 きっと悲鳴を上げて逃げているわ。夜中に山の中、見知らぬ人に会ったら、怖いでしょう。」

祖母がそういって、帽子の上から数回頭を叩く。

「さ、行ってらっしゃい。難しいことはさっと片づけて。」
「うん。」

そう言われて祖母に背を向ける。

「今日片づけてしまえば、明日からはいつも通りなのよ。」
「そっか、そうだね。」

背中越しにかけられた祖母の言葉に、ただ頷く。
言われてみればそうだ、結果がどうなるかは分からないけど、とりあえず話すだけ話してしまえば、それで終わるんだ。
そして、終わってしまえばこの問題も終わり。
それ以上はないんだから。

「じゃ、行ってきます。」
「はい。行ってらっしゃい。体が冷えないうちに戻ってきなさいね。」

祖母からはいつも通りの言葉で送り出される。

「うん。でも、ばーさんは、どっちがいいの。」
「正直に言えば、どちらでも。一番いいのは、あなたが一番うれしい結果になる事ね。」

そのあたりは、祖父も祖母も変わらない。
僕が楽しいかと聞いても、二人はそれに応えず、じゃあやってみなさい。そうとだけ。
今回も、どうやら同じらしい。
僕がいいと思う、それをやりなさいと、そうとだけ背中を押される。

「うん。話して、聞いてみる。」
「そうね。」
「結果は、うん、また、話すね。」

そうとだけ言って、家を出て、歩き出す。
さて、今日も彼女はいるのだろうか。
ここ数日と同じように、望遠鏡を覗き込みながら。
昨日と同じように、僕は僕で、それなりに嵩張る荷物を持って歩き出す。
どう切り出そうかとか、どのタイミングで話してみようかとか、もう話すことは決めた物として、考えながら。
そして、歩きながらも、考えてみる。
他の親戚と、この家で合うことはない。母方の親戚は祖父母以外に見たことが無い。
だから、本当に、これまでなら僕がいつふらりと来ても、ここにはそれだけだった。
誘ってしまい、彼女が受け入れてしまえば、彼女が、それを厚かましいと言ったりはしないけれど、祖父母とやり取りをして、今後僕が来た時にいるかもしれない。
そして、気の良い祖父母が、彼女の部活に理解を示せば、それ毎、なんてことになるかもしれない。
離れていたものが、ここにもやってくる。
それを僕は受け入れられるのだろうか。
そして、そうなったとき、僕がもし寄り付かなくなったら、祖父母はどう考えるのだろうか。
新しく来た相手に、ちょっと複雑な感情を持つだけならいいけれど、原因だけ作って、後はと寄り付かなくなった僕が、もし、祖父母にどうこう思われてしまったら嫌だなと、そんなことを考えてしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...