26 / 44
第二部
ライラとフレドリック
しおりを挟む「本当は、お兄様が公爵になって、私とリオが結婚してカレッジ領に、って話も出たんですのよ。リオは優しくて頭もよくてよく遊んでくれましたから、私はそれでも良いと思っていたんですけれど」
「は?」
そんな話題が出たのは、夕食後、父親の執務室でだった。公爵とフレドリック、ライラが執務室にあるソファセットにつき、近況報告を交わしていたらライラがそんなことを言い出した。
「お兄様が継ぎたがらない原因をお父様とお母様から聞いたのが八歳の時ですわ。その時にそういう案を出したのですけど、リオに直接断られてしまって」
「ああ、そういえばそうだったな。ライラは随分リオに遊んでもらっていたから。リオに断られて大泣きしてたな」
「いやだわお父様ったら。まあ実際ショックでしたけど。――ずっと私と仲良しでしたのに、お兄様とリオが仲良しで、私少し嫉妬してしまいます」
それはどっちに嫉妬しているのだろう、とは聞かなかった、フレドリックは賢明なので。
しかしそんな案が持ち上がったとは気づきもしなかった。リオとフレドリックの接触は避けられていたのだし知らせようもないが、少し疎外感だ。そもそもライラの婚約者候補の選定にフレドリックは関わっていない。ただリストを見せられてフレドリックの方に変な噂がないか聞いてくるのみだった。勿論リオが候補に挙がっていてもフレドリックに見せられることはなかったとは思うが、今まで無関心でいたので藪蛇に会話を広げることもなかろうとフレドリックは口を噤んだ。
「本当に、リオも学園に通ってほしかったですわ」
「しかし、少し考えないといけないかもしれないな。特一級機密とはいえ、あそこにはそれなりに人がいたから、秘密裏にリオに接触して絡めとろうとする人間も出てくるかもしれない」
「カレッジ領、いいところですものね」
「――カレッジ領は今後も新たな貴族を入れずに?」
本来ならばウォルターズ領に入れてしまうか王領にしてしまうか、といった事案だ。国も公爵家も頑なにカレッジ領というくくりにこだわっているように思える。
「ああ、リオはカレッジの名を捨ててしまったが、その名を残したいと思っているのは明らかだからな。学園に入っていないが、リオにはそれに準ずる教育を受けさせている。将来的にカレッジ領の代行官として立たせたらどうか、と王は言っていた」
リオは貴族など一人で継ぐことは出来ない、と言っていたが、客観的に見てリオの地頭はそれなりによく、かつて大人だった記憶もあるため、周りの大人たちにはこのまま勉強を続けていれば継いでも問題ないと判断されていた。ライラが八歳、リオが十二歳の時にライラとリオを将来的に結婚させ、カレッジ家の復興をしてもよかろう、という提案が王宮から出たのだ。けれどもそれをすっぱりと断ったのがリオだった。五歳の時の決断を十二歳のリオは覆すことはなかった。けれどもカレッジ領はリオにこそ治めてほしい、というカレッジ家とリオをよく知る人はみな思っていた。――それならリオは代行官を手伝いながらカレッジ領にいたいと言っていたのでリオを代行官にしてしまえばいいだろう、という大人の思惑である。
カレッジ子爵家はこの国の食糧庫として農地を守り続けてきた。子爵家の長男とウォルターズ公爵、また国王も学園の在学がかぶり、血縁関係や婚姻関係において繋がりがあり、私的に仲が良かった、とフレドリックも聞いている。国政の中心にいる年配の者たちの中にはリオの祖父である子爵と親しかったものも多いのだろう。だから彼らの愛し守ってきた土地を、民を、その名を掲げて残して守ろうと決めたのだ。
そんなわけでリオには普通の勉強だと言って貴族並みの教育を受けさせているのである。リオの教育は順調だったが、今回の件でリオがカレッジ家の末裔だということが今までの比ではない人数の前で明るみに出た。国の中枢に関わるものの中には農耕関係で安定して収益を上げているカレッジ領が魅力的に感じ、野心を持つものも多いだろう。国の今までのカレッジ領の扱いと、リオが今いる立ち位置を鑑みて、国が将来カレッジ領をリオに任せたいと思っていることを推察するのは容易だ。そんな将来を持つリオに近づいて親交や婚姻に持ち込めば将来カレッジ領を手中に出来るかもしれない、と考える者も出てくる。
「ただ、騎士の人数を増やしたからと言ってリオについて回るわけにはいかないからな。公爵家から新たな使用人を代行官邸に派遣する準備はしているが……」
問題はリオにどうやって説明するか、である。公爵は未だ結論は出ていないと顔をしかめる。
そんな父を見てフレドリックが手をあげた。
「リオがカレッジ領で領の統治の仕事に従事していくならばこんな案はどうでしょう?」
「――ふむ。それはそれで悪くないな。それならばカレッジ領に護衛を増やしても自然だ。王宮に提案してみよう」
「もう!!お兄様ばっかり!!次の長いお休みには領地に帰りますから、その時は私もリオと遊ばせてくださいませ!!」
フレドリックの提案を聞いた公爵は、少しだけ考えて一つ頷き、ライラは頬を膨らませたのであった。
243
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜
侑
BL
僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。
婚約者・隣国カリスト王国の辺境伯家、リリアナの社交界デビューに付き添うため、隣国の王都に足を踏み入れた。
しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。
王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。
転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。
リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて……
婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。
仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。
2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します
市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。
四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。
だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。
自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。
※性描写あり。他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる