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「家、来てくれる?」
抱擁を解いて尋ねた佳子の声は、いつもより少しだけ低くて、かすかに震えていた。それでも彼女の瞳は迷いを感じさせず、ただまっすぐ佑奈を見つめている。
その言葉が、これまでとは違った意味を含んでいるのは、佑奈にもすぐわかった。心の奥に小さな火を灯すような響きだった。
「……うん」
頷きながら、佳子の差し出した手を握り返す。彼女の手は少しだけ冷たくて、でも握った瞬間にお互いの温度が交わるのがわかった。佳子がそっと私の手を握り直した。二人は何も言わないまま、歩幅を合わせて並んで歩く。
言葉がなくても通じ合えている気がしていた。二人は互いを特別だと想いあっている。それだけで十分だった。
やがて、佳子の家の門が見えてくる。門を開けて、玄関にたどり着く。佳子が鍵を開ける音がやけに大きく響いて、佑奈の鼓動がさらに早くなった。
「ま、まずは……これを返すね」
部屋に通された佑奈は制服のポケットに入れていた一万円札を佳子に返そうとする。しかし佳子は首を横に振った。
「それをあげるから、私のお願いを聞いてほしいの」
その目は真剣で、佑奈は思わず背筋を伸ばしていた。
「そ、それじゃ噂みたいになっちゃう……」
「佑奈も知ってたんだ。でもいいの。その噂、本当にしちゃおう? お願い……キス、して?」
切ないような、はにかんでいるような、その表情が、なによりも美しくて、愛おしくて――佑奈は気づけば胸が熱くなっていた。
「佳子ちゃん……」
名前を呼ぶ声が震える。潤んだ瞳で見つめられ、佑奈の心臓が早鐘のように高鳴る。
「だめ?」
佳子が小さく首を傾げた。その仕草すらも、どうしようもないくらい愛おしくて……佑奈は気づけば、体を前に傾けていた。
「ん……ぅ」
唇が触れる瞬間、頭の中が真っ白になる。柔らかくて、温かくて、ほんのり甘い香りがした。唇が離れても、佑奈は夢見心地の中でただ呆然としていた。
「……佑奈?」
「ご、ごめん、佳子ちゃ……! その、私、いま……」
顔が熱い。心臓の音が耳の奥で響く。何をしてしまったのか、頭では理解しているのに、言葉が出てこない。
「……どうして謝るの?」
佳子の言葉に驚いて顔を上げると、彼女はまた、あの柔らかな笑みを浮かべていた。
「佑奈からしてくれて……嬉しい」
その言葉が、佑奈をクラクラさせる。とうとう立っていることもままならず、膝から崩れ落ちる。
「こんな気持ち、初めてなの。佳子ちゃんが大好きで、どうにかなっちゃいそうなの」
「私だって、佑奈のことが好きだよ」
膝立ちになった佑奈を見下ろすように、佳子の両手が佑奈の頬に触れる。その手をひんやりしていると感じた佑奈は、すぐに自分の頬があまりに熱いのだと自覚した。
「佑奈が初めてだったよ。ねぇ、私からも……していい?」
頬に触れる手が震えていることに佑奈は気付いた。
「――いいよ」
すべてをゆだねるように、佑奈はそっと瞳を閉じた。
抱擁を解いて尋ねた佳子の声は、いつもより少しだけ低くて、かすかに震えていた。それでも彼女の瞳は迷いを感じさせず、ただまっすぐ佑奈を見つめている。
その言葉が、これまでとは違った意味を含んでいるのは、佑奈にもすぐわかった。心の奥に小さな火を灯すような響きだった。
「……うん」
頷きながら、佳子の差し出した手を握り返す。彼女の手は少しだけ冷たくて、でも握った瞬間にお互いの温度が交わるのがわかった。佳子がそっと私の手を握り直した。二人は何も言わないまま、歩幅を合わせて並んで歩く。
言葉がなくても通じ合えている気がしていた。二人は互いを特別だと想いあっている。それだけで十分だった。
やがて、佳子の家の門が見えてくる。門を開けて、玄関にたどり着く。佳子が鍵を開ける音がやけに大きく響いて、佑奈の鼓動がさらに早くなった。
「ま、まずは……これを返すね」
部屋に通された佑奈は制服のポケットに入れていた一万円札を佳子に返そうとする。しかし佳子は首を横に振った。
「それをあげるから、私のお願いを聞いてほしいの」
その目は真剣で、佑奈は思わず背筋を伸ばしていた。
「そ、それじゃ噂みたいになっちゃう……」
「佑奈も知ってたんだ。でもいいの。その噂、本当にしちゃおう? お願い……キス、して?」
切ないような、はにかんでいるような、その表情が、なによりも美しくて、愛おしくて――佑奈は気づけば胸が熱くなっていた。
「佳子ちゃん……」
名前を呼ぶ声が震える。潤んだ瞳で見つめられ、佑奈の心臓が早鐘のように高鳴る。
「だめ?」
佳子が小さく首を傾げた。その仕草すらも、どうしようもないくらい愛おしくて……佑奈は気づけば、体を前に傾けていた。
「ん……ぅ」
唇が触れる瞬間、頭の中が真っ白になる。柔らかくて、温かくて、ほんのり甘い香りがした。唇が離れても、佑奈は夢見心地の中でただ呆然としていた。
「……佑奈?」
「ご、ごめん、佳子ちゃ……! その、私、いま……」
顔が熱い。心臓の音が耳の奥で響く。何をしてしまったのか、頭では理解しているのに、言葉が出てこない。
「……どうして謝るの?」
佳子の言葉に驚いて顔を上げると、彼女はまた、あの柔らかな笑みを浮かべていた。
「佑奈からしてくれて……嬉しい」
その言葉が、佑奈をクラクラさせる。とうとう立っていることもままならず、膝から崩れ落ちる。
「こんな気持ち、初めてなの。佳子ちゃんが大好きで、どうにかなっちゃいそうなの」
「私だって、佑奈のことが好きだよ」
膝立ちになった佑奈を見下ろすように、佳子の両手が佑奈の頬に触れる。その手をひんやりしていると感じた佑奈は、すぐに自分の頬があまりに熱いのだと自覚した。
「佑奈が初めてだったよ。ねぇ、私からも……していい?」
頬に触れる手が震えていることに佑奈は気付いた。
「――いいよ」
すべてをゆだねるように、佑奈はそっと瞳を閉じた。
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