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「ほら、これ。」
「わ、ほんとだ。面白い色だね。」
彼女とのんびりと山道を歩いて、家にたどり着いた後食事の前にと、そういえば前に見つけた面白い石を彼女に見せる。
赤茶けた色の中にところどころ黒が混ざっており、望遠鏡で覗いた火星によく似た色合いを持っている、そんな石だ。調べてみたところ、この色合いの石はこのあたりで見つかるかはともかく、特産とされている場所は東北。この場所からは離れた場所。
もしかしたら、このあたりでもまれに見つけられるのかもしれないけれど、祖父が手に入れてはみた物のやっぱり気に入らないと、置いておいたのかもしれない。
辺りに転がる石は、物によっては磨かれている、人の手が入っていそうだと僕でも分かるようなものが落ちているし。
「すごいね。これで極冠があれば本当にそっくりだ。」
「うん。」
そう言いながら彼女は角度を変えたり、日にかざしたり。僕が石を集めるときによくそうしているように、石を眺めている。
「そういえばさ、月の石って聞いたことあるけど、火星の石とかって無いの。」
「無人探査機が採取する計画らしいけど、聞いたことが無いかなぁ。隕石になったり、そういった可能性もない事は無いだろうけど。」
「惑星から、隕石。」
「ほら、月にクレーター、あったでしょ。」
そしてそこから始まる彼女の説明は、相変わらずよくわからない。
なんというか、なんで年数迄覚えているのか、その数字の並びは一体どんな意味があるのか。分からない事ばかりで記憶にはやっぱり残らない。
直後だというのに、何の説明をされていたのか、それすらも僕には定かではないから。
「えっと、うん、ごめん。月由来の隕石がある事だけは分かったかな。」
僕の感想は正直それだけ。
凄いことだっていうのはわかるけれど、それ以上の感想は出てこない。
「あ、うん、ごめんね。分かり難かったかな。」
「固有名詞は、正直さっぱり。」
「うん、そうだよね。」
そうして石を一先ず彼女から戻されると、今度は三人で並んで、祖父は相変わらず黙々と自分の鉢植えに向かっている、そこに彼女も並んで、鉢植えを眺める。
「なんだか、色々あるんだね。」
「うん。」
「その、こう、形が決まってるものだと思ってたけど。」
「僕も調べたけど、松以外にも色々あったよ。」
そう、何となく祖父が育てているもの、その中にも色々あるし、僕も椿とか、楓とか、そんな物も育てているけれど。品評会では草花とか、そういった盆栽、鉢植えもあったのだ。
どうにも、国風、そう呼べる決まりのような何かはあるらしいけれど。
「へー。」
何となく、僕が説明して彼女が聞く、そんな状態がとても珍しく感じてしまう。
これまで星にしても、ここに来るまでにしても。ほとんど彼女から話を振ってきて、僕がそれに応える、そんな事が多かったし。
勉強にしてもそうだけど、教えられることの方が多かったから。
「それに、すごく立派なのもあるんだね。」
「うん。」
そういう彼女の視線の先には祖父の盆栽。
一際大きな鉢に植えられて、垣根よりは背が低いけれど、それでも地面に置かれているのに僕の胸くらいの高さはある。
「形も色々だ。」
「自由にしてもいいって、じーさん、そう言ってたし。」
「そっか。でも、じーさんなんだ。」
彼女と会って、二人の時は、それこそ一年ぶりにここに来た時には。
ちょっと余所行きの言葉だったけれど、やっぱりここではそうしたくない。なんとなく祖父母もそれを喜んでいそうだし。
「うん。ここではね。」
「そっか。」
そんな何でもないことを、それこそ学校では絶対に使わない、やらない言葉遣いと本当に僕らしいというか、一番力を入れない本当に、そんな僕でいられる。
だからここは大切で、疲れてしまったら。前は分からなかったけど、その場に合わせて振舞って、何となくそういった枠組みとその中にどうにか自分を捩じ込んでいた、そういう疲れから解放されたいと、そうしてここに来ていたのだから。
「ご飯ですよ、手を洗ってからおいでなさい。」
そうして、ここに来ている間には珍しく、あれこれと話しながら鉢植えの手入をして、祖母に呼ばれたら朝食の時間だ。
ここでも変わらず、いつもに比べて少し賑やかに。
僕はやっぱり食事中はあまり口を開かないし、祖父は本当にいつもと変わらないけれど。
祖母と彼女の会話に耳を傾けながら、のんびりと朝食を食べる。
きっと彼女はこの後眠ってしまって、起きるのはそれこそ星を見に行く頃。
そこで僕は彼女とまた話して。
今日が最後、明日には僕が帰るからそうなるだろうけど、そこできっと次の夏、その話をする。
彼女はなんだかんだと、また夏に、そう口にはしていないから。一緒にいれば手伝うとか、そんな事は言ってくれているけれど。
彼女の手伝うは、ここで、また一緒に。そういった事ではなく例えば離れた場所でとか、それこそ撮った写真を彼女に送ってとか、そういった話、そんな気もしてしまうから。
祖母と話しながら朝食を食べる彼女を見て、そんな事を考える。彼女と、短いけど交わした言葉を思い返しながら。
ああ、それでも、天体望遠鏡、それを貸してくれるとかそんな話はあったから、彼女も迷っているのかもしれないな。そんなことをぼんやりと思う。
「わ、ほんとだ。面白い色だね。」
彼女とのんびりと山道を歩いて、家にたどり着いた後食事の前にと、そういえば前に見つけた面白い石を彼女に見せる。
赤茶けた色の中にところどころ黒が混ざっており、望遠鏡で覗いた火星によく似た色合いを持っている、そんな石だ。調べてみたところ、この色合いの石はこのあたりで見つかるかはともかく、特産とされている場所は東北。この場所からは離れた場所。
もしかしたら、このあたりでもまれに見つけられるのかもしれないけれど、祖父が手に入れてはみた物のやっぱり気に入らないと、置いておいたのかもしれない。
辺りに転がる石は、物によっては磨かれている、人の手が入っていそうだと僕でも分かるようなものが落ちているし。
「すごいね。これで極冠があれば本当にそっくりだ。」
「うん。」
そう言いながら彼女は角度を変えたり、日にかざしたり。僕が石を集めるときによくそうしているように、石を眺めている。
「そういえばさ、月の石って聞いたことあるけど、火星の石とかって無いの。」
「無人探査機が採取する計画らしいけど、聞いたことが無いかなぁ。隕石になったり、そういった可能性もない事は無いだろうけど。」
「惑星から、隕石。」
「ほら、月にクレーター、あったでしょ。」
そしてそこから始まる彼女の説明は、相変わらずよくわからない。
なんというか、なんで年数迄覚えているのか、その数字の並びは一体どんな意味があるのか。分からない事ばかりで記憶にはやっぱり残らない。
直後だというのに、何の説明をされていたのか、それすらも僕には定かではないから。
「えっと、うん、ごめん。月由来の隕石がある事だけは分かったかな。」
僕の感想は正直それだけ。
凄いことだっていうのはわかるけれど、それ以上の感想は出てこない。
「あ、うん、ごめんね。分かり難かったかな。」
「固有名詞は、正直さっぱり。」
「うん、そうだよね。」
そうして石を一先ず彼女から戻されると、今度は三人で並んで、祖父は相変わらず黙々と自分の鉢植えに向かっている、そこに彼女も並んで、鉢植えを眺める。
「なんだか、色々あるんだね。」
「うん。」
「その、こう、形が決まってるものだと思ってたけど。」
「僕も調べたけど、松以外にも色々あったよ。」
そう、何となく祖父が育てているもの、その中にも色々あるし、僕も椿とか、楓とか、そんな物も育てているけれど。品評会では草花とか、そういった盆栽、鉢植えもあったのだ。
どうにも、国風、そう呼べる決まりのような何かはあるらしいけれど。
「へー。」
何となく、僕が説明して彼女が聞く、そんな状態がとても珍しく感じてしまう。
これまで星にしても、ここに来るまでにしても。ほとんど彼女から話を振ってきて、僕がそれに応える、そんな事が多かったし。
勉強にしてもそうだけど、教えられることの方が多かったから。
「それに、すごく立派なのもあるんだね。」
「うん。」
そういう彼女の視線の先には祖父の盆栽。
一際大きな鉢に植えられて、垣根よりは背が低いけれど、それでも地面に置かれているのに僕の胸くらいの高さはある。
「形も色々だ。」
「自由にしてもいいって、じーさん、そう言ってたし。」
「そっか。でも、じーさんなんだ。」
彼女と会って、二人の時は、それこそ一年ぶりにここに来た時には。
ちょっと余所行きの言葉だったけれど、やっぱりここではそうしたくない。なんとなく祖父母もそれを喜んでいそうだし。
「うん。ここではね。」
「そっか。」
そんな何でもないことを、それこそ学校では絶対に使わない、やらない言葉遣いと本当に僕らしいというか、一番力を入れない本当に、そんな僕でいられる。
だからここは大切で、疲れてしまったら。前は分からなかったけど、その場に合わせて振舞って、何となくそういった枠組みとその中にどうにか自分を捩じ込んでいた、そういう疲れから解放されたいと、そうしてここに来ていたのだから。
「ご飯ですよ、手を洗ってからおいでなさい。」
そうして、ここに来ている間には珍しく、あれこれと話しながら鉢植えの手入をして、祖母に呼ばれたら朝食の時間だ。
ここでも変わらず、いつもに比べて少し賑やかに。
僕はやっぱり食事中はあまり口を開かないし、祖父は本当にいつもと変わらないけれど。
祖母と彼女の会話に耳を傾けながら、のんびりと朝食を食べる。
きっと彼女はこの後眠ってしまって、起きるのはそれこそ星を見に行く頃。
そこで僕は彼女とまた話して。
今日が最後、明日には僕が帰るからそうなるだろうけど、そこできっと次の夏、その話をする。
彼女はなんだかんだと、また夏に、そう口にはしていないから。一緒にいれば手伝うとか、そんな事は言ってくれているけれど。
彼女の手伝うは、ここで、また一緒に。そういった事ではなく例えば離れた場所でとか、それこそ撮った写真を彼女に送ってとか、そういった話、そんな気もしてしまうから。
祖母と話しながら朝食を食べる彼女を見て、そんな事を考える。彼女と、短いけど交わした言葉を思い返しながら。
ああ、それでも、天体望遠鏡、それを貸してくれるとかそんな話はあったから、彼女も迷っているのかもしれないな。そんなことをぼんやりと思う。
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