158 / 179
第15章 変わってしまった地球世界
15.3 その頃日本では3
しおりを挟む
「ふむ、ではアメリカは実際に関税を上げるということだね?」
大泉首相の言葉に、岸山外務大臣が冷静に答える。
「はい、お手元にある工業製品のほぼ4割、さらに、食料品や雑貨などです」
すでに、影響についてはシミュレーションが済んでいて、影響は軽微という結論になっているので、担当としては気が軽いのだ。アメリカ側も流石に自国に必須の製品や工業原料については、国内からの余りの反発の強さに耐えられず引っ込めており、結局5.5兆円の製品を対象にすることになっている。
しかし日本製品は、現状では魔力の処方初期の様々な改良によるアドバンテージで、今のところ圧倒的な競争力を持っており、25%程度の値上げで輸出が大きく減るとは思えないという市場関係者の読みである。さらに、アメリカのどう見ても不当な関税を引き上げる措置に対して、日本は現状では特に対抗措置は考えておらず、影響がでてから措置を考えると宣言している。
この宣言には国内では反発とかなりの議論があって、対抗措置として食料、特に小麦の関税引き上げと言う意見もあった。穀物に関しては、アメリカは現代においても大生産地であるが、実のところアメリカの穀物生産は現在曲がり角に来ている。
主として中西部の広大な平野に作られた大規模な農場において、小麦やトウモロコシのかなりの部分を地下水が水源とした灌漑を行って生産し、それをミシシッピ川流域の運河網で海岸の輸出港まで持ってくることで、競争力のある穀物を輸出できている。
しかし、以前から指摘されていたように、極めて長期的に貯留されていた地下水を過剰に汲み上げた結果、水源が枯渇してきた農場が多く出た。さらには、どんどん進んでいる重力エンジン機による運搬手段が一般化してくると、必ずしも内陸の運河網による運搬が安くはなくなっている。
更には、AE発電による電力料の大幅なダウン、さらに日本発の水処理膜の劇的な進化によって、灌漑が過去には考えられないほどに容易に、かつコストが低くなってきた。そうなると、以前は不毛の地が農業の適した土地になってくるのだ。
例えば内陸の塩分過多の土地でも、その原因が不十分な灌漑水量であった場合も多く、十分な灌漑を行えば農地として蘇る。さらには完全な乾燥地帯では無理としても、ステップ気候の草原など、それなりの養分のある土地に灌漑を行うことで、十分農地や牧草地として使える。
地球同盟はそのための大規模な投資を現在行っており、その成果は次々に上がっている。その意味では、先進国であるために人件費が高く、比較的コスト高にならざるを得ないアメリカ合衆国の穀物の競争力が失われるのはやむを得ないことである。
一方で、日本の場合を言えば、そのいわゆる飛び地であるアフリカ東部の日本自治区(いまは『亜州領』と呼ばれる)があって、そこは元々食力自給が出来ず安全保障上脆弱であるとされる、日本の弱点を解消するための日本領である。自治区という名前でスタートしたここは、すでに日本が外交、防衛、警察、課税など自治国として必要な権利を全て持っている。
しかし、土地の提供を受けたモザンビーク・ジンバブエ・マラウィから100名の亜州領議員の内、それぞれ10、10、5名受け入れている。さらに、逆にその3国の国会にそれぞれ2人づつの議員を出しているし、日本にも衆議院5人、参議院2人を出している。従って、極めて変則的な自治形態であると言えよう。
最初は、まさにこの亜州領は自治領であったが、そこに5百万を越える日本人が住み、彼らの手でアフリカの人々の魔力発現の処方を積極的に行った。その結果、アフリカの人々の処方は比較的早く進んだのだ。さらにその自治区では日本人の3倍を超える多くのアフリカの人々を雇用し、世界でも最高レベルの大学を設立してアフリカ中から学生を受け入れた。
さらには、亜州領周辺の国々の豊かな地下資源を活用して、製鉄を始め様々な精錬工場が立地して、それに伴ってアフリカの需要を満たすためにも機械・電気・電子の産業も立地することになった。その結果として亜州領は、アフリカ全土で最も進んだ地域になってしまった。
加えて、サーダルタ帝国侵攻時に日本が中心になって、アフリカ全体の国と共同して防衛部隊を結成したことが決め手になった。これらのことで、この領の防衛権と外交権が認められ、さらには国としての必要なすべての権利が認められるようになったのだ。
亜州領は、現在進められている世界各地の灌漑システムの建設を先取りする形で、ザンビア川等の水を活用して、モザンビーク・ジンバブエ・マラウイにまたがる大規模な灌漑システムを構築して、極めて大規模な農場を整備した。その農場で、日本の需要に対して穀物について言えばコメはほぼ半分、トウモロコシは全量、小麦は30%程度であるが収穫している。
亜州領の作物は、日本にとっては輸入扱いにはなっていないので、日本の自給率は今や、カロリーベースでも70%を上回っている。ちなみに、この場合の日本本土の農業については、すでにハヤトが帰ったきた2018年には、すでにその小規模であることによるコスト高と担い手の老齢化によって存続が危ぶまれていた。
そこに、全国民への魔法の処方とその結果の知力増強による産業革命によっての経済の高度成長が起き、さらには亜州領の開発の話が持ち上がったのだ。とりわけ農地に近いところに育った人々には農業には関心を持つ者も多く、亜州領の農民の募集は基本的には農業一家の出身であることを大きな条件にした結果、殆どの移住者が農業に携わる人々の一族の出身となった。
農民募集の代替として、日本の農地は半ば強制的に大規模化・機械化を進めて、専業で十分農業で食える規模とした。日本に残った農業は、コメなどの穀物の生産はいわゆるブランド化した一部の限定的なものになり、野菜・果物など換金性の高いものが中心で十分な利益が出るようになっている。畜産についても、やはり大規模化・ブランド化して残しており、これもまたそれなりの利益を上げられるようになってきている。
ちなみに、先述の灌漑システムの整備によって、今後20年程度の地球上の食料の供給にほぼ不安はないとされている。また、食料以上に枯渇が心配されていたのは上水源であるが、これの灌漑の水源と同様にエネルギー単価の劇的な低下と先に述べた膜技術の急激な改善で、近い将来には全く問題はないと言われるようになった。
現状の技術水準であれば、10数年前に千円~2千円/㎥と言われた海水の淡水化も1/10以下の単価になっているので、最悪は海水の淡水化をしても上水は賄えるのだ。このようなことから、人類の未来を暗く考える論は殆ど見られなくなった。
これは、先述のような水とそれに関連する食料の供給量の増大に加えて、ハヤトによって行われた資源探査の結果にもよるものである。ハヤトの探査によって見つかった資源は、ほぼあらゆる鉱物資源について、最低でも2倍、資源によっては10倍以上残存資源量が増えた結果になった。
この中には石油・石炭等の化石燃料も含まれ、これらはAE発電法の開発によってその燃料としての価値は大きく減じたが高分子原料としての価値は、全く失われていない。このように、地球の資源の有限性に着目した、かつて有名であったローマクラブの成長の限界という予言は、今や説得力を失った観がある。
だが、資源量が増えたとは言っても地球の資源が有限であることは間違いないので、人口が指数関数的に伸びていった場合には成長の限界はあるということになる。また近年において問題になったのは、地球の温暖化であるが、この原因の大部分は、人の主として産業活動によって二酸化炭素に代表される温暖化効果ガスが、大気中に多量に排出された結果である。
この点の解決策は、原子力発電であると言われたが、そのために使われる核分裂反応を用いた原子炉は、多量に発生する放射能廃棄物の放射能を減らす、または消滅させて処理する手段がない点で不完全なシステムであった。AE発電も原子力発電の一種であるが、核融合反応を放射能なしに実現しており、発電の大部分をこの方法によることで、現在の計算によれば、地球上の2酸化炭素の濃度はあと20年で減少に転ずるとされている。
その間、現在すでに顕在化している気候変動は続くわけであるが、重力エンジンによる力の場を用いて暴風雨の目あるいは中心を散らすことで、その勢力を減ずることのできる“気象庁方式”がすでに実用化されている。その気象庁方式の操作のできる、ストームブレーカー号はすでに1号から5号の5隻建造されて世界各地に配置されているので、今後暴風雨による、人々への大きな被害は防がれることになる。
また、ここに明るい要素として考えることができるのは、異世界の存在である。とりわけ、新地球の開発ができるようになったことは、新しい地球が人類に与えられたに等しい。資源という意味では、先述のようにまだ余裕があると言っても、人々がひしめき合って暮らしている地球上の多くの地域においては、狭いという閉塞感が強かったのだ。
一方、宇宙の彼方には人が住める星、世界が多くあるという認識はあってもそこにたどり着くことは無理であると人々は思っていた。しかし、そこには地球から数日で行けるところに多くの異世界がある。しかも、そのうちのいくつかは知的生物が住んでおらず、それを地球が入手できた。
この情報が広がり、人々が異世界のいくつかの映像とそこに住む人々のことをメディアを通して知ることで、人々に大いに解放感が広がったのだ。それはあたかも、大航海時代、人々が知らない大陸や島に思いを馳せたのと同様な感情であったかもしれない。
話が逸れたが、アメリカに対する食料の関税の引き上げは、結局今でも大きくないアメリカからの食料輸入の息の根を止めることになりかねず、余りに相手の反感を掻き立てることになるということで採用されなかった。
それより確実に大きなインパクトを与える方法は、アメリカにとって必須の工業材料や製品を差し止めることであるが、これもまた影響が大きすぎるとして採用されなかったのだ。
「それで、今のところの読みでは、余りアメリカへの輸出は減らないだろうということだが?」
首相の言葉に経産大臣の岸が答えた。
「ええ、日本が輸出するものは嗜好性の強いものでして、どちらかというと収入が高い層が購入するもので、25%程度の値上げでは余り売れる量は変わらないだろうという読みです。それでもまず2兆円程度は減る可能性は高いですね」
「ふーん、2兆円か。大きくはないな。たしか、異世界のマダンとジムカクがAE発電所とバッテリー工場を買いたいということでもうすぐ契約だったな?」
大泉首相が聞くのに岸が答える。
「ええ、5年契約で合計4兆円を超えます。また、この両世界にはその他の完成品の輸出品がメジロ押しで商社が飛び回っています。それだけでなく、新地球にも住民が入るということで、巨額の製品が輸出されます。これらの影響を考えると、単年度で3兆円以上の増になってアメリカの輸出減の影響は相殺できるかと」
その言葉に加えて、岸山外務大臣が付けくわえる。
「ご存知のようにリーマン国務長官が辞任しましたし、国務省の大部分の幹部は今言ったようなことは知っておりメジェル大統領に反対しています」
「しかし、このままアメリカが関税の引き上げを発表して、殆ど影響がないことを知ったメジェル大統領は怒り狂うだろう。その場合に彼の打つ手はなにかあるかな?」
大泉の言葉に岸山が応じる。
「外交的には、大統領の過激な言葉で信用を失い始めているアメリカに我が国に対して打てる手は限られているでしょう。ただ、我が国のそばには我が国に不利になることだったら、喜んでやる国がありますからね」
「ううむ。K国と北京政府か。だけど彼らがやれることは知れているだろう?」
首相の言葉に加山防衛大臣が答える。
「首相、北京政府はなるほど距離もありますし、やれることは知れています。しかし、K国は重力エンジン機をどこから手にいれたのか、一応5機持っていますし、なにしろ距離が近いです。問題はアメリカと組むとすれば核爆弾が問題です」
「核!核は使えんだろう。いくら何でも核を使ったら世界で生きてはいけないぞ」
今度は岸が言うが、大泉は顔をしかめて言う。
「うーん。政府として実際は使わんだろうし、使えんよ。しかし、脅しには使えるし、隣国だと必ずしもミサイルでなくとも良い。持ち込みもありうる。そして、アメリカは知らん顔だ」
「しかし、K国が核を持っているというのは不自然です。今日本と対立している状態で、アメリカが渡したことが極めて疑わしいというのは誰しも思います」
岸の言葉に大泉が尚も言う。
「とは言え証拠はない。証拠がなければ突っぱねるのが国際政治の常だ。しかし、それは関税引き上げで我が国が全く痛手を負わなかったときのことだ。今から準備はせんだろう。ただ、我が国としてもK国と北京政府に対しては警戒を強める必要があるな」
大泉首相の言葉に、岸山外務大臣が冷静に答える。
「はい、お手元にある工業製品のほぼ4割、さらに、食料品や雑貨などです」
すでに、影響についてはシミュレーションが済んでいて、影響は軽微という結論になっているので、担当としては気が軽いのだ。アメリカ側も流石に自国に必須の製品や工業原料については、国内からの余りの反発の強さに耐えられず引っ込めており、結局5.5兆円の製品を対象にすることになっている。
しかし日本製品は、現状では魔力の処方初期の様々な改良によるアドバンテージで、今のところ圧倒的な競争力を持っており、25%程度の値上げで輸出が大きく減るとは思えないという市場関係者の読みである。さらに、アメリカのどう見ても不当な関税を引き上げる措置に対して、日本は現状では特に対抗措置は考えておらず、影響がでてから措置を考えると宣言している。
この宣言には国内では反発とかなりの議論があって、対抗措置として食料、特に小麦の関税引き上げと言う意見もあった。穀物に関しては、アメリカは現代においても大生産地であるが、実のところアメリカの穀物生産は現在曲がり角に来ている。
主として中西部の広大な平野に作られた大規模な農場において、小麦やトウモロコシのかなりの部分を地下水が水源とした灌漑を行って生産し、それをミシシッピ川流域の運河網で海岸の輸出港まで持ってくることで、競争力のある穀物を輸出できている。
しかし、以前から指摘されていたように、極めて長期的に貯留されていた地下水を過剰に汲み上げた結果、水源が枯渇してきた農場が多く出た。さらには、どんどん進んでいる重力エンジン機による運搬手段が一般化してくると、必ずしも内陸の運河網による運搬が安くはなくなっている。
更には、AE発電による電力料の大幅なダウン、さらに日本発の水処理膜の劇的な進化によって、灌漑が過去には考えられないほどに容易に、かつコストが低くなってきた。そうなると、以前は不毛の地が農業の適した土地になってくるのだ。
例えば内陸の塩分過多の土地でも、その原因が不十分な灌漑水量であった場合も多く、十分な灌漑を行えば農地として蘇る。さらには完全な乾燥地帯では無理としても、ステップ気候の草原など、それなりの養分のある土地に灌漑を行うことで、十分農地や牧草地として使える。
地球同盟はそのための大規模な投資を現在行っており、その成果は次々に上がっている。その意味では、先進国であるために人件費が高く、比較的コスト高にならざるを得ないアメリカ合衆国の穀物の競争力が失われるのはやむを得ないことである。
一方で、日本の場合を言えば、そのいわゆる飛び地であるアフリカ東部の日本自治区(いまは『亜州領』と呼ばれる)があって、そこは元々食力自給が出来ず安全保障上脆弱であるとされる、日本の弱点を解消するための日本領である。自治区という名前でスタートしたここは、すでに日本が外交、防衛、警察、課税など自治国として必要な権利を全て持っている。
しかし、土地の提供を受けたモザンビーク・ジンバブエ・マラウィから100名の亜州領議員の内、それぞれ10、10、5名受け入れている。さらに、逆にその3国の国会にそれぞれ2人づつの議員を出しているし、日本にも衆議院5人、参議院2人を出している。従って、極めて変則的な自治形態であると言えよう。
最初は、まさにこの亜州領は自治領であったが、そこに5百万を越える日本人が住み、彼らの手でアフリカの人々の魔力発現の処方を積極的に行った。その結果、アフリカの人々の処方は比較的早く進んだのだ。さらにその自治区では日本人の3倍を超える多くのアフリカの人々を雇用し、世界でも最高レベルの大学を設立してアフリカ中から学生を受け入れた。
さらには、亜州領周辺の国々の豊かな地下資源を活用して、製鉄を始め様々な精錬工場が立地して、それに伴ってアフリカの需要を満たすためにも機械・電気・電子の産業も立地することになった。その結果として亜州領は、アフリカ全土で最も進んだ地域になってしまった。
加えて、サーダルタ帝国侵攻時に日本が中心になって、アフリカ全体の国と共同して防衛部隊を結成したことが決め手になった。これらのことで、この領の防衛権と外交権が認められ、さらには国としての必要なすべての権利が認められるようになったのだ。
亜州領は、現在進められている世界各地の灌漑システムの建設を先取りする形で、ザンビア川等の水を活用して、モザンビーク・ジンバブエ・マラウイにまたがる大規模な灌漑システムを構築して、極めて大規模な農場を整備した。その農場で、日本の需要に対して穀物について言えばコメはほぼ半分、トウモロコシは全量、小麦は30%程度であるが収穫している。
亜州領の作物は、日本にとっては輸入扱いにはなっていないので、日本の自給率は今や、カロリーベースでも70%を上回っている。ちなみに、この場合の日本本土の農業については、すでにハヤトが帰ったきた2018年には、すでにその小規模であることによるコスト高と担い手の老齢化によって存続が危ぶまれていた。
そこに、全国民への魔法の処方とその結果の知力増強による産業革命によっての経済の高度成長が起き、さらには亜州領の開発の話が持ち上がったのだ。とりわけ農地に近いところに育った人々には農業には関心を持つ者も多く、亜州領の農民の募集は基本的には農業一家の出身であることを大きな条件にした結果、殆どの移住者が農業に携わる人々の一族の出身となった。
農民募集の代替として、日本の農地は半ば強制的に大規模化・機械化を進めて、専業で十分農業で食える規模とした。日本に残った農業は、コメなどの穀物の生産はいわゆるブランド化した一部の限定的なものになり、野菜・果物など換金性の高いものが中心で十分な利益が出るようになっている。畜産についても、やはり大規模化・ブランド化して残しており、これもまたそれなりの利益を上げられるようになってきている。
ちなみに、先述の灌漑システムの整備によって、今後20年程度の地球上の食料の供給にほぼ不安はないとされている。また、食料以上に枯渇が心配されていたのは上水源であるが、これの灌漑の水源と同様にエネルギー単価の劇的な低下と先に述べた膜技術の急激な改善で、近い将来には全く問題はないと言われるようになった。
現状の技術水準であれば、10数年前に千円~2千円/㎥と言われた海水の淡水化も1/10以下の単価になっているので、最悪は海水の淡水化をしても上水は賄えるのだ。このようなことから、人類の未来を暗く考える論は殆ど見られなくなった。
これは、先述のような水とそれに関連する食料の供給量の増大に加えて、ハヤトによって行われた資源探査の結果にもよるものである。ハヤトの探査によって見つかった資源は、ほぼあらゆる鉱物資源について、最低でも2倍、資源によっては10倍以上残存資源量が増えた結果になった。
この中には石油・石炭等の化石燃料も含まれ、これらはAE発電法の開発によってその燃料としての価値は大きく減じたが高分子原料としての価値は、全く失われていない。このように、地球の資源の有限性に着目した、かつて有名であったローマクラブの成長の限界という予言は、今や説得力を失った観がある。
だが、資源量が増えたとは言っても地球の資源が有限であることは間違いないので、人口が指数関数的に伸びていった場合には成長の限界はあるということになる。また近年において問題になったのは、地球の温暖化であるが、この原因の大部分は、人の主として産業活動によって二酸化炭素に代表される温暖化効果ガスが、大気中に多量に排出された結果である。
この点の解決策は、原子力発電であると言われたが、そのために使われる核分裂反応を用いた原子炉は、多量に発生する放射能廃棄物の放射能を減らす、または消滅させて処理する手段がない点で不完全なシステムであった。AE発電も原子力発電の一種であるが、核融合反応を放射能なしに実現しており、発電の大部分をこの方法によることで、現在の計算によれば、地球上の2酸化炭素の濃度はあと20年で減少に転ずるとされている。
その間、現在すでに顕在化している気候変動は続くわけであるが、重力エンジンによる力の場を用いて暴風雨の目あるいは中心を散らすことで、その勢力を減ずることのできる“気象庁方式”がすでに実用化されている。その気象庁方式の操作のできる、ストームブレーカー号はすでに1号から5号の5隻建造されて世界各地に配置されているので、今後暴風雨による、人々への大きな被害は防がれることになる。
また、ここに明るい要素として考えることができるのは、異世界の存在である。とりわけ、新地球の開発ができるようになったことは、新しい地球が人類に与えられたに等しい。資源という意味では、先述のようにまだ余裕があると言っても、人々がひしめき合って暮らしている地球上の多くの地域においては、狭いという閉塞感が強かったのだ。
一方、宇宙の彼方には人が住める星、世界が多くあるという認識はあってもそこにたどり着くことは無理であると人々は思っていた。しかし、そこには地球から数日で行けるところに多くの異世界がある。しかも、そのうちのいくつかは知的生物が住んでおらず、それを地球が入手できた。
この情報が広がり、人々が異世界のいくつかの映像とそこに住む人々のことをメディアを通して知ることで、人々に大いに解放感が広がったのだ。それはあたかも、大航海時代、人々が知らない大陸や島に思いを馳せたのと同様な感情であったかもしれない。
話が逸れたが、アメリカに対する食料の関税の引き上げは、結局今でも大きくないアメリカからの食料輸入の息の根を止めることになりかねず、余りに相手の反感を掻き立てることになるということで採用されなかった。
それより確実に大きなインパクトを与える方法は、アメリカにとって必須の工業材料や製品を差し止めることであるが、これもまた影響が大きすぎるとして採用されなかったのだ。
「それで、今のところの読みでは、余りアメリカへの輸出は減らないだろうということだが?」
首相の言葉に経産大臣の岸が答えた。
「ええ、日本が輸出するものは嗜好性の強いものでして、どちらかというと収入が高い層が購入するもので、25%程度の値上げでは余り売れる量は変わらないだろうという読みです。それでもまず2兆円程度は減る可能性は高いですね」
「ふーん、2兆円か。大きくはないな。たしか、異世界のマダンとジムカクがAE発電所とバッテリー工場を買いたいということでもうすぐ契約だったな?」
大泉首相が聞くのに岸が答える。
「ええ、5年契約で合計4兆円を超えます。また、この両世界にはその他の完成品の輸出品がメジロ押しで商社が飛び回っています。それだけでなく、新地球にも住民が入るということで、巨額の製品が輸出されます。これらの影響を考えると、単年度で3兆円以上の増になってアメリカの輸出減の影響は相殺できるかと」
その言葉に加えて、岸山外務大臣が付けくわえる。
「ご存知のようにリーマン国務長官が辞任しましたし、国務省の大部分の幹部は今言ったようなことは知っておりメジェル大統領に反対しています」
「しかし、このままアメリカが関税の引き上げを発表して、殆ど影響がないことを知ったメジェル大統領は怒り狂うだろう。その場合に彼の打つ手はなにかあるかな?」
大泉の言葉に岸山が応じる。
「外交的には、大統領の過激な言葉で信用を失い始めているアメリカに我が国に対して打てる手は限られているでしょう。ただ、我が国のそばには我が国に不利になることだったら、喜んでやる国がありますからね」
「ううむ。K国と北京政府か。だけど彼らがやれることは知れているだろう?」
首相の言葉に加山防衛大臣が答える。
「首相、北京政府はなるほど距離もありますし、やれることは知れています。しかし、K国は重力エンジン機をどこから手にいれたのか、一応5機持っていますし、なにしろ距離が近いです。問題はアメリカと組むとすれば核爆弾が問題です」
「核!核は使えんだろう。いくら何でも核を使ったら世界で生きてはいけないぞ」
今度は岸が言うが、大泉は顔をしかめて言う。
「うーん。政府として実際は使わんだろうし、使えんよ。しかし、脅しには使えるし、隣国だと必ずしもミサイルでなくとも良い。持ち込みもありうる。そして、アメリカは知らん顔だ」
「しかし、K国が核を持っているというのは不自然です。今日本と対立している状態で、アメリカが渡したことが極めて疑わしいというのは誰しも思います」
岸の言葉に大泉が尚も言う。
「とは言え証拠はない。証拠がなければ突っぱねるのが国際政治の常だ。しかし、それは関税引き上げで我が国が全く痛手を負わなかったときのことだ。今から準備はせんだろう。ただ、我が国としてもK国と北京政府に対しては警戒を強める必要があるな」
5
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる