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閉会式が終わり、表彰式も無事に済んだ。感慨深い勝利だった。団体としての優勝もそうだが、個人戦で負けた相手へのリベンジも果たせた。けれど、それ以上に今は――。
(早乙女に、ちゃんと伝えないと)
周囲の祝福の声を抜けて、体育館の外に出る。廊下の先、少し不安そうに佇んでいる早乙女の姿があった。その顔を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
――ダメだ、緊張する。決勝で一本取った時よりも、ずっと。けれど、逃げるわけにはいかない。
大きく息を吸い込んで、早乙女の前に立った。
「……早乙女」
「あ、七瀬さん、お疲れ様です! すごく、かっこよかったです!」
いつもと変わらない、柔らかな笑顔。だけど、その瞳はどこか揺れているように見える。
少し震えるその声に、ますます覚悟が決まった。
「ありがとな。応援、ちゃんと届いてた」
「え、あ、そ、そうですか? よかった……」
早乙女は耳まで真っ赤にしながら、そわそわと視線を逸らす。
その仕草が可愛くて、余計に緊張してしまう。
(……ダメだ、こんなとこで緊張してどうするんだ、あたしは!)
握りしめた拳に力を込めて、思い切って言った。
「その……早乙女。もう、恋人のふりなんてする必要ないんじゃないかって、言って悪かった」
「……え?」
早乙女の瞳が揺れる。その話題を出してくると思っていなかったのだろう。
その沈黙が、たまらなく怖い。けれど、もう一歩踏み込まないと終われない。
「その、ふりだって言われていたのに、早乙女と過ごしているうちにドキドキしたり、お前のことばかり考えたりして、剣道が弱くなるのが怖かった。でも、あの試合は早乙女がいてくれなかったら勝てなかった。つまり……あたしは……お前が、本当に好きなんだ。だから、その……」
喉がカラカラだ。うまく言葉が出てこない。けれど、ちゃんと目を見て、続ける。
「だから、今度は本当の恋人に、なってほしい」
息を止めたまま、早乙女の返事を待つ。
その瞳が一瞬大きく見開かれて、次の瞬間――。
「……っ、は、はい! あ、あの、私も、七瀬さんのこと、ずっと……!」
早乙女の声は震えていた。
目尻に浮かぶ涙を拭うように、慌てて袖で顔を隠す。
だけど、その頬は綻んでいて、涙でにじんだ瞳はまっすぐにあたしを見ていた。
「私……最初から、本気だったんです。なのに、恥ずかしくて……ふりだなんて言ってしまって……ずっと、本当は……!」
「そ、そうだったのか……」
それを聞いた瞬間、胸の中で何かがはじけた。
安堵と嬉しさと、ちょっとした悔しさで、思わず吹き出してしまいそうになる。
「……なんだよ、そんなの、もっと早く言えよ」
「だ、だって、緊張してしまって……」
思わず、早乙女の頭に手を乗せて、くしゃっと撫でる。早乙女は真っ赤になりながらも、嫌がらずにそのまま受け入れた。その手の感触があまりに愛おしくて、もうどうしようもない。
だから、もう一度、はっきりと伝えた。
「これからは、ふりじゃなくて……ちゃんと、恋人だからな」
「……はい!」
早乙女の笑顔は、今まで見たどの顔よりも幸せそうで。
あたしは、そんな彼女の手をそっと握り返した。
――これからは、ずっとこの手を離さない。
そんな未来を胸に抱いて、あたしは彼女と並んで歩き出した。
(早乙女に、ちゃんと伝えないと)
周囲の祝福の声を抜けて、体育館の外に出る。廊下の先、少し不安そうに佇んでいる早乙女の姿があった。その顔を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
――ダメだ、緊張する。決勝で一本取った時よりも、ずっと。けれど、逃げるわけにはいかない。
大きく息を吸い込んで、早乙女の前に立った。
「……早乙女」
「あ、七瀬さん、お疲れ様です! すごく、かっこよかったです!」
いつもと変わらない、柔らかな笑顔。だけど、その瞳はどこか揺れているように見える。
少し震えるその声に、ますます覚悟が決まった。
「ありがとな。応援、ちゃんと届いてた」
「え、あ、そ、そうですか? よかった……」
早乙女は耳まで真っ赤にしながら、そわそわと視線を逸らす。
その仕草が可愛くて、余計に緊張してしまう。
(……ダメだ、こんなとこで緊張してどうするんだ、あたしは!)
握りしめた拳に力を込めて、思い切って言った。
「その……早乙女。もう、恋人のふりなんてする必要ないんじゃないかって、言って悪かった」
「……え?」
早乙女の瞳が揺れる。その話題を出してくると思っていなかったのだろう。
その沈黙が、たまらなく怖い。けれど、もう一歩踏み込まないと終われない。
「その、ふりだって言われていたのに、早乙女と過ごしているうちにドキドキしたり、お前のことばかり考えたりして、剣道が弱くなるのが怖かった。でも、あの試合は早乙女がいてくれなかったら勝てなかった。つまり……あたしは……お前が、本当に好きなんだ。だから、その……」
喉がカラカラだ。うまく言葉が出てこない。けれど、ちゃんと目を見て、続ける。
「だから、今度は本当の恋人に、なってほしい」
息を止めたまま、早乙女の返事を待つ。
その瞳が一瞬大きく見開かれて、次の瞬間――。
「……っ、は、はい! あ、あの、私も、七瀬さんのこと、ずっと……!」
早乙女の声は震えていた。
目尻に浮かぶ涙を拭うように、慌てて袖で顔を隠す。
だけど、その頬は綻んでいて、涙でにじんだ瞳はまっすぐにあたしを見ていた。
「私……最初から、本気だったんです。なのに、恥ずかしくて……ふりだなんて言ってしまって……ずっと、本当は……!」
「そ、そうだったのか……」
それを聞いた瞬間、胸の中で何かがはじけた。
安堵と嬉しさと、ちょっとした悔しさで、思わず吹き出してしまいそうになる。
「……なんだよ、そんなの、もっと早く言えよ」
「だ、だって、緊張してしまって……」
思わず、早乙女の頭に手を乗せて、くしゃっと撫でる。早乙女は真っ赤になりながらも、嫌がらずにそのまま受け入れた。その手の感触があまりに愛おしくて、もうどうしようもない。
だから、もう一度、はっきりと伝えた。
「これからは、ふりじゃなくて……ちゃんと、恋人だからな」
「……はい!」
早乙女の笑顔は、今まで見たどの顔よりも幸せそうで。
あたしは、そんな彼女の手をそっと握り返した。
――これからは、ずっとこの手を離さない。
そんな未来を胸に抱いて、あたしは彼女と並んで歩き出した。
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